見出し画像

立花隆著『知の旅は終わらない』を読むと人生はやっぱり旅だった。

ごきげんママ♡は繰り返し書くようにあまり勉強をしてきませんでした。そのコンプレックスのせいで、知的な人へ無条件の憧れがあります。その象徴のような方が立花隆さんではないでしょうか。この方の頭の中はどうなっているのか、覗いてみたくなりました。期待通りこの本は知的好奇心を満たすにはぴったりの多岐にわたる内容になっています。

まず、タイトルの「旅」という言葉がいいです。今は自由に旅に出かけることはできないけど人生そのものがいっときの旅。一冊の小説を読むのも小さな旅。知の旅ならステイホームにぴったり。

冒頭は北京からの引き揚げ体験。やはりあの時代を経験した人は強靭です。その後の人生観に決定的な影響があります。海外への敷居の低さもそこに由来していそうです。読み進めるとまだ海外旅行が珍しい東大生のころ半年ヨーロッパを訪問され、人生最大の勉強になったと書かれています。

知らない国の女の子と仲良くなるには「あなたの国の言葉でI love youは何といえばよいか」訊くことだそう。時々軟派です。渡航資金をかき集めてがむしゃらにヨーロッパ文化と思想を吸収された様子に、エネルギーの塊を感じました。3万冊の本を読まれたと表紙にありますが、それより実体験というのが立花流。

意外かもしれませんが大学でのご専門は仏文学で、小説もお書きになっていたそうで、そのあと週刊文春の記者となられました。その時に一流の学者さんたちに取材されたときに準備していくと引き出せる話の質と量が増え、知の世界の広がりと深さが見えたとのこと、今話題の質問力にも通じる話です。

150ページには

すべての人の現在は、結局その人が過去に経験したことの集大成としてある。その人がかつて読んだり、見たり、聞いたりして、考え、感じたすべてのこと、誰かと交わした印象深い会話のすべて、心の中で自問自答したことのすべてが、その人のもっとも本質的な現存在を構成する。

151ページには


旅の意味をもう少し拡張して、人の日常生活ですら無数の小さな旅の集積ととらえるなら、人は無数の小さな旅の、あるいは「大きな旅の無数の小さな構成要素」がもたらす小さな変化の集積体として常住不断の変化を遂げつつある存在といえる。

とあります。私たちは過去の経験の集大成であり、また日々見るもの聞くものによって変化し続けているのですね。

田中角栄の研究で有名な立花さんですが、その20年間をくだらないことに熱中したとご自分で書いていらっしゃいます。権力闘争よりほかにもっと知的欲求を満たすものとして扱われたのが宇宙の研究、サル学、脳死など。サルの男女交際のくだりも面白すぎてここには欠けないのでよろしければ書籍にあたってくださいませ。

昭和から平成、令和の現代史の大事件もあれこれ思い出されました。その一つ、札幌医大の心臓移植の疑惑のことは今回改めて全容を知り背筋が凍りました。まだ生きている命から心臓を取り出し、移植を必要とまでしていなかった人に移植して拒絶反応が起きて二つの命が失われた可能性があるというのですから。

近年ご本人もがんで闘病されていますが、先妻さんのがんの看取りをなさったところなど、お人柄もとても魅力的な方だと感じました。利根川進博士や筑紫哲也さん、作曲家の武満徹さんほか、世界中の天才たちとの熱い交流も読んでいて大変面白いです。それらはすべて著者の人となりのなせる業。友達は鏡というのは本当ですね。

お母さまが熱心なクリスチャンだったということが世俗や権力を恐れたことがないと言い切る立花さんの原点なのでしょう。周りの目を気にせず真実を見続ける姿勢はかっこいいです。これからもご活躍していただきたいです。書ききれなかった歴史や政治や科学などなどのお話にご興味を持たれた方は是非一読をお勧めします。人生の旅が一層ゆたかになる一冊です。


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,902件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?