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お盆の灯火*ショートストーリー【SideB】

こばなし。【sideA】と【sideB】があります。
今回は【sideB】
イニシエーションラブ的ではなく(笑)
【sideA】エイタと【sideB】びいこの物語です。
あ、でもレコードのA面とB面みたいな話が書けたらいいなあと思いました。

ほんのり#もしスキがお金だったら
【sideA】から読んでいただけるとうれしいです。

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「面会の予約をお願いします」

”私の”初盆になるこの夏。
生きてた世界で”会いたい人と少しだけ話すことができる”と冥界案内人から聞いた。
話したい人がいれば、”スキ”を払って会いにいける。

冥界案内人が言うには、お盆の時期は毎年、生きてる人がいる世界に帰ることができるけど、話をするのは初盆しかできないという。
話ができるのはひとりだけ。

わたしは1年前の夏の夜、死んだように眠ったらそのまま永遠に眠ってしまった。自分でも信じられなかった。
自分のお葬式をドラマのように見ていた。
「びいこは最近、職場の人間関係に悩んでました」
「眠れないと言ってました」
なんて、みんなが口々に勝手なことを言うのを聞いていた。

いくら「わたしはここにいる!」とわかってもらおうとモノを落としてみたり、風を吹かせても気がついてくれない。
その時、観念した。
もうわたしは生きていない。

ならばせめて、大事な人たちがわたしと同じような想いのまま、死んでほしくなかった。人は必ず死ぬんだ。
だったら楽しく生き抜いてほしい。

わたしは生きている頃、現実が厳しいことに不満ばかりだった。
人間関係の不満や”スキ”のために行動することや、自分に自信がなくて怖気づいて好きな人に好きだと言えなかったこと。
人に合わせてばかりで、自分が主張したいことは飲み込んでしまっていたこと。
後悔してるわけじゃないけど、なんで”怖くてもやってみよう”と思わなかったのかと思う。

だからこの初盆しかないチャンス。
冥界案内人に連絡をとった。
「エイタと話がしたいです。」

わたしのことを生きているうちに”びいこ”と呼んでくれる人はひとりだけ。
幼馴染のエイタだけだった。
エイタは優しさがあまりにも強いHSPという性格。
わたしと一緒。だから小さい頃から、話が合ってよくおしゃべりをした。

親とはいつでも話ができる気がした。
もうすぐこっちで会えるかもしれないし。

だけどエイタは今このチャンスを逃したら、彼の一生はずっと自分責めのままの、わたしみたいになってしまう気がした。
わたしのように何もしないまま、エイタとこっち(あの世)で会うのはイヤだ。

冥界案内人はBarのマスターの姿をした神さま。

神さまが「びいこに会いたい」とエイタに思わせてくれた。
神さまは直感という”ささやき”ができるらしい。

神さまはいろんな人の人生を我が子のように見守ってくれている。
もちろんわたしのこともね。

「マスター。
エイタと会う時間を延長したりできないの?」

「それはあなたの気もち次第ですが、お相手の考えに合わせたキャンドルを私が用意しますよ。長い時間かけて説得したところでわかっていただけないこともあります。面会したい方のお気もちは、あなたにはまだ分かりかねるところもあるでしょうから、安心しておまかせください。」

そんなことを話していると扉が開いてエイタが入ってきた。
エイタがマスターと話をしてる。
ビール飲んだらいい顔したっ!
あれ、わたしも飲みたいっ!

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「うわ!びっくりした!おまえいつ来たんだっ。…ていうか変わんねえな。」
エイタが言って、わたしが見えてることがわかったら、もううれしくてニタニタしちゃった。

で。それから神さまの用意したキャンドルの炎が消えるまで、つかの間の時間。そう。わたしにとっての久しぶりの時間体験。わくわくするー。
なんだかゲームみたい。
この”ゲーム”が負けたり失敗するからこそ面白いことが、エイタもわかってくれればいいのに。
いつも勝ち続けるゲームはちっとも楽しくないんだよ。
ゲームに勝つためにどうすればいいかを考えるのが、生き抜くってことじゃない?

もうすぐ炎が消えるというとき、奥の手を出した。
神さまが教えてくれていた秘技”入れ替わり作戦”

わたしはエイタのカラダと入れ替わった。
重い!重力を感じる。
生まれてきたとき泣くのはこの重力を感じるから?
負けないわ。
わたしにとっても1度きりのチャンス。生きる……。

エイタがあの世体験をしているうちに、ビールを飲み干した。
うまーーーーーっ。
あ、神さまが大笑いしてる。

へへへ。エイタはもうだいじょうぶだよね。
わたしたちがいつも見守ってるもんね。

キャンドルの炎が消えて
またわたしの姿は見えなくなったみたい。

でもエイタの目の色が穏やかに変わったから安心した。
これでわたしも、もっとあっけらかんとあの世生活を楽しめるかも。

カラカラと笑いながら風を吹かせた。
あのBarにはいつでも行ける。
また話そうね。エイタ。

あ、それからマスターは神さまだけど
死神だから気をつけてね。

【sideB】おしまい

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26歳で眠ったまま星になった未来(みく)ちゃんに捧げます。

マスターの話も近日公開予定です。

▼【sideA】はこちらから

#もしスキがお金だったら企画概要



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