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朝ごはん

皆さんがアメリカ、と聞いて最初に思い浮かべる食べ物は何であろうか?ハンバーガーにポテト?硬そうなステーキ?カラフルなお菓子?はっきり言って、アメリカの食べ物はあまりおいしいイメージはないと思う。


私が初めて行った海外は、アメリカだった。17の時交換留学という形で親元を離れひとりで海を渡ったのだ。アメリカは小さな頃からの憧れで、夢の世界だった。映画や文通を通してしか知らなかったアメリカに実際に行けるのだ。英語なんて殆ど喋れなかったけれど、行けば何とかなるさと思っていたし、私はそういうときだけは必ずポジティブ思考になってしまうので、案外うまく人生の修羅場を切り抜けているのかもしれない。
英語が喋れないグループは、夏休みの間補修を受けるために一ヶ月ほど早く現地入りした。7月の下旬だったと思う。ユナイテッドエアラインの小さな席で、両端を巨体のおばさんに挟まれ私はまずい機内食までワクワクのせいでおいしいと感じ、眠れぬままサンフランシスコの空港に降り立った。空港で一旦バスに乗り、補修を受けるセンターのような場所でそれぞれのホストファミリーが出迎えてくれる手筈だ。私は一ヶ月のうちに二つのホストファミリーにお世話になる事となっていて、前半のホストファミリーはお父さんお母さん、兄のジェレミーが16歳で妹のクリスティンが12歳だった。出迎えには妹のクリスティンとお父さんが来てくれ、花束と風船まで用意してくれていた。私は拙い英語でお礼を言い、その後も色々喋り掛けてはくれたのだが、全く聞き取れない。もう自分が宇宙人になった気分だった。しかし途中で皆の夕食を買う、とマクドナルドのドライブスルーによってくれ、なんとなくほっとした。マクドナルドは父が連れ出してくれる時必ず行ったから(マクドナルドかモスバーガーだった)、私にとっては安心できる場所だった。その頃アメリカにはまだスーパーサイズというものが存在して、そのファミリーはスーパーサイズを注文した。ポテトとドリンクはすごくでかいのに、ハンバーガーだけは日本と同じサイズだった。何でもでかいというイメージがあったので、このマクドナルドのハンバーガーには拍子抜けしてしまった。そして、みんなポテトにはケチャップをつけて食べる、それが案外おいしかったので嬉しかった。お父さんのスコットはエンジニアで背が高く、リンカーン大統領みたいな顔だった。クリスティンは12歳にしては大人っぽく、インタビューウィズヴァンパイアに出てくるキルスティン・ダンストみたいだった。でもやはり中身は子供で、私のファッションやカメラに興味津々。家に着くとお兄さんのジェレミーが部屋にこもってゲームをしていた。なんか髪の毛が長くて驚いたけれど、少し私と同じ匂いがすると思った。その後裁縫師として働くお母さんのパムが仕事から帰ってきて、一家がそろった。お母さんは小柄だけど青い目とブロンドヘアーが、典型的なアメリカ人のイメージで、気さくだった。私は妹のクリスティンと相部屋になった。その夜、ファミリーと一緒にスーパーマーケットに買い出しに行ったのだけど、全てのものが大きく私は興奮してしまい、日記にしっかりと”全部大きくて夢みたい!ここにずっと住みたい”、なんて記してあった。帰りがけに月曜日から通うセンターまでの道を教えてくれたのだが、真っ暗で何もわからなかった。


次の朝起きるとジェレミーが朝食を作ってくれており、みんな黙々と食べていた。ジェレミーが得意げにすすめるので嬉しくなってありがとうを言い、席に着いた。それはおかゆみたいなもので、隣にいたクリスティンが白い粉をふりかけ食べていた。白い粉はグラニュー糖で、え?お米に砂糖?と意外だったがまずは砂糖をかけずに一口食べた。まだ芯が残っていて、ミルクと一緒に炊かれたお米は信じられない位まずかった。日本人=お米と思ってわざわざ作ってくれたんだろうか?得意げなジェレミーには悪かったけど、みんながダイニングルームから去ったあと、残りを捨てた。

その後二組のホストファミリーにお世話になるのだけれど、どこに行ってもアメリカの朝食はシリアルだった。コーンフレークに牛乳。一番最初のホストファミリーは砂糖のかかっていないコーンフレークを常備しており、それをボウルに入れ好きなだけグラニュー糖をふりかけ、牛乳を注ぐ。その次のファミリーは結構きれい好きのファミリーで、寝室でお菓子を食べたらダメという決まりがあった。お母さんと12歳の娘、そしておじいちゃんとおばあちゃんの4人家族。おじいちゃんとおばあちゃんは庭のキャンピングカーで暮らしており、それでアメリカ横断をしたそうで、中もすごく立派なものだった。おばあちゃんはアーティストで、行った場所で絵を描き個展まで開くほどだ。そのファミリーは毎日凝った料理をするのだけれど、朝食はシリアルだった。それもカラフルな色のが何種類か常備されている。娘のミッシェルは新体操を習っており、ユーモアのセンスが私と結構似ていたので毎日が楽しかった。夏休みの補習が終わり、私は留学センターの手配により一年間過ごすファミリーが決定した。子供は全て成人したおじいさんとおばあさんの家だ。夏休み過ごしたサンタローザから同世代の子達の運転する車に乗り、ゴールデンゲートブリッジで私とファミリーのお世話をするカウンセラーにあった。そこからまた車で1時間半ほどでトレイシーという町に着いた。自然が少なく、がっかりしたのを覚えている。


変な前置きが長くなってしまったが、私が書きたかったのは如何にアメリカの朝ごはんがおいしいか、という事だ。アメリカの朝食は牛乳をかけて食べるシリアルが主流だが、実は結構バラエティに富んでいるのである。冷たいシリアルにもいろいろな種類があって一年過ごしていくうちにお気に入りが出来た。砂糖のついたコーンフレークも地味でおいしいが、無人島に三種類のシリアルを持って行けるなら私は、シナモントーストクランチと、クリスピーライスのチョコレート味と、シナモンアップルジャックを選ぶと思う。子供のころコーンフレークは我が家では高いものだったのでめったに買ってもらえなかった。しかも日本のコーンフレークは中身の量が少ない。すぐなくなる。牛乳もすぐなくなる。
シナモントーストクランチはシナモンシュガー味の正方形のシリアルだ。これをたっぷりの牛乳をかけていただく。私が愛してやまない冷たいシリアルの特徴は、その変化する食感にあると思う。初めはクリスピーでサクサクだ。冷たい牛乳とも見事にマッチする。しかし時間が経つにつれ牛乳を吸収したシリアルは不思議な弾力をつけ、日本風に言うならモチモチになるのだ。そのモチモチの食感のシリアルもまたおいしいのだ。クリスピーライスはあまりモチモチではないが、牛乳を吸ったあとの方が私は好きだ。しかし、シナモンアップルジャックは牛乳と食べるよりも小さなジップロックに入れて、たまにつまむ。アメリカではみどりとオレンジのドーナツ型のシリアルは、学生たちのおやつだった。牛乳をかけない方がおいしいシリアルはいくつかあって、コーンポップスというジャイアントコーンみたいな形のシリアルは、つまむために作られたようなシリアルだった。甘くておいしい。


一年お世話になったファミリーは、私を一人娘のようにかわいがってくれ、私の好きなシリアルを三箱くらい常備してくれていた。
冷たいシリアルの他にアメリカには温かいシリアルも存在する。暖かいシリアルで有名どころと言えばオートミールやグリッツであろう。食わず嫌いでない私は、よっぽど体に悪そうなものでない限り、食べてみることにしている。しかしまだアメリカに来て間もない頃、このオートミールだけはどうしても一口食べただけで完食できなかった。そういう食べ物はいくつかあって、不思議な事に今となっては好きになってしまっている。作り方にもコツがいるんだと思う。娘を産んだ病院の朝食のオートミールがすごくおいしかった。インスタントのオートミールは手ごろだし、速くできるし、味も色々ある。でも昔ながらのオートミールもたまにはいい。一晩水につけておく手間はあるけれど、味や食感が違う。温かく調理したオートミールに、ブラウンシュガーまたははちみつをかけて少量のバターを入れる。その時に有塩のバターにすると甘さが引き立っておいしい。家庭によっては生クリームをかけて食べる事もあるし(ホイップしていないやつ)、メープルシロップをかけてもいい。水でなく牛乳で煮込む家庭もある。インスタントのオートミールでお勧めするのはシンプルなメープルブラウンシュガーと、ストロベリークリームだ。私はちょっと水や牛乳を少なめにして作り、冷めたころに食べるのが好きだ。


グリッツはトウモロコシのおかゆなのだが、アメリカの南部でよく食されているようだ。朝食以外にも、主食のように食されているようで、初めて口にしたときはやはりおいしいとは言えなかった。甘いものが多い中で、グリッツは塩気の味が多い。まあ、素朴な食べ物だ。他にもクリームオブウィートなるものや、インスタントおかゆのようなものまである。やはり甘いものが主流で、全部まずい。
シリアルよりも手軽な、飲むタイプの朝食というものも存在している。これは風邪で食欲がないときに栄養をつけるのにも一役買ってくれるし、あまりおいしくないが、色々な味があって子供達にも好評だ。カロリー控えめでダイエットしている人向けのものと、栄養をつける人用の商品が存在するので、ダイエットしている人は間違わないように気をつけましょう。
ちょっと脱線して牛乳の話になるのだが、アメリカには日本の紙パックサイズの牛乳も売られているのだが、一般家庭の冷蔵庫に常備されているのはガロンサイズの大きな牛乳だ。一ガロン約4リットル。サイズも豊富だが、種類も様々だ。私の家庭では無調整乳を買っているが、体系を気にする人たちは脂肪分2パーセントの牛乳を購入している。もっと気にする人の為にノンファットミルクというのやスキムミルクというまずそうな商品まである。しかしそういうダイエット食品を買っている人たちに限って太ってたりするのは、なんでだ?ダイエットソーダを飲んでいる人にはデブが多い国、アメリカ。
そして最近牛乳の代わりの○○ミルクなる商品が異様に増えてきた。10年前は豆乳とライスミルクくらいしかなかったのに、今ではアーモンドミルク、カシュ―ミルク、ココナッツミルク、どんどん増えてきて味も豊富で、オーガニックを売りにしている製品も多い。アレルギーにもちゃんと対応できる国、それがアメリカだと思う。子供の学校でもアレルギーのある子供にはきちんとオプションがあるし、ベジタリアン食や宗教ごとにきちんと対応してもらえるのは本当にすごいなあと思う。子供達は公立校に通っているのだけれど、朝食を食べてこない子があまりにも多いので、全ての学校が朝食を全生徒に提供する事となった。(おなかが空いて授業に集中できない)これはすごい取り組みだと思うし、親が仕事を掛け持ちしているとどうしても朝寝過ごしてしまうこともあるかもしれない、それに貧困という背景もある。すごく貧乏な人たちは政府から援助がもらえる。しかし本当に苦しいのはその上にいる、貧困ではないがぎりぎりの生活を強いられている人たちだと思う。政府から援助が得られないので、全ての支払いが発生し、それを払い、家賃を払うと食費がどうしても少なくなってしまう。(しまった、牛乳の話から貧困の話になっている)とにかく、朝の忙しい時間を優雅に過ごせる全生徒朝食提供はすごく良いと思う。
一般家庭では、忙しい平日の朝食は簡単にすましてしまえるものが主流なのだが、週末になるとゆっくり時間をかけて一日料理を楽しむ家庭も少なくない。そのスタートである朝食は私のイメージしていたアメリカとは違い、おいしかった。アメリカの本格的な朝食はおいしいのだ。一般的で本格的なアメリカの朝食はこんな感じである。パンケーキかトースト、またはワッフル。もしくはフレンチトースト。そして卵料理、ハッシュドポテト、ベーコンにソーセージ。これが一つのプレートに盛り付けられるのだ。この豪華さ、おいしさ、不思議なハーモニーといったら格別で神聖なのだ。野菜がないけど、そんなのは気にしなくてよいのだ。ランチやディナーがあるのだから。


パンケーキは日本の甘くて分厚いものとは少し違い、薄くて甘味はない。これを三枚くらい積み重ねて、バターとシロップをかける。アメリカではマーガリンは体に悪いものだから、バターを使う家庭も増えては来ているが、安いマーガリンの方が売れている。私はマーガリンの後味が嫌いなので、(日本のはおいしいと思う)アメリカではバター派だ。パンケーキ用のシロップもコーンシロップ系のものはあまりお勧めしないが、体に良いとされているものはなぜだか高い。メープルシロップかはちみつが無難だろう。卵は一人ひとりお気に入りの調理方法が存在するらしく、一番簡単なのはスクランブルエッグだろう。

そして目玉焼きの両面を焼くオーバーイージー、片面だけ焼くサニーサイドアップ、ゆで卵やポーチドエッグなど、卵一つとっても飽きない。私はバターと塩コショウ、生クリームで調理したスクランブルエッグが好きだ。それをそのまま半分くらい食べ、残りはケチャップをかけたり、タバスコを振ってみたり、とにかく楽しむ。ジャガイモを千切りにして塩コショウで味付けし、オイルで炒めたものがハッシュドポテト、またはハッシュブラウンというのだが、これもおいしいのだ。多くのアメリカ人はケチャップでいただく。そしてここでカギとなるのがベーコンとソーセージであろう。ベーコンは豚のベーコンの他にターキーやベジタリアン用のベーコンまで存在する。ベジタリアンになっても肉を食べたい人間の心理って何だろうな?(ミートレスバーガー、ミートレスホットドッグ、ミートレスエブリシング、超アイロニック)ベーコンはカリカリベーコンが主流だ。フライパンでカリカリになるまで調理するのだが、その時すごく油が出てくるので、何度か捨てる。南部の人たちはその油を捨てずに専用の入れ物に移して保存し、ほかの料理するときに使うそうだ。体に悪そうだが、大きいスーパーでは普通にショートニングやラードが売られている。一年お世話になったホストファミリーは、常にショートニングを使い調理をしていた。カリカリになったらペーパータオルで余分な油をふき取る。そして日本のソーセージとは程遠いアメリカのソーセージ。初めて口にした時は、日本のシャウエッセンが恋しくて(今でも恋しいけどな)、あまり好きじゃなかったのだけど今ではシャウエッセンと同じくらい好き。皮なしでハーブで味付けされたポークソーセージにもいくつか種類があって、私はメープル味が好き。このソーセージまたはベーコンの塩気にパンケーキのシロップの甘味がマッチしておいしいんだなあ。そして大体コーヒーとオレンジジュースが一緒に出される。アメリカのほとんどの家庭にはコーヒーメーカーがあって、私は朝コーヒーの匂いで目が覚めていた。一年お世話になったホストファザーはコーヒーにウイスキーを入れて飲んでいた。


私はよく夕食時にこの朝食を作ることがあり、子供にも好評だ。マクドナルドも最近、朝食セットを一日中販売し始めた。ジャックインザボックスはもう随分前から一日中朝食のセットをオーダーできる。アメリカにはそんな朝食専門のレストランが二つほどあり、一つは日本にもあるデニーズで、もう一つがIHOPだ。IHOPはインターナショナル・ハウス・オブパンケーキの頭文字で私今まで(アメリカでは)デニーズでことごとく残念な接客しか受けてこなかったので、自信をもってIHOPをお勧めする。皆さんもアメリカにお越しの際は、ぜひ本格的な朝食を堪能してほしい。私のお勧めは季節の商品に一番安いセットを追加するやつ。大体7ドル前後だったので、マクドナルドのビッグマックのセットと同じくらいの値段!それにコーヒーを付ける。ソーセージとベーコンどっちにしますかと聞かれるのでどっちともというと、どっちとも出てくる。(Bothね、Both)卵はスクランブル。タバスコと、ケチャップをくださいっていうとビンで出てくる。そしてクレープもおいしい。甘酸っぱいリンゴンベリーのソースとバター。写真では物足りないけど、実際食べると結構な量。これをセットにすると少しつらいが、アメリカではほとんどの商品の食べ残しをお持ち帰りできてしまうのです。Box くださいっていうとすぐ持ってきてくれる。パンケーキも食べたいけど、クレープも食べたいっていう人には、デザートのアイスクリームとクレープが一緒になったのをお勧め。ラズベリーのソースが一番おいしい。


ああ、すごく長々とアメリカの朝食について書いてしまったけれど、アメリカの本格的な朝食はなぜだか日本の朝食と似ている。日本の白ご飯と焼き魚、おみおつけに生卵、もしくは卵焼き(うちの母は塩味で父は甘い卵焼きだったのでどっちも好き。だし巻き卵もおいしいよな)、ああ端っこがカリカリの目玉焼きも捨てがたい。一日のスタートである朝食は夢が無くてはいけない。食べる事は生きること。食を通じて世界中の人間が仲良くなれる気がするし、食は異国の友達を作るきっかけにもなる。日本にいた時、知っとこの世界の朝ごはんがすごく好きで、欠かさず見ていたくらい私は朝ごはんが大好きだし、食べる事が大好きだ。まだまだ私たちの知らない食の世界というのは存在すると思うので、地道にいろいろな国の食べ物を食べていこうと思う。
ああ、シャウエッセンが食べたい。(バイエルンも捨てがたい)

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