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実習レポートの書き方: 九歯大生理学実習の場合


  25年前に自分が大学生であった頃、図書館で調べて大学指定のレポート用紙に手書きして提出していた。しかし、ネット化された社会においては、手書きレポート評価は崩壊した。「レポートの書き方」は、学問分野や講義・実習内容によって様々な形式をとる。九歯大の「生理学実習」の場合の「レポートの書き方」について解説する。(小野堅太郎)

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 実習科目単位の取得には、試験結果だけでなく「レポート評価」も使われる。試験は知識の有無への評価であるのに対して、資料参照が前提のレポートは「論述力や考察力」を評価するものである。マルバツ問題は評価の線引きがはっきりしているため学生からの不満はあまり出ないが、記述問題やレポート評価は採点基準をはっきりさせていないと教員と学生とのトラブルに発展しやすい。そこで、「ルーブリック」という評価手法が出てきていて、比較的客観性のある方法が使われて始めている。

 しかし、「ルーブリック評価」は作成する教員の能力と思想が大きく反映してくる。客観的というよりは、教員主観の学生への押し付けになってしまいがちである。2021年度から使用予定の生理学実習ルーブリック評価表(九歯大版)を下に挙げておきますので、ご批判を頂きたい。学生さんからの意見も大歓迎です。

生理学実習レポート ルーブリック

 生理学実習では、実習の目的や実施方法などはPDFやYouTube動画であらかじめ学生全員に周知している。そのため、いにしえの手書きレポートにあった「研究背景」「実施方法」などは、コピペせざるを得ないので全く必要ではない。よって、レポートは「結果」から書いてもらえればよい。また、いにしえの「表紙」なるものも不要で、文書冒頭に「実習タイトル」「出席番号と名前」を書いてもらえれば十分である。加えて、デジタル提出なのでファイル名を「出席番号(半角3桁)-名前(フルネーム)」で提出してもらいたい(例:001-九歯太郎)。

 学年100名ほどのレポートを採点するため、あまり長いレポートの採点はできない。2000文字程度(引用を含まず)としている(文字数は超えてもOK、足りないのは不可)。剽窃検出ツールを契約しているので、インターネット情報、配布実習書、さらに既に提出されている同級生や上級生のレポートで相同性(%)を数分で検出できる。名前がない、文字数が足りない、50%以上の類似性が確認された場合は採点対象としていない(0点)。レポートの剽窃は「試験のカンニング」に相当する不正行為にあたるため、本当は懲戒や試験受験の停止(留年)の措置対象である。

 剽窃を50%以上と緩くしているのには理由がある。2020年度に60%以上としたら30名以上が引っかかってしまった。よって「剽窃が横行している現状では段階的に厳しくしていく必要がある」と考えてのことである。30%ぐらいまでは最終的に基準を下げるつもりである。

 2020年のパンデミック世界において剽窃検出ツールが大学に普及した。ディスカウントされているのもあってとあるツールを使用してみた。ある学生は、複数の学生のレポートから少しずつコピペしてレポートを作成していた。以前の「目で読んで発見するやり方」ではなかなか発見できない剽窃法で、検出ツールでしか見抜けない。学生との頭脳戦は環境が変わるたびに続いている。

 さて、上記の最低要件をクリアしたレポートのみが評価される。ルーブリック評価では4つの項目に分け、それぞれに評価点をつけた10点満点とした。項目4つ「結果と考察(4点)」「文章力(3点)」「図表の配置(1点)」「引用の書き方(2点)」は、それぞれが独立して評価できるという考えで分割している。

 「結果」と「考察」は内容的に異なるため、分割できると考える方もおられるだろうが、レポートでは連動していることが多い。「結果を書き出せたから、考察が追従してきた」もしくは「結果が読み取れていなければ、考察がない」のは常である。つまり、「結果」の評価が高ければ「考察」の評価も高くなると考え、「結果と考察」として1項目にまとめた。ただし、評価点の付け方(細目内容)には、個人的には満足していない。

 また、結果や考察はいいのだが、文章として論理的に説明できていないレポートに遭遇することも多い。そこで「文章力」としての項目を入れた。ここでの文章力とは「論理的文章」であって、小説などの「創造的文章」ではありません。まあ、「国語力」である。これについては思うことがあるので後述する。

 3つ目として、生理学実習では実習結果を図表で学生に提供しているので、それを適切な位置に配置しているかどうかだけに配点する「図表の配置」を用意した。

 それともう一つは、「レポートには”引用”があってよい」ということである。ただし、剽窃にならないように適切な引用書式が必要である。ネット社会において引用を使いこなせて損はしない。というわけで「引用の書き方」を最後の項目に入れた。学生さんは下記に従ってください。

引用の書き方(九歯大生理学実習レポートの場合)
1) 文章をそのまま引用の場合は、必ず文章を「」内に入れる。
2) 文章を書き換えてまとめてもよいが、引用であることをわかるように文章を作成する。意味を変えてしまったら不可。
3) 引用する文章の最後に括弧書きで必要な情報を入れる。
  本:(「書籍名」筆頭筆者・編者1名“ら”、出版年、出版社
  論文:(「論文タイトル」筆頭筆者1名“ら” 、出版年、雑誌名
4) 参照した文献を最後に<文献リスト>としてまとめる。

 評価するためには、「その内容を事前に教えている」必要がある。「結果と考察」については、基本的事項は授業で既に教えている(実習は講義と連動しているので)。そこに如何に自分の考えを入れ込めるか?ということで加点されるようになっている。「図表の配置」は常識の範囲であり、「引用の書き方」は上に示した。

 しかし、「文章力」は大学で教えていない。というか、ほぼ、中学、高校でも習っていないのではないか。国語の教科書で「良い文章」には出会うが、おそらく現在でも「作文の添削」は小学校までのように思う。大学入試で「小論文」がある場合は、短期間に高校で指導を受けることがあるだろうが、皆が習うわけではない。この能力を上げるためには、科学読本をたくさん読めばいいのでは?と思ってしまうが、国語力がないと読めない。本学では1年次に論理的思考を学ぶ科目があるが、文章を直接指導されるわけではない。こればっかりはどうしようもない。

 論理的文章は、科学・医学にとって必要な能力であることは疑いありません。他の記事でもチョコチョコ指摘していますが、論理的文章というのは生まれながらではなく学習できる能力です(創造的文章は学習が難しい)。小・中・高・大学校で「国語力」を重視した教育に転換していくことを望みます。


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