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雨のない国【短編小説・7600字】

 彼の恋の終わりには、必ず雨が降る。晴天の日を選んで告白しても、予報になかった夕立にやられる。なんとか実って続いた恋の終わりに彼女から引導を渡される時も、今のところ降水確率100パーセントだという。

 そんな彼からのメッセージを私のスマホが受信したとき、外はドラマチックな大雨で、ああまたフラれて降られちゃったのかな、と思った。ある意味、恋多き男。惚れっぽいともいうのか。フラれる度、大学時代のサークル仲間で集まり、彼の失恋をダシに飲み会をする。

 すぐ通話で折り返すと、少し事情が違った。

『いまオマエんちの近くまで営業で来てたんだけど、降られちゃってさあ。ちょっとそっち寄ってもいい?』

 金曜日の夕方、もうすぐ7時。なんの予定もなくウチにいた私は、大急ぎで部屋を片付け、もう少しだけマシな部屋着に着替えた。ウキウキと。

 リモート飲み会が多くなる前、何度も飲み会の会場になったことのある我が家は、駅から遠いために家賃が手頃な2DK。小さなベッドルームをひと部屋と数える代わりに、もうひと部屋はなかなかの広さで、会場としては好評だった。私は独身女子の優雅なひとり暮らしで、家族や同居人への気兼ねもいらない。彼もみんなも、ウチまで道に迷わず来れるようになっていた。

 ウキウキ。そりゃするでしょ、仲間の集まりじゃなく、彼だけがウチに来るなんて。彼は私の、長年の片思いの相手なんですし。

*+*+*

 到着した彼の後ろで、玄関のドアがガシャンと音を立てて閉まる。彼は雨水を滴らせたビニール傘と、コンビニ袋二つとビジネス用の大きめのカバンを手にしていた。
「やーまいった、ここまでひどくなるとは思ってなかった」
 傘をドアノブに引っ掛けてカギを閉め、カバンを足元にドサリと置く。

「この上に置きなよ」とフローリングの床にゴミ袋を広げたけれど、その上にはコンビニ袋のみが置かれた。タオルを渡すと、腕に張り付いたワイシャツから拭きはじめる。

「上下とも下着までやられたよ」
「お風呂入る? あーでも着替えがないか……」
「実はパンツと靴下、コンビニで買って来た。風呂借りるね」

 ガサゴソとコンビニ袋から、袋の中身を床に並べ出す。ボトルワインの赤と白、6Pチーズ、サキイカにポテトチップス、ミックスナッツ、チョコレート、それと靴下とパンツ。

「飲む気満々なことはわかった」
「いや、純粋に差し入れですよ? でも、お持たせでアレなんですがー、ってなるよね?」
 ニヤリと笑って、彼はパンツ片手に風呂場へと消えた。

 玄関のカバンの水気を拭きとり、靴に古いタオルを詰めた。カーテンレールに彼のスーツパンツとワイシャツ、アンダーシャツを干し、扇風機を当てる。パンツと靴下は洗濯ピンチを貸して、風呂場に干してもらった。持って帰るまでに、少しでも水を飛ばしておいた方がいい。ウチの洗濯機に乾燥機能がついていればよかったんだけど。

 腰にバスタオルを巻き、頭を別のタオルでガシガシと拭きながら、彼は部屋に入って来た。

「あー濡れた靴とか服、サンキュ」
「あのさ、ちょっと思いついちゃったんだけど」

 そう言って私は、スマホの画面、ブラウザの検索結果を彼に見せる。

「シーツ、古代ローマ人? ああ、ローマ人の服か」
「トガって言うらしい。着替えはないけど、シーツならあるからさ」

 シーツでトガを作る方法を試したのだけど、結果から言うと、シングルのボックスシーツでそれは難しかった。長さが足りないのだ。しょうがないので、シーツの端と端を結んで、腕は出すようにして肩から斜め掛けにし、開いた体の側面を上手く隠しながらスーツ用のベルトで固定。ベルトが見えないようシーツを引き出して彼の膝小僧が丸見えになったところで、スマホのシャッターを切った。

「ぶはははははっ! 後でみんなに送ろうね」
「えええ、ちょっと見せてみろよ……あれ、意外とイケてるかな」
「でしょ? じゃあ飲もうか」
 買い置きの缶ビールを手渡すと、同時にプシュっとプルタブを起こし、缶を軽くぶつけ合い。

「「お疲れさまでした!」」

 飲みながら、彼の気持ちのいい飲みっぷりを横目で見る。一応、こちらのドキドキとか動揺は伝わってないはず。みんなで飲みに来る時と同じ。バカなことやって笑う、いつも通りの私、の、はず。

*+*+*

 ラグマットの”オシャレちゃぶ台(探して買ったお気に入りのローテーブル、と説明したのにみんながそう呼ぶから)”には、ツマミが所狭しと置かれている。ちゃぶ台を挟んで向かい合ってラグにベタ座りし、缶ビールを飲む。買ってきたツマミの点数を言い合っていたのだけど、そろそろかな、と思ったので率直に訊いてみることにした。

「でさ、本当は営業じゃなくて、フラれちゃった?」
「本当は、ってなんだよ。嘘つく必要ないだろ。それに前にも宣言した通り、オレは6月から梅雨が終わるまで恋愛休業中……あれ、5月に彼女と別れた話は、してなかったけ?」
「えー聞いてない」
「ゴールデンウィークに、向こうから言われた」
「そっか、そうだったんだ。あーあ、世間の皆様の貴重なお休みを雨にしちゃって……」
「ええ、なぐさめるとか、ないのかよ。まあちなみに、しっかり雨だったけど」

 彼はミックスナッツの中からジャイアントコーンを選んで、口に放り込んだ。カリコリという音が耳に心地いい。

 この状況とか彼の失恋とか。いろいろ思いを巡らせていたら、胸の辺りがドキドキとベタな反応を起こしている。いかん、こんなところで色ボケはダメだ。いくら彼がフリーになったからといっても、過去に彼が、私は守備範囲外だと言っていたのを知っている。もしバレたりしたら、友達ではいられなくなるかもだし。

 そもそも、彼の失恋を喜ぶとか。アウトでしょう、人として。

「いっそ雨のない国に行って、そこで相手を見つけるとか」
 偽善者として前向きな提案をすると、彼は盛大にため息をついた。
「や、それはオレも考えた。でもオレの能力がその国の偉い奴らにバレたら、知らぬ間に相手をとっかえひっかえされるんじゃないか、とか」
「おお、長年の水不足が解決するね!」
「だろ?」
「でもわかんないよ、真実の愛に目覚めた彼女が、国を裏切ってくれるかもしれないよ?」
 偽善者な私が、適当なことを言っている。

*+*+*

 冷蔵庫に入れておいた白ワインを出してきた。みんなで飲むときは、ワインだろうとなんだろうとコップ酒だ。家にふたつしかないワイングラスをちゃぶ台に置き、ボトルのスクリューをひねる。

「あんまり冷えなかったけど」
「氷入れりゃいいじゃん? あ、お注ぎしますよ」
「それより! 一枚撮っておこうよ」

 なんちゃってトガ男に白ワインのグラスを持たせ、それっぽいポーズをさせてスマホに収めた。キッチンから氷を、深めの皿に入れて持ってくる。「サンキュ」と言って彼は自分のグラスに氷を入れた。私もそれにならう。

「こういうの、ダメな人はダメだよね」
「こういうの、って?」
「ワインに氷を入れるなんてけしからん、味が薄まる! とか」
「へえ。知り合いに、ビールに氷入れる人もいるし、なんとも思ってなかったな。それにすぐ飲んじゃえばたいして薄まらないし。……あ、でも」

 彼はきゅうっとグラスをカラにする。おかわりを注いであげた。再び氷を入れ、彼はぼそりとつぶやいた。
「そういや別れるときに言われたなあ。『久瀬くんはいろいろ雑だよね』って」

 雑。鈍感。ヘンなところで重い。
 歴代の、なんとか付き合うまでこぎつけた彼女たちの感想を、酒のツマミに聞かされる。

「うん、まあ雑と言えば雑かもしれないねー、ワインに氷とか。コンビニに、冷えたワインくらい売ってたんじゃないだろうか、ツッコんでみてもいいでしょうか」
「あ、そうか、そうだよな。なんでか思いつかなかった。すまん」
「お風呂使う気なのに、着替えのことに頭がいかないとか」
「や、それは、なんとかなるかなーと思って。ほら、なんとかしてくれたし」
「そういうトコだぞー。そりゃ雑って言われちゃうよ……まあ、でもね、」
 ワインをひと口飲んでから私は続けた。

「例えば、サークルのいつだかのバーベキューで、後輩ちゃんが焼きそば用のソース買い忘れちゃったことがあったじゃない? あの時久瀬くん、その辺のありモンの調味料でよくね、新しい味覚への挑戦だ、なんて言ってさ、結局みんなで盛り上がったよね。あの時みたいに、誰かがちょっと失敗しちゃっても、久瀬くんは柔軟に対応してくれるでしょ? 氷入れちゃえばいいじゃん、別にこっちでもいいじゃん、って。私のツッコミも素直に聞いてくれるし」
「素直に聞くっていうか、そのままなんだけど」
「それが出来ない人もいるのサ。雑って言われて、逆切れする人だっているよ」
「そうなのか」
 久瀬くんは、わかったようなわからないような顔をした。

「そうやってオマエみたく、それは雑、ってすぐにツッコんで指摘してくればいいんだけどなあ。なんかみんな、溜めに溜めてから爆発させて、サヨナラになっちゃう」
「オンナノコは、察してほしい生き物ですから。鈍感にはキビシイかもしれないね」
「キビシすぎる! どうしろってんだ、言われなきゃわかんねーよ!」
「鈍感をおおらか、雑を柔軟、なーんて思ってくれる人を見つけるしかないよね!」
 ひっひっひ、とワザとらしく笑ってみせた、のだけど。
 彼がふと真顔になってこっちを見つめてきたので、こちらも真顔になってしまった。

「……いるじゃん、ここに」

「……へ?」

「さっきの、雑って落としといてから持ち上げられたの、ちょっとキたし」

 いるじゃん、とは? キた、とはナンデショウ? それは放っておくことにして、モゴモゴと返答をひねり出す。

「えーと、まあ持ち上げたけど、それは久瀬くんの受け売りというか」
「オレの?」
「よく人を褒めてるというか、ポジティブにひっくり返してくれるじゃない」
「そうだっけ? まあそれは置いといて。オマエ、長年の片思いはどうなってんだよ」
「え、なんで知ってるの」

 疑問に疑問で返したせいか、彼はその問いには答えてくれない。

「なんで告白しないの? 妻子持ちとか、ヤバい相手?」
「いえ、そういうわけではなく、以前ご本人様から、ワタクシが守備範囲外だと言われたことがありまして……正確には立ち聞きしたのですが」

 わあ、なんで素直に答えてるの私。

「ふうん、そうなんだ。じゃあそれはもう諦めてもらって、」
「はあ? なんの権利があって……」
 諦めて、にキレかけた私のセリフを無視して、彼は言った。

「で、オレを好きになりなさい」

 ドクン、という音と共に、体温が何度か上がったような気がした。思わず彼から視線をはずしてしまう。片思いを諦めろ、と、彼を好きになりなさい、という久瀬くんが発した二つの命令文が、私の頭の中で処理できない。

「……6月は、恋愛、休業中じゃ、なかったの?」
 なんとか状況確認をしようと、単語をひとつひとつ絞り出すように訊いた私への、彼の返答はひどいものだった。

「あ、しまった。今日めっちゃ雨降ってるんだった。やっぱりオレ、フラれる?」

 ブツリ、という音を立て私の中のなにかが切れて弾け飛んだ。私は顔を上げて、久瀬くんをにらみつける。

「……『やっぱり』って、そっか、そうだよね『やっぱり』冗談だったんだよね? 私が久瀬くんをフッて、それがこの話のオチだったってことなのね?」
「いや、雨は忘れてたし、ほん、」
「雑!」
「うわ、グサッと」
「雑すぎ! 鈍感!」
「うっは、グサグサくるね」

 なにその軽い感じ。完全に頭にきてしまった私は、思わず叫んでいた。

「大体さあ、私のこと守備範囲外って、言ってたじゃん! それなのに好きになれとか、冗談でも許せん!」


 急に、外の激しい雨の音が耳に入ってくるようになった。あれ私、そんなこと言っちゃっていいの?

「守備範囲外、って、オレが言ってた? オマエのこと?」
「……そおだよ」
 引っ込みがつかなくて、ぶっきらぼうに認める。
「いつ」
「3年の時、サークルの冬合宿で、宴会場で女子より先に飲んでてさ」
「あー……でもそれ、好きな人がいるヤツ攻めてもしょうがないって話だったんだよな。確かその頃に聞いたから、片思いしてるって」
「えっ、どこで聞いたの」
「えーと、最初は部室だったかな? 誰からだったか忘れたけど。何人かに聞いた気がする」

 何人かってどういうこと? 本人にバラすとか、誰だろう、突き止めて懲らしめてやる。いや、その前に『やっぱり』の件を……ってこれ、どうしたらいいんだろう? 私、怒っちゃったよね。

 でも、彼の冗談を冗談として受け取って、私が彼をフるの? 

 私が黙ったままぐるぐる考えている間、彼も黙ったままだった。ふとそれに気付いて彼の様子を見ると、胡坐を組んだ足に両手をついて、考え込んでいる。

「あれ、ちょっと待て」
 久瀬くんが顔を上げた。回答を見つけました、という表情になって、私と目を合わせた。

「その片思いの相手、それはもしかして、オレだったりするのか?」

*+*+*

 私は黙ったまま、ほとんど水になってしまった氷入り白ワインを飲み干しながら、久瀬くんから目をそらす。

「なんかアイツら、やけにその話題振ってきてたんだよな、今思うと」
 彼の顔が見れない。手酌で白ワインのおかわりを飲んだ。よいしょ、という声がして、彼が私の右隣に座った。
「ええと。オマエの、その片思いの相手はオレ、という考えはあってるの、どうなの?」

 あ、ダメだこれ。冗談なんかで終わらせられない。なら、もういい。

「……あってますけど、それがなにか?」

 声が裏返りそうだ。泣きそう? いや私は怒っているのだ。自分にそう言い聞かせる。

「それがなにか、って、」
「ああああっ、もおおおおっ! だから鈍感だっていうの! 守備範囲外だって言われたからずっと隠してきたんだよ! サークル仲間として楽しくやっていこうって思ってたのに!」

 まだ彼の顔が見れない。それに止まらない。

「大学の時から片思いしてました! それを諦めろとか、『やっぱりフラれる』って冗談にするとか、さあ! 雑どころじゃないよ、ほんと、ひどすぎるよ! 私は冗談になんか、やっぱりできないんだから、これからどうしたらいいわけ、」

「冗談にするなんて言ってない、オレは本気で言った」

 久瀬くんの低い声が、私の言葉を遮った。

 がし、と右手を掴まれた。その両手はシーツに覆われた太ももの上に移動し、固定される。

「片思いの相手に負けるかも、と思ったから、やっぱりフラれる、って言った。こんな大雨だし、ここまでフラれっぱなしだし、オレ、自分に自信なんてもう持てないし。つい茶化すように、傷つかないように守りに入った。それはごめん」

 言葉運びがゆっくりだ。私は彼の手の甲をじっと見つめていた。握られた手の脈動と熱。

「これからどうする、って、付き合おうよ、オレたち。今まで気づかなくて、鈍感すぎて悪かった。でもすごくうれしいし……オレ、告白されたこと一度もないって、知ってた?」
「そ……なの?」
 声がかすれた。涙目になっている。

「だからもう一度、こっち見て、ちゃんと言ってほしい」
「そ……れは、なんか、ズルい。大体、久瀬くんは……私のこと、好きじゃないでしょ?」
「好きです。さっき気が付いた。営業先で雨に降られて、ああなんか顔が見たいなあ、って思った。それはこういうことだったんだなあ、って思った」

 顔を上げて、久瀬くんの目を見た。すると彼は私から目を離さず、両手に力を込め言った。

「好きです、付き合ってください」

 顔が真っ赤。でも人のことは言えない。全身に通う血液が狂喜乱舞、それを抑えて返事をしようとしたら、鼻水が垂れそうになった。あわてて鼻をすすり、彼の手を振りほどきその場から逃げティッシュの箱を掴んで、キッチンにダッシュ。鼻をしっかりかんで、手を洗いちゃぶ台に戻ると、彼はがっくりとうなだれていた。

「ごめん」
「……雨だもんなあ……」
「いいところで鼻水垂れてきちゃうなんて、女子として申し訳ございません」
「……え、そっち? 急に逃げ出して、オレまたフラれたんじゃないの?」
「え?! ち、違う、フってない……あ、その『ごめん』じゃない!」
「フってない?」
「う、えっと、その……こちらこそ、よろしくお願い致します」
「なにを」
「な、なにって、さっきの返事」
「つまり?」
「つまり? だから、つ、付き合ってに対する返事ってことで、」
「もう少し具体的に、気持ちを込めて、ほら。私もずっと前から、とかそういうヤツ」
「私もずっと前から……?」
「しょうがないなあ。じゃあ、復唱して。私もずっと前から好きでした、付き合いましょう、はいどうぞ」
「……長年片思いしてたのに、そんな言い方はヤだなあ」
「えええ、告白してほしいのに。頼むから言ってくれ」
「よく考えたら、ボックスシーツ巻いたパンツ一丁の男と、なんでこんな話になってんだろう」
「確かにカッコ悪いけど、急に冷静になるなよ。……いや待て、シーツ脱いだらOK? じゃ、ベッド使っていい?」
「そ、そういうトコだぞ! 雑オブ雑、雑キング! 今日はぜーったい脱いだらダメ、心臓止まるから!」
「え、『今日は』?」
「うっ、うるさい!」

*+*+*

 そのあと。白ワインのボトルが空き、赤ワインにも手を伸ばし、彼の終電がなくなり。絶対に添い寝まで、それ以上はダメ、というところで合意した。ベッドの上で揃って横になって天井を見ると、彼は私の手を握って言った。

「あのさあ、頼みがあるんだけど。もしオレをフるときは、晴れの日にしてくれないかな」
「わかった、そうする」
「即答されるのもなんだかなあ」
「雨のない国まで一緒に行って、そこで別れよう」
「帰りがキツそうなんですけど」
「そこは久瀬くんの雑っぷりを発揮して、友達に戻ろうよ。で、ふたりで旅行を楽しんで帰る」

 首の下から手を回され、抱きしめられた。シーツ越しに感じる熱と鼓動。

 しばらくして、彼の寝息が聞こえてくる。外の雨音は弱まってきたようだ。

*+*+*

 雨のない国の民族衣装は、裾の丸まったトガで。彼も私もそれを着ていて、神殿のようなところで私は彼に、これからはいい友達でいましょう、と厳かに告げる。雨が降り、国中に感謝されるふたり。ほとぼりが冷めた頃恋人に戻り、また雨が足りなくなると友達になる。なんていいシステムなんだろうね、と彼に言うと、ちょっと雑じゃないか、と返される。これならずっと一緒にいられるんだよ、それがわからないなんて鈍感すぎる、と夢の中で言ったら、その「鈍感すぎる」のところだけ思いっきり寝言として発信してしまったらしい。

「寝言でツッコまれた」

 と、現実の久瀬くんが、朝っぱらから思いっきりヘコんでいる。

 幸せな現実に、私は声を立てて笑った。



【2022.6.25.】
【2022.10.03. レイアウト変更】

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