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テーマはアレロパシー~『香君 下 遥かな道』(上橋菜穂子~~

下巻の方がページ数が多かったにもかかわらず、上巻より早く3日間ほどで読了しました。場面によっては、もう少し書き込んでも良いのではと思うほど展開が早く、どんどん読み進めることができました。

↑kindle版


いろいろ思うことはあったのですが、とりあえず印象に残った言葉だけを記録しておき、時間のある時に感想は補いたいと思います。


「万象とは、そういうもの――雨や虫のように、必ずしも人にとって利益ばかりではないもの――が満ちて、動いているすべてのことをいうのです。香君さまが見ておられるのは神々が生み出したこの世の摂理です。人にとっての利益ではありません。それだけを見てしまえば、万象が歪み、巡り巡って、人にもまた害が生じるからです」

(p.182)


生き延びるという、最も大切なことを行うときにすら、人という生き物は様々な思惑にとらわれ、戸惑い、迷い、決断するまでに時間がかかる。危機感を共有することすら難しい。(中略)
(……でも)
人には、こういう力もあるのだ。
知識や経験から推論を導き、考え、希望を見出す力が。

p.226

「「偽りの権威で騙すのは卑劣な行為だと、俺も思う。だが、騙される方には、まったく罪はないんだろうかな。(中略)彼らの心の中には、騙されたい、と思う気持ちが潜んでいるのだと俺は思う。騙されたままでいられたら、香君に預けてしまえるからな。様々なものを。(中略)天災に見舞われたとき、人は怒りをぶつける対象を探す。自分ではどうしようもないことが起きたとき、誰かに責任をとらせたいと願う。そいつのせいで和沢氏が起きたのだ、と思うことができれば、楽になれるからだ。(中略)そうやって楽になろうとする者は、卑劣ではないのか? 天災がなぜ起きたのか、どうすれば自分と他者を救えるのか必死に考え、己の力を尽くして生き延びようと努めることなく、神に責任を預けてしまう者は、卑劣ではないと君は思うか?」

p.328~329


人々が、自らの意思、自らの責任で、未来を選ぶ道

p.406


「私、自分が知り得たことを、多くの人に伝えておきたいのです。――みんなが自分で判断できるように。自分の行動が何に繋がり、どんな結果をもたらすのか、想像できるように。(中略)知識さえあれば、辺境の農夫たちだって、自分たちの未来を、自分たちで救えたかもしれない」

p.430


植物から放出された物質が、他の植物や昆虫、微生物、小動物、そして、人間にも何らかの影響を及ぼす現象、アレロパシー。

p.454

これって、NHKの「超進化論」のシリーズで描かれていたことであり、そして『香君』はこの現象をモチーフに描かれたのですね。


ネタバレを避けるために書けませんが、結構いろいろ謎を残したまま終わったので、この続きの作品が書かれるのかもしれません。まぁこれで完結でも良いのかもしれませんが。

見出し画像には、稲の写真を使わせていただきました。


↑単行本



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