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うちの研究室にICT導入してみた④:OneNote編(実験ノートのデジタル化)

 研究室にDropboxを導入してファイルを共有化し、Outlookカレンダーで各人の予定を公開、Slackで迅速で有機的な情報交換が達成できた。次なるICT導入は実験ノートの電子化。ようやく光が見えてきたので書き残してみる。(小野堅太郎)

 iPadを電子ラボノートにできないかと四苦八苦してきたが、論文読むのにある程度使えるけどラボノートとしては不適!と最終的に判断した。実験するのに重くて邪魔。院生も含めて、スタッフ全員がiPadなどを揃えるのは不可能。「あー、実験ノートの電子化は無理か」とあきらめていた(下の過去記事参照)。

 とはいえ、Dropbox導入により実験データの電子管理を整備しようと調べていたところ、PLoS Comput Biol誌を中心として実験環境の電子化が紹介されていることを知った。そんな中、 PLoS ONE誌に下のような原著論文を見つけ、つい最近からOneNoteにて実験ノートの電子化に乗り出した。

Guerrero S, Dujardin G, Cabrera-Andrade A, Paz-y-Miño C, Indacochea A, Inglés-Ferrándiz M, et al. (2016) Analysis and Implementation of an Electronic Laboratory Notebook in a Biomedical Research Institute. PLoS ONE 11(8): e0160428. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0160428

 九州歯科大学ではOffice365に契約しており、OneNoteはそのパッケージに入っているので教員・大学院生・職員みんな、使うことができる。Outlookカレンダーの時と同じように、環境によりソフトウェアの選定が決定した。

1)ノート管理

 OneNoteの書類管理階層はこうである。「ブック」→「セクション」→「ページ」である。ラボを統括する小野が、自分の分を含めて教員と院生のブックを作成し、それぞれに共有した。院生は小野以外の教員からも指導を受けているので院生のブックには指導する別の教員も共有させた。次に、各人のブック内に自分が取り組んでいる研究テーマをタイトルとしたセクションを作製する。その下にページを作成し、その日に行った1日分の実験ノートを記録する。日付は自動で挿入されるので、タイムスタンプは不要である。日が変われば新しいページを作成するため、結構なファイル数になるが、時系列で並ぶのでわかりやすい。

 教員は指導する院生の実験ノートをいつでも閲覧できるので、コメントを追加して研究の修正・補完を行うことができる。更新があった場合は、ブック名が太字表示されるので実験の進行度の把握が直感的にわかる。誰がいつ文章を修正したかは記録が残るので、ある程度の文書保存・記録保持はできている。即時的な連絡はSlackを使い、必要に応じてOutlookカレンダーから話し合い(会議)が予定される。

2)ノート記入

 初めはPCからの入力でやってもらったが、実験後に記入するのは時間がかかるため、不評であった。そこで、スマホから記録する方式を取り入れてもらった。音声入力技術はかなり向上しているため、スマホの設定を変えて音声にてテキストを入力する方式にしてもらった。iPhoneはSiriを使用するようだが、98%は問題なく認識してくれる。間違いの2%ほどは「メモ」としては気にならないレベルであり、雑なタイピングによる誤字脱字と同等の精度である。

 実験中のちょっとした気づきは、スマホで撮った写真を直ぐ挿入できるため、これまでの手書きよりも良い実験ノートになりえる。感熱紙で出力されたデータなども、スマホからの写真で挿入できるため、データ損失の恐れがない。

 最大のOneNoteのメリットは、クラウド自動保存なので、データの損失の危険性がない点である。もちろん操作ミスでページを消してしまう可能性はあるが、基本的にページの消去は「改竄」であると考えてよい。そのため、ラボノートの複数名での共有は、研究不正の防止策にもなりえる。

 解析データ、エクセルグラフ、顕微鏡写真等をPCからの操作で、後で付け足すことができる。生データをDropboxに入れていれば、それらのリンク先をページに張り付けることができる。これにて研究室のICT導入で問題となっていた電子ファイル管理を達成することができたことになる。

 上記のような実質的な実験の記録だけでなく、思いついたことや、面白い論文の感想などを気軽に記録することができる。

3)特許が絡む研究には不可

 うちの研究室では企業との共同研究で特許に絡む研究も行っている。この内容に関しては、従来の手書きラボノートを継続するしかない。

4)今後の発展

 ラボノートには「実験条件」を書き残す必要があるが、今までの手書きでは、過去にワードで作製したプロトコルを印刷してノートに張り付けていた。修正したところは手書きで加筆する。電子ラボノートでは、「プロトコール集」という全員がアクセスできるブックを用意しており、そこからコピペで張り付ければよい。新しい実験は「プロトコール集」に追加しておけば、数年後に誰かが実験するときに使える。また、実験中の手順確認としてスマホから閲覧しながら実験を進めることもできる(スマホはタイマー機能もあるので便利)。

 まだ作成してはいないが、PCRプライマーや抗体のリスト、過去の我々の論文で記述した英文でのマテメソも入れておけば、今後の論文作成にも役に立つ。過去の種々のラボ内マニュアル群もすべて共有化・随時更新が可能となるため、電子ラボノートとしての利用法以外にも発展性がある。

5)まとめ

 今後継続していく中で問題も出てくると思われるが、今のところうまく進んでいる。研究室ICT導入の総まとめともいえるもので、今後はこういった方法で研究を進めることで、興味深い研究業績を報告していきたいと考えている。

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