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日本語訛りの英語じゃあかんの?英語方言はどこまでオッケー?

ジャパリッシュって聞いたことありますか?

日本英語(日本語に影響されまくった英語)のことを言います。

英語とひとくちに言っても色々な英語があります(これを英語方言と言います)。

今回は、自分の話す日本語訛りの英語を気にしている人に向けて、「英語を使用している地域」「英語方言」「ジャパリッシュを話してはいけないのか」について、私の経験も織り交ぜながら書きたいと思います。

1.英語を使用している地域

英語を第1言語(母語)としている人(英語ネイティブスピーカー)は、中国語を第1言語としている人よりも少ないです。しかし...

使用人口が最も多いのは英語です。

下の図[英語の3つの円(1985年にKachruという社会言語学者が提唱しました)]を見てください。

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これは、英語が使用されている地域を3つに分類したものです。

「中心円」
この中心円にあるのが英語を第一言語(母語 English as a Native Language)として用いる地域(30以上)です。

アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドなどがこの中心円に入ります。多くの人が聞いたことがあるアメリカ英語、イギリス英語はこの中心円で話されている英語です。

この地域で話されている英語は英語のモデルとされていて、学校で学ぶ英語もこの地域で話されている英語になります。

しかし、中心円で話されていている英語にも方言はあります。

例:オージーイングリッシュ(オーストラリア英語)

「外円」
この外円にあるのが英語を第2言語(公用語・準公用語 English as a Second Language)として用いている地域(50以上)です。

インド、バングラディッシュ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タンザニア、ガーナ、ジャマイカなどの旧イギリス・アメリカ領植民地がこの外円に入ります(世界人口の約3分の1にあたる人々が、この地域で暮らしています)。

この地域では英語(学校や公的サービスなどで)と並行して母語(家庭内などで)が話されているため、母語の特徴に影響を受けた英語が発達しています(英語方言です)。

例:シングリッシュ(シンガポール英語)

「拡大円」
この拡大円にあるのが英語を外国語(English as a Foreign Language)として用いている地域です。公的サービスで英語を使用することはありませんが、多くの人が学校などで英語を学んでいます。

日本・中国・台湾・韓国・ロシア・ギリシア・インドネシア・サウジアラビア・ブラジルなどがこの拡大円に入ります。

外国語として英語を学ぶ人は急増しています。また、オランダのように英語の地位が外国語から第2言語へと移行している国も多くなっています。

このように、英語を第1言語としている人の数は中国を第1言語をしている人の数より少ないですが、英語を第2言語、外国語として話す人(英語ノンネイティブスピーカー)は地球上に広く分布し、英語はリンガ・フランカ(国際共通語)としてコミュニケーションの中心的役割を果たしています。

2.英語方言

当然、これだけ英語が地球上で広く話されていると方言があらわれます。

じゃあ、英語に標準語ってあるの?ってなるのですが...あるんでしょうか?

よく聞くアメリカ英語、イギリス英語も英語を第一言語として扱っている国で話されている英語ですが、これらも方言みたいなものです。イギリス英語とアメリカ英語は、語彙(エレベーター→アメリカ:elevator イギリス:lift)、綴り(色→アメリカ:color イギリス:colour)、語法(ナイル川→アメリカ:the Nile River イギリス:the River Nile)発音の仕方、アクセントの位置において、さまざまな違いがあります。

ちなみに、これは私の経験上の話なので何の根拠もないのですが、イギリス人はイギリス英語を標準語だと思っているし、アメリカ人はアメリカ英語を標準語だと思っていると思います...

そして「アメリカ英語はギャングスターっぽい」「イギリス英語は紳士っぽくて堅苦しい」とアメリカ人、イギリス人それぞれが、それぞれの方言を真似して笑ってます。

このように、英語の標準語を厳密に特定することは難しく、第1言語として話されている英語であっても方言と言えます。

「イギリス英語」

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イギリス社会は現在も階級意識が温存されています。そのため、イギリス英語は地域の方言と社会の方言(階級による方言)が密接に結びついています。

イギリス英語の王道は、BBCのアナウンサーが話すクイーンズイングリッシュ(キングズイングリッシュ)と呼ばれる英語で、階級の頂点にいる人々が話します。この英語はRP(Received Pronunciation容認発音)と言われるロンドンなどにいる教養ある人の発音(良い発音のモデルとされている)が使われていて、日本人にとっては聞き取りやすい発音となっています。大学の教授もクイーンズイングリッシュに近い英語を話す人が多いです。

また、有名な方言にコックニーと呼ばれるロンドンのイーストエンドという下町の労働者階級の方言があります。

イギリス英語は、この他にも地域ごとに方言があります(国土の面積のわりに地域による方言の差が大きい)。

例1:
スコットランド英語(私からしたら何語か分からないレベルの方言でした...日本語でいうズーズー弁みたいな?)
私がいたイギリスの大学院にスコットランド出身の講師がいましたが、彼女はバリバリのスコットランド英語を話しました。

いつも授業中に彼女が何を言っているのか分からないので、英語ネイティブスピーカーの友人に授業後に彼女は何を言っていたのか確認していました。

...が...たまに英語ネイティブスピーカーの友人でさえも彼女が何を言っていたのか分かっていない時がありました。
例2:
北部方言(これも癖の強い方言でした...)
私はリーズというイングランド北部にある大学院に留学していましたが、教授は基本的にクイーンズイングリッシュに近い英語を話してくれます(スコットランド出身の講師はバリバリのスコットランド英語でしたが...)。

しかし...一歩、大学の外に出てみると...街のスーパーの店員さん、これまた何言ってるか分からなくて、慣れるまでかなり大変でした。

何を言っているか聞き取れなくて「もう1回言って?」と言うと、必ずと言っていいほど、ゆっくり言ってくれるのではなく、話すスピードはそのままでイラっとしながら大声で言いなおしてくれるだけでした。これはおそらく海外に行ったことがある人の多くが経験したことがあるのではないでしょうか(笑)

「アメリカ英語」

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アメリカ英語は、17世紀のイギリスからの移民が話していた英語から始まっています。現在のイギリス英語では使わない表現が残っています。

アメリカ英語は北部(クイーンズイングリッシュに近い)・中部・南部で方言が分類されます(アメリカ英語は歴史が浅いため、国土の面積のわりに地域による方言の差が小さい)。中部方言は、アメリカで最も話されている方言で標準アメリカ語(General American)と言われています。

アメリカの先住民の言葉は地名などに影響しています。

例:Mississippi

また、アメリカの人種のるつぼ(多様な人種が存在)という特徴により、アメリカに住む多様な人々の母語に影響された語彙がたくさんあります。

スペイン語
例:barbecue
ドイツ語
例:hamburger
イタリア語
例:pizza
アフリカの言語
例:jam
中国語
例:typhoon
日本語
例:karaoke

「カナダ英語」

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1776年にアメリカがイギリスから独立した際に、アメリカにいるイギリス王家に忠誠を誓う人々(王党派)がカナダに亡命しました。カナダ英語はこのアメリカ出身の王党派の人々が話していた英語が基盤となっています。

カナダ英語はアメリカ出身者が話していたこと、カナダはアメリカと隣国であるという地理的条件からカナダ英語の発音はアメリカ英語に近いですが、綴りや文法にはイギリス英語の特徴が多くみられます。その理由は、この歴史的背景が関係しています。カナダに逃れた王党派の人々の話す英語の発音はアメリカ英語ですが、イギリス英語に近づけようと学校でイギリス英語の綴りや文法を教えるようになりました。その影響が現代まで続いています。

また、カナダはフランスの植民地であったという歴史的背景から、英語以外にフランス語が公用語であるためフランス語や、カナダの先住民族のイヌイットのことばに影響を受けたカナダ特有の英語も存在しています。

「オーストラリア英語」

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1778年にイギリスからオーストラリアに多くの入植者や流刑者がやってきました。オーストラリア英語は、このようなイギリスからの移住者が話していた英語が基盤であるため、イギリス英語と似ていますが、オーストラリア独自に発展した発音やG'day(hello)のような語彙があります。また、kangarooのようなオーストラリア先住民族であるアボリジニの借入語もあります。ロンドンの労働者階級からの移住者が多かったため、コックニーの特徴もオーストラリア英語には残っています。

オーストラリアの国土は広大ではあるものの、オーストラリア英語に方言の差は少なく、①イギリス英語のRPに近い「教養オーストラリア英語(Cultivated Australian)」②オーストラリアの大多数の人々が話す「一般オーストラリア英語 (General Australian)」③オーストラリア訛りの強い「俗オーストラリア英語 (Broad Australian)」の3つに分かれます。

「ピジン英語」

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ピジン英語(Pidgin English)とは、現地語を話す現地人と英語話者との間で、取引などで意思疎通するために便宜的に発達した最小限の機能を持つ、英語と現地語が混合した言語のことです。

ピジン英語の文法構造は単純であり、また語彙も限られています。ピジン英語を母語とする人はいないため、存在は不安定であり、使用する必要がなくなると消滅してしまいます。

「クレオール英語」

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クレオール英語(Creole English)はピジン英語が土着化し、世代を超えて受け継がれていくことで母語となった言語のことで、共通語として使われている地域もあります。

例:ハワイ・クレオール英語

クレオール英語はピジン英語よりも文法構造は複雑であり、語彙も豊かであるため、他の言語と複雑さは変わりません。

ピジンからクレオールへの変化は、人間が自然に単純な意思疎通の手段を作り出し、それを精密化していくという言語の成り立ちの過程を表しています。

「新英語」

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中心円内の英語(イギリス英語、アメリカ英語、カナダ英語、オーストラリア英語など)は独自の発達を遂げ、それぞれの特徴を持った英語になりました。同様に、外円の英語(インド英語、シンガポール英語など)も第一言語の影響を受けることにより独自の発達を遂げ、英語の変種(新英語)として確立されています。

例:インド英語
インド英語は、かつてインドがイギリスの植民地であったという背景からイギリス英語が基盤ですが、文法や発音などは独自に進化しました。特に発音に特徴があります。例えば、「R」の音は巻き舌で「ル」とそのまま発音するので、「park」は「パルク」になります。

私がイギリスで住んでいた寮の部屋の隣にはインド人の女の子が住んでいました。彼女はインド英語を流暢に話すのですが、日本人の私には全く彼女の英語が聞き取れません(私の英語力の問題もあったのかもしれませんが、何度聞いても分かりません笑)。とりあえず、彼女と話す時はヘラヘラ笑ってその場をやり過ごし(←典型的な日本人の逃げ方です)、部屋に戻った後にメッセージを送り、要件を文章で確認するという作業をしていました。
例:シンガポール英語
シンガポールはイギリスの植民地支配下であったため、シンガポール英語はイギリス英語が基盤となっていますが、インド英語と同様、独自の進化を遂げています。シンガポール英語の有名なものの1つが「オッケーラ!(Ok, lah!)」です。

「オッケーラ!(わかったよ!)」の「ラ"lah"」は、中国語の完了の意味の「了」からきていると言われています。

「日本英語」

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日本英語(ジャパリッシュ)は日本語に影響を受けた英語のことです。よく日本人の話す英語の発音について話題になることがありますが、発音以外に語彙、文法においても日本英語は日本語の影響を受けています。

発音
例:”RとL”や”SとSH”を区別せずに発音する。

I eat Rice everyday.(私は毎日お米を食べます。)
I eatLice everyday.(私は毎日しらみを食べます。)

S
it down!(座って!)
SHit down!(ク○をしろ!)←トイレですることです。

前者を言うつもりが、後者を言ってしまっていることが多く、ちょっとギョッとしますね。文脈で理解してもらえるとは思います。
語彙
例:"apartment / flat"を"mansion"と言うように、単語を本来の意味で用いず、別の意味で用いる。

I live in a mansion.(私は豪邸に住んでいる。)
I live in an apartment / a flat.(私はマンションに住んでいる。)

前者を言うと驚かれます。本当に豪邸に住んでるならmansionでいいと思います。
文法
例:状態を表す動詞を進行形(~している)にしてしまうように、日本語をそのまま英語にする。

「それを知っているよ。」
I know that.
I'm knowing that.

「知っている」というような状態を表す動詞は英語では進行形にできません。しかし、単語が合っているので、理解してもらえると思います。

3.ジャパリッシュを話してはいけないのか

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英語方言で見てきたように、中心円の中にある国々でさえ方言が存在し、外円で話されている英語(インド英語やシンガポール英語)も市民権を得て、英語方言として認められています。では、日本語訛りの英語である日本英語(ジャパリッシュ)を話してはいけないのでしょうか。

英語はコミュニケーションの手段であるため、通じない英語は意味がありませんが、通じることが前提の日本語訛りの英語ならば話していいと思います。英語はもはや中心円の中の国々だけで使用されている言語ではなく、世界中で話されている言語、つまり第一言語が異なる人々の間のリンガ・フランカ(国際共通語)でもあります。日本国内では、中心円の中にある国々で話されている英語(アメリカ英語やイギリス英語など)が話せることがカッコよく、自慢になります。しかし、アメリカ英語やイギリス英語といった”ネイティブのような英語”を話すことにこだわりすぎて英語でコミュニケーションすることを恐れていては、英語はリンガ・フランカとしての役割を果たせません。ネイティブのような発音や表現ができずに英語を話すことを恐れているくらいならば、通じるように練習した日本語訛りの英語を話した方がいいのではないでしょうか。

また、日本人と韓国人のような東アジア人同士の場合、英語ネイティブスピーカーが話す英語よりも、東アジアの言語訛りの英語の方が聞き取りやすかったり、親近感がわいたりします。

(東アジア人同士の親近感については「留学中は、どこの国の人と仲良くしたらいいの?~留学先での友人関係が留学を成功に終わらせる鍵を握っている~」で書いています。)

インド英語であれ、シンガポール英語であれ、どれも訛りはきついですが英語です。英語は、もはやアメリカやイギリスだけの言語ではなく、世界の言語です。日本語の関西弁、博多弁、広島弁、東北弁...のようにそれぞれが話す人のアイデンティティを表しているのと同様に、自分が話すジャパリッシュに自信を持ち、私たちのアイデンティティとして誇りを持っていいのではないでしょうか。

4.最後に

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以上、英語が話されている地域と方言をジャパリッシュ(日本英語)も含めて見てきました。

自分の話すジャパリッシュに自信が持てない人も多いかもしれませんが、世界には強烈な方言を自信満々に話す英語話者はたくさんいます。ジャパリッシュは間違った英語と決め込むのではなく、英語方言の1つであり、自分のアイデンティティだと誇りを持っていいと思います。ただ、コミュニケーション手段として英語を話すにも関わらず、ジャパリッシュもアイデンティティだからと言って通じない英語を話していては本末転倒です。通じるように練習する必要はあるでしょう。

ジャパリッシュが市民権を得ることができるように、通じるジャパリッシュを誇りを持って世界にどんどん広めてはどうでしょうか。

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