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現実の変革、その試演

現実の変革、その試演

当月の観る会はウェス・アンダーソンの新作『アステロイド・シティ』を。これまでに十本を数える彼の過去作より、さらにもう数段ギアを上げたような、いわば挑戦作であったと感じた。毎作お馴染みともなっている"演じる"シーン、今回はその立ち位置が作品の大部分を占めるという構成に。虚実の境界線をハッキリと設け、なぜ演じる一一延いてはなぜ創作を行うのか、そんな問いに対し極めて自己言及的に応答する。

以前、同監督

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いざヴェニスにて死なむ

いざヴェニスにて死なむ

トーマス・マン原作でヴィスコンティ監督作品の映画『ヴェニスに死す』を観た。老いた作曲家が偶然目にした美少年に心酔し、苦しみ、悶え、そして死に至るまでの始終。

主人公が放つ痛々しさすら感じるほどの哀愁、稲妻の如き"美"に触れた際の痺れ、そして"生きる"ということの滑稽さと死の輝き。私の胸を打つには十分過ぎる。鑑賞後はどこかうわの空になっていた。

老人と美少年という言わばアンバランスにも映る関係で

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人間って計り知れないですね

人間って計り知れないですね

ディック・ロングがなぜ死んだのかは、劇場公開当初より気になっていたことで。それでも評判だけみてスルー、配信サービスで見掛けたときに思い出しては、ふと疑問が湧くというくらいのことであった。

そんな『ディック・ロングはなぜ死んだのか?(2019)』をやっとこさ鑑賞。スタジオはA24、ダニエル・シャイナート監督作。数年前に観た『スイス・アーミー・マン(2016)』、こちらは未鑑賞だが先の賞レースを賑わ

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パルプ・フィクション-偶然に宿るもの-

パルプ・フィクション-偶然に宿るもの-

〈観る会(会員2名)〉の開催も6度目を数える。今回の作品は『パルプ・フィクション』である。劇場での鑑賞は初めて。私の大好きな作品のひとつである。1週間の限定公開を逃す訳にはいくまい。

今回の鑑賞までこの映画に対する"好き"は、恐らくであるが、全編を通じて漂うどこか"クール"な空気感によるものだった。身の無いようであるような、それでもやはり薄っぺらい会話劇。作中の出来事に対してどこか無関心を貫いて

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ゴードンは生きていた!

ゴードンは生きていた!

『フラッシュ・ゴードン』を観た。あぁ、凄く元気が出た。そこにはなんの悲壮感も無ければなんの緊張感も無い。映像を観ているだけだ。それでもこれだけは言える。本作は紛れもなくホンモノの作品である。

アメフト界のヒーローが宇宙を救う物語。どうしようもないくらいに面白くない。ラストの大円団に至るまでの流れに関しては、本当に何が起きたのか分からなかった。理解が介在する隙を与えない、急展開とも言い難い只管に意

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ゴジラ-1.0

ゴジラ-1.0

主題はゴジラなる存在、というよりも"いのち大事にしようね"であった。軽いように聞こえてはしまうが、実際そんなものである。そのメッセージを効果的に伝えるための、戦後という舞台設定であり、同じくゴジラという舞台装置だったのではなかろうか。ご都合主義等の批判はこの期に及んでは的外れであって、物語の展開は先の主題に添えられたに過ぎない。ラストシーンを考えてみると明らかだろう。かけがえのない人のいのちと、取

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人間たるもの

人間たるもの

今月の〈観る会〉はジャン・ユスターシュ映画祭より『わるい仲間/サンタクロースの眼は青い』を。両作ともに人間の不在を描きつつも、登場する主な人物らは総じて人間らしく映し出される。ある種のデカダンスに支配された都市と個人主義の誤謬、そして浮遊する人々一一

その切り取り方は秀逸で、アノニマスな視線は相互に行き来する。殊に『サンタクロース一』においては自らを閉じ込める意味でのクローズが主題のひとつとし

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ヘイトフル!

ヘイトフル!

昨日の夜、タランティーノの『ヘイトフル・エイト』を観たよ。流石に長くて疲れはしたけれどね。もともと、彼の映画は盲目的に好きでさ。凄惨で不謹慎で痛々しいって具合の、謂う所の"不快感を齎す描写"をゲラゲラ笑いながら観れてしまうの。

これが現実世界の向こう側、というより虚構の真髄でないのか、なんて思うんだ。最後の"殺し"のシーンなんて無茶苦茶に笑ったし、拍手もしたいくらいだったよ。直視できない人も少な

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賭したもの

賭したもの

ポール・シュレイダー監督作、マーティン・スコセッシ製作の『カード・カウンター』を観た。本国より凡そ二年遅れての国内上映。大方の予想とは異なり、本作の主人公がベットしたのはゲームでなく、ある青年に、であった。

ゆえにカジノを舞台として、手に汗握る高度な知能戦、心理戦が繰り広げられることはなく、形勢がひっくり返るカタルシスなども勿論ない。彼にとってカジノゲームは"賭け"と言うより、むしろ"計算"であ

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同志を探しています

同志を探しています

あれれ、こんなに凄まじい作品だったっけな。純粋な"面白さ"、或いは"楽しさ"は初めて観たときと変わらないにしろ、180°も違う角度から突き刺された。キャッチーな可愛さに溢れた映画などというものではなかった。そう見えたかに思える"映像"は、ドス黒い現実を取り繕うかのような視覚表現でしかなかったのだ。

今月の〈観る会〉はウェス・アンダーソン監督作品『ムーンライズ・キングダム(2013)』を。これまで

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バビロンについて語らせておくれ

バビロンについて語らせておくれ

何たる、何たる作品。禁じ手とも言えようラストのカタルシス、そして〈見せ方〉の極致。酸いも甘いも噛み分けた映画への愚直な愛情は偏愛といっても差し支えないであろう。余韻の二日酔いになってしまいそうだ。

私の大好きな映画作品のひとつでもある『カイロの紫のバラ(1985)』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)』、『ニュー・シネマ・パラダイス(1989)』と同様のメッセージ性。

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