見出し画像

【読書】現代世界に通じるテーマ~『香君 上 西から来た少女』(上橋菜穂子)~

図書館で予約していた『香君』の順番が、ようやく回ってきました。予想より厚めの上下巻で、これを期限の2週間以内に読み終わるだろうかと不安になりました。でもこれまでの上橋さんの作品より読みやすく、上巻は5日間で読めたので、何とかなりそうです。


↑kindle版


これまでの「獣の奏者」シリーズや「守り人」シリーズ同様、異世界を舞台にしたファンタジーです。ファンタジーでありながら、現代世界とリンクするテーマが出てくるという点では、「鹿の王」シリーズと通じるものがあります。


まず主人公のアイシャは、香りを音として感じられるほど匂いへの感覚が鋭い少女ですが、感覚過敏ともとれます。でもその感覚に苦しめられるだけではなく、それを人々を救うことに使おうとして奮闘するわけですが。


そしてオアレ稲は、種籾をとれないってことは、現代のF1(一代交配種)を思わせます。寒さや病害虫に強く、収穫量も多いけれど、種籾はすべて帝国から下されるというのも、現代の農家がグローバル種苗会社によって開発された種苗を買わざるをえない状況とも重なります。


また、病害虫に強いはずのオアレ稲に、普通のヨマとは違うオオヨマが付き、飢饉へと繋がっていくわけですが、それって普通のバッタ(イナゴ) が変異を起こしたトビバッタが引き起こす蝗害のことでしょう。オオヨマの発生を未然に防ぐ対策が昔からとられていたのに、手間や費用を惜しんでやり方を簡略化したため、被害が出てしまうというのも、何となく現代世界の風刺っぽいです。

<追記>
下巻でバッタ(に似た虫)がオオヨマを食べるシーンが出てくるので、オオヨマをトビバッタになぞらえたのは、間違いでした。


もちろん、かといって現代世界を風刺した説教臭いファンタジー作品というわけではなく、純粋に物語として面白いです。5日間で読んだと書きましたが、読む時間さえ取れれば、多分3日くらいで読めたと思います。

下巻を読むのが楽しみです。


見出し画像には、イナゴの写真を使わせていただきました。


↑単行本



この記事が参加している募集

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。