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ショパンを聴きに行ってバッハに魅せられて帰ってくる

サントリーホールで初めて開かれた務川慧悟さんのリサイタルは彗星のように現れたというしかないほど素晴らしいものだった。ピアノに詳しい友人がとってくれた席はパイプオルガン側の最前列で華麗な指先から繊細なペダルを踏む靴まで目の前で見られるとっておきの場所。

はじめに務川さんを知ったのは反田恭平さんのピアノ練習の傍らにおられた映像。僕はもっとここはこうだと思う、と意見を述べられている若い男性にただならぬものを感じた。それもそのはず、東京芸大を出られてエリザベート音楽コンクールで3位を取られた名ピアニストだったから。この日はオールショパンということで期待も大きく出向いた。

入った途端クリスマスの装飾を施されたホールに気持ちがぐっと華やぐ。


ロビーには華道家假屋崎省吾の作品がひときわ目を引く華麗さで飾られていた。

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さて、本題のプログラムは

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解説によるとショパンが作曲した年代順に構成されている。若い頃は明るく壮年になるにつれて暗く重々しくなっているように感じる。私が次に弾きたいと思っているノクターンの遺作も演奏してくださるというので全身を耳にして聴き入った。

とても近い席なので入場してこられるところはもとより、ハンカチを置かれるところや息遣い、おみ足を大きく上げられるところまで間近で見られた。

中でも圧巻だと思ったのがスケルツォ。繰り返しが多い曲があっという間に感じるくらいのスピードと高揚。冒頭の低音は存分に重く、歌わせるところやきらめくところなど、表現力が素晴らしい。「スケルツォ」とは冗談という意味があるそうだが、冗談ではないテクニック。

ソナタ3番もまだ日本でのソロデビューというのに円熟した演奏で、それぞれの楽章の特徴が際立ち最終章の華やかさに拍手が鳴りやまなかった。満席の観客の全員が大満足の公演だったと思う。

何度もアンコールがかかり、ショパンの初期のブーレを弾いた後マイクを持って登場。若々しい律義さでご挨拶してくださる。そして紹介された最後の曲がバッハのフランス組曲だった。

家でショパンのノクターンとバッハのインベンションを練習している私にとっては思いもよらない最高の組み合わせ。ショパンがバッハを敬愛していたことを恥ずかしながらこの日初めて知りました。その組曲はインベンションより少し可愛らしいトリルが響く素敵な一曲で、またこれから弾きたい曲が増えた。興奮冷めやらず、ホールから出ることができなかった。

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帰り道のおまけに六本木のライトアップとほぼ満月がこの日を締め括った。

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忘れられない12月の思い出がまた増えました。

こちらは穏やかな冬の日です。皆様もどうぞよい1日をお過ごしください。


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