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日本の教育を考える

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他のクリエイターの皆さんの記事も含めて、教育に関する内容をまとめています。具体的な教育方法の提案、オンライン講義について、教育とは何かといったさまざまな議題について議論します。教… もっと読む
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教養系コンテンツの正確性はどこまで担保されるべきか

 種々の学術系コンテンツ(動画や記事)をネット検索し、容易に学べるようなったこの時代。その情報の正確性はどのレベルまで求められるのかを考察したい。(小野堅太郎)  オンライン学習を余儀なくされるこの時期。多くの教養系動画コンテンツが上がってきている。中田敦彦さんなど芸能人の動画を見させていただくとレベルの高さに驚かされるが、用語の使い方に間違いもあり、訂正したい衝動に駆られる。ネット記事を見ていたら、こういった間違いが訂正されずに拡散放置されている状況はよろしくないというも

学力偏差値の使い方: 受験を考える②

 遥か30年前、高校・大学受験において偏差値を気にして生きていた。この学力偏差値というものは何だったのか。思い返してみる。(小野堅太郎)  受験勉強(学力)は残念ながら頭の良し悪しを決めるものではない。そもそも「頭が良い」とは何なのかという定義がないので、頭がいいかどうかなんて測る指標はない。知能指数(IQ)は論理の理解、パターン認識、短期記憶などの能力を測るものである。学力とは違って、生まれながらに備わる「脳力」みたいなものだ。とはいえ、学力との相関係数は0.4〜0.6と

大学に行く意味はないのか: 受験を考える①

 ネットニュースで「大学に行く意味がない」との話に反響が集まっているとの情報を見た。自分が大学教員であることと、大学生と高校生の親であるという立場からすると耳の痛い話である。(小野堅太郎)  まず、九州歯科大学のような医歯薬系の大学の場合は、卒後に国家試験(医師、歯科医師、薬剤師)があるので受験資格を得るために大学に行かないといけない。これに関しては議論の余地がない。10年ほど前に、看護師、歯科衛生士の専門学校を4年制にして大学に組み込む動きがあり、歯学部口腔保健学科、医学

大学カリキュラム編成は、結構難しい: 大学のお仕事①

 小・中・高校もそうであろうが、大学も時間割を組むのは難しい。何が難しいのかをご紹介してみる。(小野堅太郎) 科目間の連携・順番 まず、学問は必ずしも独立していない。国語は全ての学問の学びに必要なので、教科書を読める人は全ての学問を自学でき、より深くまで学ぶことができる。英語が苦手な人、特に英訳で点が取れない人は、英単語を暗記できていないことよりも国語が不得手であることがある。中学校まで「理科」として一科目に分類されていたものも高校からは、化学、生物、物理、地学に分かれます

大学でDXは可能か

 DXとはデジタルトランスフォーメーションのことで、組織を意識改革した上で、デジタル化により業務の効率化を図ることである。公立大学にDXは可能なのか。考えてみた。(小野堅太郎)  「いや、大学にDXは必要ないでしょ」という人がいるかもしれないので、始めに反論しておく。オンライン講義が普及し、LMSでの講義記録が蓄積されるようになった。数ヶ月前から印鑑が多くの書類で不要になった。多くの大学では年末調整がオンライン入力になった。うーむ、それぐらいだ。依然として、なんの役に立って

大学システムの硬直性

 人件費削減に踏み込む厳しい大学財政とは裏腹に、大学の質の向上もまた要求されている。この矛盾した状況を切り抜ける方法はあるのかないのか。ちょっと考えてみた。(小野堅太郎)  社会から距離を置いた「象牙の塔」とも揶揄された大学は、改革のため2004年に国立・公立大学は法人化された。法人化と言っても、大学予算は補償される(毎年少しずつ削減されるが)。学長の権限を強化して以前より弾力的な組織・予算運営ができるようになった。民間の経営システムを大学組織にも取り入れて各大学間で切磋琢

うちの研究室にICT導入してみた④:OneNote編(実験ノートのデジタル化)

 研究室にDropboxを導入してファイルを共有化し、Outlookカレンダーで各人の予定を公開、Slackで迅速で有機的な情報交換が達成できた。次なるICT導入は実験ノートの電子化。ようやく光が見えてきたので書き残してみる。(小野堅太郎)  iPadを電子ラボノートにできないかと四苦八苦してきたが、論文読むのにある程度使えるけどラボノートとしては不適!と最終的に判断した。実験するのに重くて邪魔。院生も含めて、スタッフ全員がiPadなどを揃えるのは不可能。「あー、実験ノート

ネットコンテンツの価値観

 ネット配信型サブスク隆盛となり、月定額の安い料金を払えば音楽から映像から聴き放題見放題の今日この頃である。年末年始を皆さん、楽しんでおられるでしょうか。さて、こんな時代のネット情報の価値観について考えてみた。  SNS教育活動と称してマナビ研究室を運営してそろそろ二年になろうとしている。どんなnote記事やYouTube動画が人気となるかは何となくわかってきた。同時に、人気にもいろんな種類があることがわかってきた。短期間にババっと閲覧されるものもあれば、何かの出来事で古い

ブレンデッド生理学実習は成功したか!?:2020年オンライン大学教育を振り返って③

 2020年の最大の苦労は、生理学実習のオンライン化でした。1ヵ月ほど徹夜で動画編集しました。その他のコンテンツ作成から、出席管理、発熱者対応、感染対策、三密対策、二回繰り返し実習など、忙しくてあまり記憶がありません。記憶を絞り出してみます。(小野堅太郎)  ブレンデッドとは、オンラインと対面を交互に組み合わせた形式のものです。九州歯科大学での2020年度生理学実習は、午前中にオンラインによる自宅学習を行い、午後は対面で実習テストを行いながら同時に実験データを回収し、後日オ

実習レポートの書き方: 九歯大生理学実習の場合

 25年前に自分が大学生であった頃、図書館で調べて大学指定のレポート用紙に手書きして提出していた。しかし、ネット化された社会においては、手書きレポート評価は崩壊した。「レポートの書き方」は、学問分野や講義・実習内容によって様々な形式をとる。九歯大の「生理学実習」の場合の「レポートの書き方」について解説する。(小野堅太郎)  実習科目単位の取得には、試験結果だけでなく「レポート評価」も使われる。試験は知識の有無への評価であるのに対して、資料参照が前提のレポートは「論述力や考

医学教育の漫画・ゲーム展開の可能性

 マンガ「はたらく細胞」は、血液凝固から液性免疫、がんの発生など、各種細胞を擬人化して説明している。人間ドラマとして演出されることで、生理機能を非常にわかりやすく子供たちに提供してくれた。この医学教育の娯楽メディア展開の成功例から今後の可能性を考察してみたい。(小野堅太郎)  46歳となったジジイの自分からすると子供時代、「マンガ日本の歴史」シリーズと横山光輝著「三国志」は歴史を学ぶ上で楽しい教科書であった。個人的には歴史漫画ベストは、高校生のとき読んだ「風雲児たち(みなも

東大と日本高等教育の変遷

 東京大学といえば、日本で一番入学試験の苛烈な大学です。もうそれだけで特別なようですが、近代日本の発展において不可欠な組織であったという話をします。(小野堅太郎)  日本で最初の大学といえば、東大です。過去の記事で、13世紀イタリア・フランスで大学が生まれたという話をしました。私塾のような小さなものから規模が拡大し、教員・学生の集まりからなる組合(ユニベスシタス)が組織され、ユニバーシティとなりました。日本での「大学」という言葉は、奈良時代の律令制の中で設置された官僚育成機

成績評価のためのオンライン試験は可能か?

 年明け早々の教授会で「いざという時のためにオンラインでの定期試験を考えておいてください」という指示が出された。そろそろ後期定期試験が行われる。個人的に、今考えているオンライン試験について、ここでまとめておきたい。(小野堅太郎) オンライン試験の必要性? 成績評価は、学生全員において公平でなくてはならない。公平とは、試験前からやり方や採点方法においてあらかじめ周知されていなくてはならない。どこかの大学入試であったように、試験後に裏で男子学生を多くとったり、年齢で切り捨てたり

コロナ禍での歯学部教育2020年

 2020年は、新型コロナのパンデミックで大変な年でした。歯学部教育も大きく見直され、混乱し、試行錯誤が続いています。マナビ研究室の過去記事を参照しながら振り返ってみます。(小野堅太郎) オンライン授業の取り組み 過去の自分の記事を久しぶりに読み返してみると、日記のようで我ながら楽しんでしまいました。悩み、考え、試行錯誤しているのが面白かったです(自画自賛?)。心配していることが杞憂であったり、予想が的中していたりして、こういうのを書き残すことの意義(自分を見つめなおす)を