見出し画像

秋の夜長に桐野夏生さんの“I’m sorry,mama” はいかがでしょうか。

古い友人に1日一人は人が死なないと気が済まない、という人がいます。もちろんミステリー小説の中での話です。かつては深窓の御令嬢で今は名家の大奥様です。ご一緒するのが気恥ずかしくなるほどの丁寧なお話しの仕方をなさいます。その上ヨーロッパの言語に通じ、待ち合わせの時も原書で小説を読んでおられたりします。

片やベッドタイムにほっこりする小説だけを選んで読む友人もいます。ごきげんママ♡はどちらかと言うとそちら派。いい夢がみられそうですから。でもエッセイやビジネス書も時々読みます。ともかく怖いのは極力避けています。

YouTubeを倍速で見る機能を最近よく使いますがそれは情報や知識系に限ります。音楽やヨガなどを早送りしたら全然意味がありません。それと同じことで、速読に向く本とじっくり味わう本があります。ごきげんママ♡はどんな作品も急いで読みがちなのでこのところ小説は心してスピードを落として読むようにしています。

そのきっかけは俵万智さんが小学生の頃多読速読をお母様に窘められて以来、冊数を減らし厳選した本を大事に繰り返し読むようになったと書かれていたことです。そして今回ある友人が何度も読み返したい本として勧めてくれたのが桐野夏生さんの”I’m sorry,mama”だったのです。

小説を読む一つの効用として、現実をしばし忘れる、というのがあると思います。本当にこの話が現実でなくて良かった。ここまで性格が歪み堕落した人生を歩む人が現実にいたらどうしましょう。たまにニュースで凶悪犯のことが報道されますがなかなかこれだけ犯罪を重ねる人はお目に掛かれません。

アイ子という主人公を取り巻く登場人物の中でほぼ一人もまともな人は出てきません。一人一人の邪悪さを描く著者の筆力にはひたすら脱帽です。

166ページから引用してみます。

「母さん」が車に轢かれて即死した日、あたしは自由になった。他人の死は自分を自由にするってことがわかったのも、あの日だ。他人の死は、ノートを真っ白に変える消しゴム。あたしは消しゴムの使い方がうまい。

という具合です。ここにある「母さん」はアイ子の本当のお母さんではありません。

もし現実にアイ子に近い境遇の子がいたら誰か手を差し伸べてほしいです。怖いもの見たさで読み始めた本ですが、ページをめくらずにはいられませんでした。気になる方はどうぞ読んでみてください。本の表紙の白い靴も大変重要なモチーフになっています。さすが桐野夏生さん、とてもよくできた物語でした。






この記事が参加している募集

#読書感想文

188,902件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?