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人間って計り知れないですね

ディック・ロングがなぜ死んだのかは、劇場公開当初より気になっていたことで。それでも評判だけみてスルー、配信サービスで見掛けたときに思い出しては、ふと疑問が湧くというくらいのことであった。

(C)2018 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

そんな『ディック・ロングはなぜ死んだのか?(2019)』をやっとこさ鑑賞。スタジオはA24、ダニエル・シャイナート監督作。数年前に観た『スイス・アーミー・マン(2016)』、こちらは未鑑賞だが先の賞レースを賑わした通称『エブエブ(2022)』を連想。

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そんなところで本作のお話に戻りはするけれど、とにかく撮るのがお上手で。魅せ方次第では"人間"というものに迫る、いわば重厚な作品にも出来たのだろうが、全編を通じて間の抜けたコメディ仕立てとなっている。その映像の美しさ、こだわりとのギャップが本当に面白い。

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彼らの秘めたる欲求は社会、或いは共同体から排斥、忌避されるものであって、その欲求が動かせない罪と重なったとき、それまで被り続けてきた"普通"の皮が剥がれ始める。人間社会というものの危うさとも取れる、このテーマ性は"笑い"なしでは些か重すぎる。

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見方を変えてみよう。「無意味さ、戯れがはっきり感じられるときに笑いは生起する」とバタイユは言った。ある種の超越には"笑い"が伴って然るべきなのかもしれない。作品の終幕近くに放たれた、このセリフに全ては集約されているのではなかろうか。

人間って計り知れないですね
そうまとめる以外 言葉が見付からない

とすると、だ。本作を単なる"悪ふざけ"映画と位置付けるのは拙速に過ぎるというわけで。"深淵との遭遇"くらいの真摯な気持ちを胸に、作中のお馬鹿なオッサンらを見つめてやりたいものである。それだけ。

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