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手紙ですべてを語る、しをんさんの筆力に感服~『ののはな通信』(三浦しをん)~

*この記事は、2019年7月のブログの記事を再構成したものです。


「のの」と「はな」の互いへの手紙だけで構成されたこの作品は、男性にとっては理解できない、ひょっとしたら完読すらできないものかもしれません。何というか、女の子同士の、何とも言えない執着が描かれているので。

↑kindle版


第1部・第2部はメールがなかった時代の手紙、いわゆる郵政省メール(この言い方、短期間で消えた気がしますが)と、授業中の手紙で構成されています。私は主人公二人よりは年下ですが、「分かる分かる」と思いました。

さんざん学校で話しているのに(授業中の手紙も使って)、そして家に帰ってから電話もするのに、夜に書いた手紙を翌日渡す、なんていうことも確かにやりましたよ。ただし、ののたちと違い、授業がある期間に郵政省メール(あえて使う)、しかも速達を出すなどということまでは、しませんでしたが。


第3部・第4部では二人のやり取りはメールになりますが、ちゃんと手紙時代の文章との違いが、説明できないレベルで表れているのですよ。しをんさん、すごい!


女の子同士が、互いだけが自分のことを理解してくれる相手だと思い、そのくせちょっと何かがすれ違うと離れ、でもまた何かのきっかけに密接になる。その状態がリアルに描かれています。


感心したのは、はなが分からない言葉は辞書を引いて調べること。もちろん電子辞書でも、ましてやネットでもなく、紙の辞書です。その手間を、手間とも考えなかった時代から、そんなに経っていないはずなのにね。


はなが外交官夫人の仕事について語る部分を読み、一見華やかに見える彼女たちの隠れた苦労を知り、ちょっと見直しました。とはいえ、とても私にはついていけない世界ですが。


はなの最終的な選択に感じたのは、中高生時代に友人や学校から受けた影響の大きさ。「学校」というのは、そこで教える知識というより、教育方針とか建学の精神という意味です。しかもそれを、学んだ側は必ずしも自覚していないのに、間違いなく影響するんだなと思いました。


1984年春から2011年春までの時代背景も巧みに盛り込まれており、改めて三浦しをんは筆力のある作家だと思いました。全文手紙の形式で、しかも不自然に説明してしまうこともなく、背景の事情も描写できているところがすごいです。


見出し画像には、何といっても作品中、手紙が大きい役割を果たすので、可愛いお手紙のイラストを拝借いたしました。


↑文庫版



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