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トップボイストレーナーが語る!日本語の言語構造から考えるボイトレとは?【長塚全先生対談#03】

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今回は、都内のスタジオでプロの歌手や声優のレッスンを行っているボイストレーナーの長塚全先生と、サックスプレイヤー、沢井原兒先生の対談の第3回目をお送りします。


対談では、長塚先生がボイストレーナーとしてのお仕事を始められたきっかけや、実際に指導されている理論的なボイストレーニングについて、また、今の日本のボイトレ事情やそれに対する思いなどをたっぷりと語っていただきます。
ぜひ最後までお楽しみください。
(以下、敬称略)

【対談者プロフィール】

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長塚 全(ナガツカ ゼン)

1バンドのボーカルとして活動、俳優としてロックミュージカル「ピンクスパイダー」(グローブ座)や「TIGER & BUNNY THE LIVE」(Zepp DiverCity)「THE SOUND OFTIGER & BUNNY」(東京国際フォーラム)等へ出演、その後都内ボイストレーニングスタジオで5年間トップトレーナーとして活動、2018年から渋谷に自身の理論的ボイストレーニングを追求するプライベートスタジオをオープン。
音声学&発声学を基盤とし感覚的ではない理論的なメソッドで声や歌の問題解決とレベルアップを行い、多くのプロ歌手や声優を指導中。
また「芸能音声教育」の質の向上に向け音声や言語、感情を扱う大学教授達と連携を取り音声の研究にも携わる。


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沢井原兒(サワイ ゲンジ)

20代より多くのジャズバンドに参加。
アルバムのプロデュースは40枚を超える。
矢沢永吉/RCサクセション/鈴木雅之/加山雄三/今井美樹/米倉利紀/REBECCA/中村雅俊/上田正樹/シーナ&ロケッツ/吉川晃司/小林克也 他、Stage Support / Produceを行う。
インストラクターとしてはヤマハ、音楽学校メーザー・ハウスなどで40年以上。現在は株式会社MOP代表、IRMA役員。


\さらに詳しい情報はこちら📖/


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\前回の対談記事はこちら!/

自分の声の音域や、ボイトレそのものに対する思い込みが払拭される興味深いお話満載の対談となりました✨

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1. 日本語の言語構造からボイトレを考える


沢井:今、音楽の学校って生徒がどんどん減っているんですよ。でも逆に、声優の学校はどんどん増えているんですよ。



長塚:なるほど、そうなんですね。



沢井:声優の学校はボイトレのクラスもありますが、レッスンをしっかりやっている学校もあればいい加減にやっているところもあるという話も聞きますから、そう感じている人にはきちんとしたレッスンを是非とも受けてもらいたいですよね。



長塚:そうですね。大体声優さんは、声優の養成所に2年間通ってそこの直結の事務所に所属する方が多いんですね。
声優をやっている生徒さんが僕のレッスンに来たときに話を聞くと、「それなりにボイトレはやってきた」って言うんですけど、実際レッスンを進めていくと腹式呼吸も発声のことも曖昧なんですよね。
それで僕が発声の仕組みとかを説明すると、その瞬間にバン!と発声が変わるんですよ。
すごく目をキラキラさせて「こういうことなんですね!」っていう感じで。
なのでこういったレッスンはすごく広げていきたいなと思っています。


沢井:なるほど。あと言語の違いってあるじゃないですか。
日本語と英語の喋り方って全然違うと思うんですよね。
英語の方って割と声が低いイメージがあるんです。
普段から喋る喋り方が違うから、日本人は喉を使うのがあまり上手じゃないのかな、と思っているんですが、そのあたりはどうですか。


長塚:まず日本語と日本語以外の主要言語で分かれるくらい、日本語って特殊なんですよ。

例えば「Thank you」っていう言葉も英語だと2リズムなんですが、日本語だと4リズムになるんですよ。
どういうことかと言うと、言語の構造が英語だと「Th」という部分が子音(θ)で、「a」(æ)「n」(ŋ)が母音と母音でこれがひとつの母音になるんですよね。
そして「Thank」の「k」(k)が子音なので、構造的に言うと「子音+母音+子音」という形になるんです。
それで「you」は両方とも母音(j+u ※英国英語の場合 j+u:)でひとつの母音になるんですね。
合わせて考えると、「Thank」と「You」で母音がひとつずつということです。

言語のリズムの決まりごとという観点から考えても、「1拍のリズムの中に母音はひとつしか入れない」という仕組みがあるので「Thank You」っていう2リズムになるんです。

でも日本語だと、「サ」に子音と母音がそれぞれがあって、「ン」も母音で、「キュ」も母音と子音があって「ー」は長母音なのでこれも母音なんですよね。
つまり、母音が4つあるんですよ 。
なので、4つに区切れちゃう、ということなんです。

その区切れる単位を僕らは「モーラ」と呼んでいるのですが、その最小単位で喋っているのが日本の言語体系なんですよね。
日本以外はほとんど違うんですよ。
「子音+母音+子音」で1つの塊になるのをシラブル(音節)って言うんですけど、ほとんどの国はその音節言語なんですよ。
韓国語もシラブル構造です。

そういった実情がある上、日本の母音っていうのはいちいち声帯がグッと止まる発声をしているので、1回止まってしまうんですよね。
だから歌っている時も全部喉が止まるので、童謡を歌っているような感じになるんですよね。


沢井:なるほど。リズムが出てこない感じですね。


長塚:そうなんですよ。
例えば英語で自分を指す「アイ」とラブの日本語訳の「愛」って、同じ「ai」って書きますよね。
二重母音で1拍で読む「ai」なんですけど、日本語だと「アイ」って平板に読んで、ほぼ「ア」と「イ」を同じくらいの長さで発音するんです。

でも英語だと「ア」が短くて「イ」が長くなるので、抑揚がものすごく出るんですよ。
そういったところが大きな違いで、日本でもすごく上手いボーカルの方は日本語を少し英語の言語構造に変えて歌っているんです。


2.ボイトレは、その時代、その年代の「好き」を考え進化させるべき


長塚:あとは声の高さで言えば、例えばこれは日本の文化だとも思うんですが、「女性は女性らしく丁寧に」といったような、昔からの流れみたいなものがあると思うんですよね。
でも今は少しそういうのも無くなってきて、女性が喋る言葉も「超やばいよね」とか、元々は男言葉だったものを取り入れていたりします。

あとは男子も「男たるもの男らしく」といった風潮から、話す声も基本的に低かったんです。
でも今は「髪も染めてピアス開けて眉毛は細く」というようなことが当たり前になって、「らしさ」についての価値観が変化していったのと同じように、声も最近めちゃくちゃ高くなってきたという現状があるんですよ。


沢井:なるほど。


長塚:なので文化と一緒に言葉も発声志向も変わるということなんです。


沢井:確かにそういう意味で言うと、低い男性のボーカルって今少ないですよね。


長塚:そうなんですよ。
昔は、石原裕次郎さんとかが若者に売れていたのが、今だとOfficial髭男dismとかKing Gnuとかみたいな、めちゃめちゃ音域が高い男性ボーカルが若者に人気がありますよね。
同じ世代が好きなだと言うものも、時代や文化によって変わっていくという現象も面白いです。

そしてそういった変化があるのにも関わらず、ボイストレーニングの仕方を昔と変わらない方法でやっていては、すでに文化的な発声が変化している現状があるので、結局ずれてしまうんですよね。
今人気のある高い歌い方も絶対にできない、ということにも繋がります。


3.なぜ韓国の音楽はレベルが高いのか?


沢井:なるほど。BTSとかの英語を聴くと、やはり日本人の英語に比べるとすごいなと思うんです。
あと歌い方も、韓国の人のリズム感とか声の出し方とかメロディーの取り方とかもすごいなと思っていて、やはり日本のボーカリストと比べるとレベルが違うなというふうに感じるんですよね。
それは教育のせいなのか、元々の言語のせいなのか、そのあたりはどうお考えですか。


長塚:全部あると思います。
まず、言語ですね。
先程お話した、日本語特有の1個1個区切って話す言語構造というものが韓国語には無く、英語と同じ、シラブル構造っていうリズム言語なんですよ。
それが日本語と比較して、韓国語がより英語と近い部分のひとつでもありますね。

あとは韓国の芸能教育のレベルがとても高いという点もひとつの理由です。
本当に小さい幼稚園の頃から、ものすごいスパルタの養成所に入って英才教育を受けて、その一握りがプロになれるという仕組みなんですよね。
しかもプロになっても外されることもあるくらいの厳しい教育をしてるみたいなので、そういったところも韓国のボーカリストのレベルが高い所以だと思います。


沢井:努力の成果ということですね。


長塚:そうですね。あとは欧米をしっかり見て技術を取り込もうとしている、というところですよね。
なので日本と比べると自分の母国語以外に喋れる言語を持っている人が多いですよね。

僕もKPOPが好きで聴いている時に、韓国ではいわゆる「アーティスト」ではなく「アイドル」として活動している、20歳くらいの女の子たちがものすごく上手に歌を歌っていて、しかもダンスもものすごく上手かったんですよ。

何万人規模の会場を満員にしてライブしている映像を見た時に、英語で喋ったり、また他の場所では中国語で喋っていたり、日本語も喋れるっていうのを見た時に、僕はその時英語を全く喋れなかったので、「自分は何をやっているんだと」思いましたね。
「広い世界を見たい」と思っているのに、英語のひとつも喋れないと思って即英語の勉強をしに行きました(笑)


沢井:そうだったんですね(笑)
先程のレベルの高い芸能教育といった部分にも関連するかと思うのですが、韓国の音楽産業ってあるじゃないですか。
音楽市場だけでは無いですが、韓国の経済を全体的に考えた時に、国内だけで考えるとやっぱり限界があるんですよ。

韓国のアーティストが日本のマーケットで活躍しようとするのは、日本の音楽産業が世界で2番目に大きいからなんです。
だからそういう意味で言うと、世界のアーティストが日本をマーケットとして考える意味というのはやはり日本の音楽市場が大きいからということなんですよね。


長塚:なるほど、そういうことなんですね。


沢井:日本の音楽産業は自分の国で十分やっていけるわけなんですよ。
だから、「日本で売れれば別に海外で売れなくてもいいや」みたいな考え方があるのも事実でしょうね。


長塚:そういう仕組みがあるから、海外展開をしないと言うか、あまり目を向けないということなんですね。


沢井:色々やってはいるんだけど、韓国ほど必死じゃないんですよね。
でも韓国は、国内で売れてもマーケットが日本の1/10くらいなので、お金にならないんですよ。
そういう状況の中で、世界で売れなければいけないってなった時に、まず韓国が考えたのが日本だということです。
日本のマーケットで売れることを目標にしていてそこが達成されたので、その次にアメリカに展開していったわけですよね。
そのやり方やはり戦略的にもすごく上手くいっているし、実行しているアーティストも偉いと思いますね。
そういう意味で言うと、日本の音楽産業はどんどん衰退しているので今こそ海外展開を考えるべきだと思いますけどね。
そのためには長塚先生に頑張っていただきたいです!


長塚:はい、もう機会を与えていただければ全力投球をする準備はできています!

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今回は、知られざるボイストレーニングの世界をより掘り下げ、日本語の言語構造についてや、またそれを踏まえた上で、日本の音楽教育の現状と課題を総合的に考えるディープな内容となりました。

特に、時代や文化の変化に伴って、同じ世代でも刺さる音楽が違うということ、そのためボイストレーニングの方法も進化していく必要があることなど、普段意識が及んでいなかった部分についてのハッとするお話をたくさん聴くことができ、とても気づきの多い対談回だったと思います。

次回はいよいよ長塚先生の対談最終回です。
歌手を目指している人、声優を目指している人、歌がうまくなりたい人などなど、声に興味のある方はお見逃しなく!


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