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古代ギリシャ・アリストテレスの歯科:歯科医療の歴史(紀元前④)

 さすらいの医者ヒポクラテス。その名声はアテネの哲学者、インテリ層にも轟いた。ヒポクラテスが老いて齢70を越したころ、紀元前384年、バルカン半島南東のトラキアに一人の天才が生まれる。ソクラテス、プラトンに並ぶ3哲人の一人、アリストテレスである。(小野堅太郎)

 アリストテレスの出生地トラキアは、当時、ギリシャ北部で力を強めていたマケドニア王国の支配下にあった。マケドニアは、アテネとスパルタのペロポネソス戦争に参加せず、じわじわと国力を高めていた。アリストテレスは幼いときに両親を亡くし、その後、なんだか落ち着かない様々な職種を転々として(噂がいっぱいあります)、17歳の時、アテネのプラトンが主催する学校「アカデメイア」に入ります。プラトンから重用されますが、20年後、プラトンが亡くなったのを機にアカデメイアを去ります。というのも、彼の出身地マケドニア王国は大国となり、拮抗するアテネではマケドニア出身者は去らざるを得なかったわけです。そして42歳の時、マケドニア王国の13歳の王子、アレキサンドロス3世の家庭教師となるのです。政治学を作った人でもありますんで、納得です。数年間の指導でしたが、この王子は東方遠征を開始し、インドまで支配下に置く伝説の英雄、アレクサンダー大王となります。これにより、エジプト、メソポタミア、インド文明の医学が混じりあうきっかけができます。

 超大国マケドニアの圧倒的なバックアップを受けたアリストテレスは、アテネに帰ってきます。そして
「リュケイオン」というアカデメイアとは別の学校を作ります。すごいですね。自分を追いだしたことへの復讐ですかね。以降、この2校は学問を争うわけです。紀元前323年、アリストテレス61歳の時、アレクサンダー大王が蜂に刺され32歳で没する。マケドニア人への迫害を避け、アリストテレスはアテネを抜け出します。翌年、没します。

 とにかくアリストテレスは大量の書物を残しており、学問の幅が広く「万学の祖」とも言われています。多くの学問は、後にキリスト教に取り込まれ、神の言葉の様に取り扱われます。何かの記事でも書きましたが、アリストテレスは、「なんとなくこう思うけど」という感じで思考を広げる人で、実験的に実証することはしない人です。ですので、後に科学の発展においては、大いなる足かせとなるのですが、その話はいずれまた。生物学、植物学、医学では、「分類」が好きな人であったため、まあすごい博識なわけです。ヒトの歯だけでなく、動物の歯の数、形態、配列を比較検討しています。抜歯鉗子についても記述しています。歯がグラグラしているなら、手で抜いたほうが良い!、などどうでもいい記述もあります。

 さて、アレキサンダー大王の死後、その後継者争いが始まりますが、そのうちの一人、プトレマイオスはエジプトのアレキサンドリアを首都としてプトレマイオス朝を誕生させます。ここにできた学術の場ムゼイオンと図書館が凄いことになります。マケドニア王国により誕生したヘレニズム文化ですが、このアレキサンドリア図書館にこれでもかと世界中の文献を集めだすわけです。ムゼイオンでヒポクラテス全集は編集され、図書館に収容されます。アリストテレスの書物も一時期収容していたようです。このムゼイオンで、医学を含めて、当時のあらゆる学問の中心となるわけです。アルキメデスもここで学んだと言われています。この地にて、各地域の医学は混合され、アレキサンドリア医学が生まれます。

 時は300年ほど進みます。有名なクレオパトラ(7世)とカエサルです。大国となったローマは、プトレマイオス朝に介入します。この時の戦争でアレキサンドリア図書館は燃え落ちます。小野は、エジプトが大好きなので2度訪れていますが、2回目でようやく図書館跡地へも行きました。歴史を知らない他のツアー客の中、一人ワクワクしていました。なんか雑木林みたいなところにバスが入っていき、跡地は草むらの中に柱が10本ほど立っていて、完全に放置状態でした。驕れる者も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。そしてまた、カエサルは暗殺され、跡を継ぐアウグストゥス(オクタウィアヌス)によるローマ帝国時代が始まります。

 ようやく次回から紀元後に入ります。古代ローマ医学、ケルスス登場です!
 このシリーズはしばらくお休みします。九歯大の歴史を紹介するつもりで、江戸時代の歯科医療をまとめていたら、漢方が必要だからと平安時代から書くべきだとなり、いやいや明治時代から西洋医学になるんだからローマ時代から、ならついでに九歯大のヒポクラテス好きを語りたいからギリシャ医学は紹介せねば、じゃあメソポタミアも、となってしまいました。そこで紀元前を一話でまとめるつもりが、紀元前で四話となり、いつ九歯大の話ができるのかわからなくなってしまいました。他の記事も溜まっており、時事ネタもあるので、そちらを優先して公開していきます。


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