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読書日記*二度読み必至の2冊

小説の人称について考えさせられた本を2冊紹介します。
一人称は「私は」「俺が」な視点からの文章。
三人称は客観的な視点に基づいて語られる文章。
この2冊はまさに視点を利用して、いい意味で騙された本でした。

『あちらにいる鬼』 井上 荒野

父と母そして瀬戸内寂聴をモデルに逃れようもなく交じり合う三人の特別な関係を、長女である井上荒野が描き切った衝撃作。
小説家の「みはる(寂聴視点)」と「笙子(不倫相手である井上光晴の妻視点)」で同じ時間を二者の視点で描かれている。

一方の「笙子」の視点の部分は、なんと厳しいのだろうと、こちらも驚く。「みはる」の部分と同じ作者の文章なのであるから、どちらの部分の語彙も表現も井上荒野そのひとのものに他ならないのに、「笙子」の部分は、たゆたいや心のほころびのある「みはる」の部分にくらべ、まるで鋭い刃物を常にどこかに向けているような緊張感に満ちている。

P348解説の川上弘美さんの文より

読み終わったあと、すぐまた戻ってそれぞれの視点で読み返した。「笙子」は妻で母親の視点から「みはる」を見ている。「みはる」は適度な距離を保ったまま、愛人として不倫相手の妻を見る。
そして作者である井上荒野の描写を考える。父と母と、父の恋人だった人を。

いくつもの変奏のように、小説の中には自分が、そして自分の気にかかる何かが、何回でもあらわれる。その変奏に正面から向き合った作品が書けたとき、ようやく小説家はそのテーマと決別できるのではないだろうか。

P350解説の川上弘美さんの文より

父も母も、父の愛人だった人も、もうこの世にはいない作者が、生前の瀬戸内寂聴に取材をして書いた小説。みごとな変奏のハーモニーが流れていた。

※追記
井上荒野さんの記事を見つけたので貼っておきます

『女王はかえらない』 降田 天

選考委員も驚いた!『このミステリーがすごい』大賞受賞作。
「後半のつるべ打ち(どんでん返しの連続)は意外性満点」
「前半の抗争篇もよくできているが、後半に驚愕の仕掛けが!」
「子どもたちの心理と表情を見事にとらえた、その筆力……に騙された!」
「二段仕立てのトリッキーなプロットに、驚嘆する読者も少なくないだろう」
そんな言葉が帯に並ぶこのミステリーは、二人からなる作家ユニットが降田天として書いている。
3部構成の中のそれぞれの視点に見事に騙された。
そして思わず二度読みする。
あちこちに仕掛けられた罠が、読み返すと浮き出てきて、驚愕する。
あっという間に(夜と朝に分けて6時間ぐらいで)読み切った本。
なぜ『女王はかえらない』とひらがななのか。最後のページまで驚きながら、わたしはまた二度読みする。




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