企業編1-何もないところから始める 結局、組織人とは何か?
"新規事業部へ異動"
とても忙しい中、内示が言い渡された。「なぜ私が?」と考える間も無く、具体的な組織名と概要の説明に入る。
周りでは、早期退職や子会社に出向になる人達もいるようで、ザワついているようだ。
mamekaがいる企業は、グループ全体で数万人がいる会社だ。
世の中の激しい変化についていくため、成長分野に注力していくことがニュースで大々的に発表された。合わせて、新社長の発表にうつる。
「当社はこれから第二の創業をします」
自分の会社の新社長が交代するらしい。私にとっては雲の上の存在だ。
TV越しでも伝わってくるオーラがまるで違う。数々の修羅場を潜り抜けてきたのだろう。
そんなことより、私は、まず目の前の結果を出さなければいけない。
「それでは、部の説明は以上になります。mameka君、何か質問はある?」
この会社に入ったときを思い出した。とても優しい教育担当の年配の女性だ。愛社精神をもち、会社に関することはほとんど知っていて、気になったことは何でも教えてくれる。一緒に話していると、ホッコリとした気分になる。
「そうだ。部署が異動になったので、久しぶりに挨拶に行こう」
最近フロアを移動するのに、階段を使うようになった。それでも、最近、フロアの縮小があるらしく、階段から入ろうと思ったフロアの入館証がエラーになる。
「もうロックがかかり始めたのか。最近経費削減っていっているみたいだし、オフィスも移転するのかな?」
結構フロアに人がいる。こちらもザワついている。
「あら、mameka君。私ね、これから起業しようと思うのよ。この際、いいきっかけだしね」
手元の紙を見てみると、”早期退職”の文字がチラッと見えた。出来るだけ、顔に出さないようにしているが、悲しさの感情がこみ上げてきた。
「あんなに、会社のことを愛して、ずっと尽くしてきた人が?」
「保育園とかいいと思うのよ。私子供好きだし、これからも機会があったらよろしくね」
〜私が営業で担当している商材は、時代の流れについていけないでいる。
スタートアップの次のキャリアを悩んだ。それは、今流行りのコンサルティング業界だ。一部のトップ、そして、IT。
これらは、順調に伸びている一方で、立ち位置を明確にしていない企業は、これから厳しくなると感じた。
「今回も衰退業界のケースか」
『縮小する市場の中で、どのように手を打っていくか』『コストをどう減らしていくか』
もっと前向きな仕事がしたい。米国や中国では、スタートアップを中心に、新産業を盛り上げているのに、
「日本では、なぜ新産業創出が進まないのだろう?」
「そもそも変革は内部からではないと進まないのでは?」
そう思っていると、部長に声をかけられた。
「おい、次の新規事業プロジェクトは”mameka中心”でやって欲しい。
メンバーもエースが揃っている」
周りを見渡してみると精鋭ぞろいだ。一方、私には何ができるのだろう?
メンバーはMgrと私含めて、全員で6人か。意外に人数は少ない。
まずは、何から入ればいいのだろう?とりあえず、自分が最若手だし、メンバーとの飲み会でも企画しよう。
「mameka君。過去に金融業界大手のこの会社とプロジェクトをやったんだけど、それが記事になってさ」「そんなこといったら、僕も過去のテレビ局とのプロジェクトが、伝説として語られてるよ」「小売業界大手の大規模のPMになったときはさ、」
何を話しているのだろうか?とても、話のレベルについていけなかった。
「でさ、初顔合わせだけど、mameka君って、何ができるの?」
正直、私のスキルは、”飛び込み営業”くらいしかない。しかも”実績ゼロ”だ。
「『新規開拓』ですかね・・」
周りの空気が一瞬凍りついた。予想外すぎて、誰もフォローのしようがないのだろう。すかさずMgrがフォローした。
「それじゃ、新規開拓をやってもらおうかな。僕たちは、プロダクトの磨き込みをしてるよ。何かわからないことあったら、いつでも声かけてね。だけど、”要件は明確にね”」
次の日から、私は、スマートフォンとイヤホンを肌身離さずもった。
お昼を食べる以外は、ひたすら電話営業だ。午後の外を散歩しながらのテレアポはオフィスにこもりきりより、気分が晴れてささやかな気分転換になった。
時間が刻々と過ぎていった。
「自分が何を何のためにやっているのかわからない」「わからないことがわからない」
新しく何かを始める際には、全体像を把握しなければいけない。
そして、その全体像に1つずつ正確なピースを当てはめていかないと、
到底、お客様と会話なんてできない。そんなことを思っていると、目の前を部長が通りかかった。
「部長、なんで”『私が中心になってやれ』といったのですか?そもそも、このプロジェクトの詳細を理解しきれません」
「いいか。ビジネスというのは”スキル”も重要だが、組織人にはそれと同じくらい大切なものがある。それは、”全体最適で考えること”だ。個人主義でやっていては、組織はいずれ瓦解してしまう」
何を言っているのかさっぱり分からなかった。それぞれのメンバーは、PMも十分にこなせるし、人当たりも十分過ぎるほど良い。
プロダクトの形が定まってきたところ、「トライアルを希望するお客様で試してみよう」と会議で決まった。
「よし、やっと私の出番がきた」
トライアル(PoC* Proof of conceptの略)の提案を回った。
数日後、先方役員から、「それでは、御社にお願いしようかな。あ、それと、提案書すごいわかりやすかったよ」
帰りの駅のプラットフォームで実感が湧いた。
さあ、これからだ。と思って、周りのメンバーに引き継ぎをした。すると。1通のメールが送られてきた。
『我々、開発部門はこの案件はやりません』
いろんな考えが頭を駆け巡った。
「事前に共有された仕様の要件は満たしたはず?」「どこかでコミュニケーション齟齬が発生した?」
「コスト的な制約がある?」「来年度以降の組織ミッションを大きく変えようとしているのか?」
しかし、一番、重要なことに気づいた。
「これからどうすればいい?」
「全体最適を考えなければいけない」「誰かが、異なるミッションをもつステークホルダーをまとめていかなければいけない」「上下左右斜めの関係」、そして目の前の「お客様」に価値を提供して、対価を頂かなくてはいけない。
組織人とはなんなのだろう?
「そういえば、組織は、こうして何の成果を出せていない私でも、周りがモチベーションに配慮してくれて、最低限生活できるだけの保証を与えてくれている」
この時、「とにかく現状を打破できるだけの力が早く欲しい」と思った。
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