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デジタルヒューマンに人間のような自然なインタビューをさせてみる

概要

「デジタルヒューマン」と呼ばれるAIアバターを用いた「自動インタビュー」の作成に挑戦しました。デジタルヒューマン株式会社さんが提供するAIアバターと、私が運営している会話AI構築サービス「mebo(ミーボ)」を組み合わせて、なるべく自然なインタビュー(会話)ができるAIを試作してみました。そのインタビューの様子と構築に際して行なった工夫を紹介します。

実施背景

先月、いくつかのnote記事を投稿していました。

これらは、「AIによってユーザーインタビューやアンケートを行うことができるのか」というテーマで書いた記事でした。これらの記事を書く中で、ユーザー調査にAIやチャットボットを活用することには、大きな可能性を見出すことができていました。本記事は、チャットボットからさらに飛躍し、「AIアバター」を使って自動のユーザーインタビューを行うことに、挑戦しています。

DEMO

まずは、作成した「AIインタビュアー」の動画をご覧ください。
インタビューのテーマは、「AIにとってどんなイメージを持っているか?」です。インタビュアーの「ソフィ」が音声でユーザーにインタビューを行います。

こちらのAIアバターは、デジタルヒューマン株式会社さんが日本国内で提供するサービスを利用しています。

AIアバターが行うインタビューの「会話」は、私が運営している「mebo(ミーボ)」というサービスを利用して構築しています。

上述のデジタルヒューマンは音声認識も可能なので、動画上はテキスト入力をしていますが、声でのコミュニケーションも可能です。

インタビューの内容

さて、上記の動画をご覧になった印象はいかがだったでしょうか?
感じ方の違いは様々かと思いますが、従来のチャットボットが行なっていたような会話と比較して、かなり自然なやりとりを行うことができていると思います。

従来のチャットボットのやりとり

様々なチャットボットサービスがあるため一概には言えませんが、従来のチャットボットにこういったやりとりをさせようとすると、下記のような内容になることが多いです。

  • あらかじめ用意したシナリオに沿った発話しかできない

  • あらかじめ用意したシナリオに沿わせるため選択肢から応答を選ばせざるを得ない

  • ユーザーの応答に対するリアクションが当たり障りのない表現になってしまい、無機質な感じがする

今回行ったインタビューのやりとり

今回の会話の内容を文字起こししてみます。

ソフィ: こんにちは、デジタルヒューマンのソフィです。今日はお時間いただきありがとうございます。
急に出てきてしまいましたが、驚かせてしまってはいませんか?

ユーザー: 大丈夫です

ソフィ: それならよかったです。
私は今、みなさんがAIに対して抱いているイメージを調査しています。
あなたと今日会話をさせていただいて、色々とご意見を伺いたいと思っています。お時間大丈夫ですか?

ユーザー: 大丈夫です
 
ソフィ: ありがとうございます。いろんな会話をさせていただきたいのですが、
その前に、あなたのお名前を教えていただけますか?

ユーザー: まさおといいます
 
ソフィ: まさおさん、お話しできてうれしいです。まさおさんは今日は何をして過ごしていたんですか?

ユーザー: 今日は仕事でした

ソフィ: そうだったのですね、まさおさんお疲れ様です。お疲れのところありがとうございます。
仕事後は一息つけていますか?

ユーザー: はい、つけています
 
ソフィ: コーヒーを飲んで一息つくと心が落ち着きますよね。

ユーザー: そうですね

ソフィ: 美味しいコーヒーにゆっくり浸かる時間は至福のひと時です。
さて、まさおさんに伺いたいです。普段、生活をしていてAIの恩恵を感じることはありますか?

ユーザー: 感じます
 
ソフィ: そうでしたか。どんな時にまさおさんはAIの恩恵を感じるのですか?

ユーザー: 自動運転や翻訳、音声認識など様々です
 
ソフィ: なるほど、私たちの生活にとても密接に関わっているんですね。
まさおさんは、AIに対してのイメージは「ポジティブ」でしょうか、もしくは「ネガティブ」でしょうか?

ユーザー: ポジティブです

ソフィ: なるほど、なぜそう思うのでしょうか?

ユーザー: AIによってまだまだ生活が楽になると期待しているからです
 
ソフィ: おっしゃる通りかもしれませんね。
よく「人工知能は人間の仕事を奪う」という記事を見かけます。これについてまさおさんはどう思いますか?

ユーザー: 奪われるという発想ではなく、活用して生産性を上げるべきと思います

ソフィ: 確かに、人間の生活をさらに快適にするには人工知能の活用が必要不可欠だと思います。
まさおさんは何のお仕事をされているんですか?

ユーザー: エンジニアをしています

ソフィ: そうでしたか、いつも頑張っているのですね。
まさおさんは仕事をしていて、今後AIがその仕事を代替する可能性があると思いますか?

ユーザー: 思います

ソフィ: そうなんですね。どんな時にAIに仕事を代替されるかもしれないと感じますか?

ユーザー: 最近、ソースコードをAIが書けるようになってきたというニュースを見ました

ソフィ: そういうことですね、何も考えずにaiが書いたらどうなるんでしょうね。
もし実際にその仕事をAIが代替したら、まさおさんとしてはどんな心境でしょうか? 

ユーザー: 技術の進歩を感じて嬉しいです

ソフィ: そうですよね、日々新しいものが生み出されていますから。
私は、AIが浸透して人々が自分の幸せのために費やすことのできる時間を増やせることが理想だと考えています
そんな世界を目指したいです。まさおさんのお話はとても参考になりました。

ユーザー: それならよかったです

ソフィ: ありがとうございます、私たちもがんばりましょう。私と話してみての感想はいかがでしたか?

ユーザー: 楽しかったです

ソフィ: そうでしたか、それではもっとお話ししましょう。
おっと、そろそろ時間が来てしまったようです。まさおさんと話すことができてとても楽しかったです。
貴重な時間をどうもありがとうございました。またぜひどこかでお会いしましょう。

このインタビューには、人間らしい自然なやりとりになるような工夫がいくつか施してあります。

自然なやりとりをさせる工夫

1. ヒューマニゼーションの適用

上記の記事で掲載したサーベイ論文では、チャットボットに「ヒューマニゼーション」を適用すると、効果的な会話ができることが示されている。

ヒューマニゼーションのポイントとして挙げられているのは、下記の4点です。

  • use of self-introduction

  • addressing respondents by their name

  • using adaptive response speed

  • echoing respondent's answers

単に形式的に会話を行うだけでなく、人間っぽさを出すため、
自己紹介をさせる
回答者の名前を呼ぶようにする
人間らしい応答速度にする
回答者の応答に同調する
といった体験を仕込むと良いということでした。今回のインタビューはこれらの要素を組み込んでいます。
(「人間らしい応答速度にする」のみ未実施。)

①自己紹介 & 回答者の名前を呼ぶようにする

ソフィ: ありがとうございます。いろんな会話をさせていただきたいのですが、
その前に、あなたのお名前を教えていただけますか?

ユーザー: まさおといいます
 
ソフィ: まさおさん、お話しできてうれしいです。まさおさんは今日は何をして過ごしていたんですか?

インタビューの序盤で名前を尋ねています。
一度名前を聞いたら、その後のAIの発話に回答者の名前を混ぜ込んでいます。また、名前を尋ねるときに名前だけを答えさせないことも重要です。「まさおと申します」のような回答があった場合、うまくキーワードが分割できないチャットボットの場合は、名前だけを答えさせる場合が少なくありません。しかし、人間らしい会話を行う点においては、大きな問題となります。

NG例

チャットボット: あなたのお名前を教えていただけますか? (名前だけ入力してください)
ユーザー: まさお


回答者の応答に同調する (ちゃんとリアクションする)

ユーザーの回答に対して、同調したりきちんとリアクションをさせることが重要です。

ユーザー: 自動運転や翻訳、音声認識など様々です
 
ソフィ: なるほど、私たちの生活にとても密接に関わっているんですね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ユーザー: ポジティブです

ソフィ: なるほど、なぜそう思うのでしょうか?

ユーザー: AIによってまだまだ生活が楽になると期待しているからです
 
ソフィ: おっしゃる通りかもしれませんね。

リアクションをとらずに、ただ淡々と質問を投げていくと、ユーザーは「インタラクティブ」な会話であるという実感が得られず、単なる質問に答えるタスクをこなしているような感覚に陥ってしまいます。


2. デジタルヒューマンの活用

これは言わずもがなですが、デジタルヒューマンの活用は「人間らしい」やりとりを行う上で重要な意味を持ちます。無機質なやりとりになりがちなチャットボットに対して、デジタルヒューマンはその見た目や表情によって感情的なやりとりが可能です。

デジタルヒューマンは、「共感」や「思いやり」が消えてしまったデジタルの世界において、顧客との対話に “つながり” をもたらします。

https://www.digitalhumans.jp/

3. シナリオと自由応答の融合

チャットボットは「シナリオ」のフローを作り、会話をさせることが一般的です。シナリオのフローを組むことは、チャットボットがきちんと目的の沿った会話を遂行するための重要な手法ですが、同時に人間らしさを損なうものでもあります。

今回のインタビューでは、シナリオを組みつつも、その中にAIによる「自由応答」を混ぜ込むことによって、人間らしさを損なわないようにしています。

ソフィ: さて、まさおさんに伺いたいです。普段、生活をしていてAIの恩恵を感じることはありますか?

ユーザー: 感じます
 
ソフィ: そうでしたか。どんな時にまさおさんはAIの恩恵を感じるのですか?

ユーザー: 自動運転や翻訳、音声認識など様々です
 
ソフィ: なるほど、私たちの生活にとても密接に関わっているんですね。
まさおさんは、AIに対してのイメージは「ポジティブ」でしょうか、もしくは「ネガティブ」でしょうか?

例えば、上記のやりとりに注目してみます。
シナリオであらかじめ
「どんな時にまさおさんはAIの恩恵を感じるのですか?」
という質問をするように設定してあります。この質問に対してユーザーは、
「自動運転や翻訳、音声認識など様々です」
という回答を返しています。この時、どのような回答が返ってくるかはわからないため、決め打ちで応答を用意しておくのは難しいです。
決め内で用意した場合、下記のようなやりとりになるでしょう。

(決め打ちの場合) 
ソフィ: そうでしたか。どんな時にまさおさんはAIの恩恵を感じるのですか?

ユーザー: 自動運転や翻訳、音声認識など様々です
 
ソフィ: なるほど、そうだったのですね。 👈 当たり障りのないリアクション
まさおさんは、AIに対してのイメージは「ポジティブ」でしょうか、もしくは「ネガティブ」でしょうか?

このように、どんな回答が行われても差し支えのない応答を用意することになりますが、やや冷たい印象を与えてしまいます。そこで、リアクションにAIによる自由応答を含めています。AIによる応答はこの部分です。

ソフィ: そうでしたか。どんな時にまさおさんはAIの恩恵を感じるのですか?

ユーザー: 自動運転や翻訳、音声認識など様々です
 
ソフィ: なるほど、私たちの生活にとても密接に関わっているんですね。 👈 AIによる自由応答

このように、AIによる自由応答を盛り込むことによって、リアクションが自然になり、人間らしい応答をすることができるようになっています。

他にも、AIによる応答の箇所をピックアップしてみます。

ソフィ: どんな時にAIに仕事を代替されるかもしれないと感じますか?

ユーザー: 最近、ソースコードをAIが書けるようになってきたというニュースを見ました。

ソフィ: そういうことですね、何も考えずにaiが書いたらどうなるんでしょうね。 👈 AIによる自動応答
もし実際にその仕事をAIが代替したら、まさおさんとしてはどんな心境でしょうか? 

ユーザー: 技術の進歩を感じて嬉しいです

ソフィ: そうですよね、日々新しいものが生み出されていますから。 👈 AIによる自動応答

mebo(ミーボ)では、こういったシナリオの中にAIの自由応答が組み込めるような仕組みを提供しています。

meboのシナリオエディタ

4. AIによるアイスブレイク

人間同士の行うインタビューもそうですが、「アイスブレイク」は対話において非常に重要です。このインタビューでもアイスブレイクをAIの自由応答によって再現しています。

ソフィ: ありがとうございます。いろんな会話をさせていただきたいのですが、
その前に、あなたのお名前を教えていただけますか?

ユーザー: まさおといいます
 
ソフィ: まさおさん、お話しできてうれしいです。まさおさんは今日は何をして過ごしていたんですか?

ユーザー: 今日は仕事でした

ソフィ: そうだったのですね、まさおさんお疲れ様です。お疲れのところありがとうございます。👈 AIの自由応答
仕事後は一息つけていますか?👈 AIの自由応答

ユーザー: はい、つけています
 
ソフィ: コーヒーを飲んで一息つくと心が落ち着きますよね。👈 AIの自由応答

ユーザー: そうですね

ソフィ: 美味しいコーヒーにゆっくり浸かる時間は至福のひと時です。👈 AIの自由応答
さて、まさおさんに伺いたいです。普段、生活をしていてAIの恩恵を感じることはありますか?

meboには、シナリオの中に「フリートーク」を混ぜ込む仕組みを設けています。その機能を利用してこのアイスブレイクは実現しています。このアイスブレイクは、インタビューに入る前に今日何をしていたかを聞いています。仕事をしていたという回答者に対して、AIが一息つけているかを確認し、その後コーヒーの話題に移っています。

以上1~4のような工夫を行い、紹介した動画のAIインタビュアーを構築していました。

まとめ

「人間のような自然なインタビュー」と大風呂敷を広げてしまいましたが、まだまだ課題は多々あります。例えば、今回紹介した動画では1センテンスずつAIと回答者が発言を交互に行なっていますが、実際の会話はそうではありません。片方が連続で会話をすることもあれば、相槌を挟むこともあります。そういった意味では、まだまだ改良する点ばかりです。

しかし、上述したような工夫をすることで、自然なやりとりに近づけることはできたと感じます。自然言語処理分野のAIの発達はめざましいので、今後はさらに自然なやりとりができるようになると期待しています。こういったAIインタビュアーが実用化できれば、ユーザー調査を大きく効率化することもできると思います。インタビュー以外にも、デジタルヒューマンのようなAIアバターが自然な会話ができるようになれば、メタバース空間での活用など、様々な利用用途があります。

mebo単体では、デジタルヒューマンを構築することはできませんが、本記事で紹介したような工夫を行ったチャットボットを構築することはできます。会話上限はありつつも無料で利用ができるので、興味がある方はぜひお試しください。

 ※ デフォルトではコストの関係上、低精度なAIのモデルが利用されるようになっています。高精度かつ本格的な会話AI構築をお考えの方は、下記アカウントまでぜひ気軽にお問い合わせください。

Twitter: https://twitter.com/maKunugi

また、本記事で紹介したデジタルヒューマンの利用をご検討の方は、下記のデジタルヒューマン株式会社さんの公式ページからお問い合わせください。
https://www.digitalhumans.jp/

最後までお読みいただきありがとうございました。
気になる点等ございましたら、お気軽にご連絡ください。

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