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その感情の「本当の理由」を知る

前回は、思考そのものは人々に共通するものとしてカテゴライズすることができ、その思考が引き起こす感情や行動の組み合わせは普遍的である、という発見についてお話ししました。〔カレン・ライビッチ /  ペルシルベニア大学〕

今回は、より具体的な「考え方(Belief)→感情/行動(Consequense)」の繋がりを見ていきます。この組み合わせを理解すると、例えば「怒り」という感情が沸き起こってくるとき、実際の所自分は「何に」反応しているのか、ということが特定しやすくなります。今回は少し長くなりますが、役立つ内容がたくさん詰まっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。

ここからはわかりやすく「Consequense= C(結果としての感情/行動)」←「Belief= B(感情/行動の引き金となる考え方)」の組み合わせで、5つのパターンを紹介していきます。

【1】 C 「怒り」 ← B 「自分に対する権利の侵害」

人は、自分の権利が侵害された時、「怒り」に総称される様々な不快感を示します。「自尊心に対する侮蔑」が自分の権利が侵害されたという考えを引き起こすためです。〔ドルフ・ジルマン / アラバマ大学〕
例えば、自分が大切にとっておいたアイスクリームを、シェアメイトが無断で食べてしまったとしましょう。おそらくあなたは「あの子はなんて自己中心的で傲慢なんだ!冷凍庫の全てのものが自分の所有物だと信じている!」と憤慨すでしょう(少なくとも私は頭に血が上ります)。
この怒りの解像度を高めると、要するにあなたが腹を立てているのは「彼は私がお金を払って手に入れたものを、勝手に自分のものにして奪っていく。あまりにもアンフェアだ」という考えに基づいており、これはあなたの権利が不当に侵害されたことに対して怒りを感じているということになります。心理学ではこれを「権利侵害思考」と呼びます。

今後あなたにどうしようもない怒りが沸き起こった時、その怒りの背景にあるのは「権利侵害」に対する不快感だということを思い出してみてください。沸騰する怒りに身をまかせるよりも、より具体的で建設的な対処法を考えつくことができるかもしれません。(”お返し”にシェアメイトのビールを一本頂戴するというのは、嫌味っぽいメッセージを送りつけるよりずっとマシだということに気づくはずです)

【2】 C「悲しみ / 落ち込み」 ← B「現実世界の喪失 / 自尊心の消失」

誰しも時には、どうしようもない悲しみや無力感に塞ぎ込むことがあるでしょう。その感情の背景には「現実世界の喪失/自尊心の消失」が潜んでいます。〔カレン・ライビッチ/ ペンシルベニア大学〕
現実世界の喪失、というと難解な言葉に聞こえるので、具体的な例をみてみましょう。仲が良いと思っていたグループが、自分抜きで旅行に行っている写真をSNSで見かけたとします。あなたは「自分は声をかけられていない。私は実はみんなから好かれていなかったのだ」とショックに打ちのめされるかもしれません。もしくは、今回のプロジェクトでリーダーを任されるのは自分だと思っていたのに、期待に反して他の同僚が指名された時、「私の活躍など、リーダーには取るに足らない程度なのだ」と傷つき打ちのめされるかもしれません。このように「みんなに好かれている自分」や「仕事の成果を認められている自分」という”あなたにとっての現実”が喪失し、自尊心が傷ついた時、あなたは悲しみや落ち込みを感じるのです。

深く気分が落ち込んで悲しくなった時、「なにが悲しいのか?」という問いを「私は何を失ったと感じているのか?」という問いに置き換えてみてください。世界が自分の期待に反して動いたという事実と、その前提となっていた自分の想定(現実世界)を分けて捉えることで、落ち込んだ気分を俯瞰し、距離を置ける可能性があります。意外にも真実は、世界があなたを裏切ったのではなく、あなたの前提がずれていたゆえに必要以上の反動を受けてしまった可能性もあるのです。

ちなみに、進化論的に見ると、悲しみは重要な役割を果たしています。泣くことや、一時的な認知能力の減退、受動性などは、身近な人から保護/育児行動を引き起こします。それが、その人やコミュニティとの絆の強化に繋がっているのです。〔カレン・ライビッチ /  ペルシルベニア大学〕愛する人を失うなど、論理的に整理しきれない悲しみに直面することもあります。そんな時は、周りの人を頼り、助けてもらうことをためらう必要はありません。私たち人類が長い歴史の中で繰り返し証明してきたように、私たちが生きる上で他者は必要不可欠で、その他者との絆を編み出し強化してきたものの一つは間違いなく「他人の悲しみ」に対する反応なのです。

【3】 C「罪悪感」 ← B「他人に対する権利侵害」

アメリカの学生を対象にした調査で、一日のランダムなタイミングの感情を申告してもらったところ、最も一般的なポジティブ感情は「幸福」、ネガティブ感情は「罪悪感」だったということが明らかになりました。〔カレン・ライビッチ/ ペンシルベニア大学〕
言われてみれば、私たちは日常の些細なことにも罪悪感を覚えます。ファスティングの最中に堪らなくなってチョコレートをひとかけ食べてしまったり、返す約束をしていた本を未だに自分の本棚に押し込んだままだったり、頼まれていた資料作成を後回しにし続けたりしている時、あなたの心には罪悪感がのしかかっていることでしょう。
しかし、罪悪感というのは役に立つ感情でもあります。罪悪感は、私たちの行動を一瞬引き止め、客観的に自身を見直して正す機会を与えてくれる感情なのです。

ちなみに、罪悪感は2つのカテゴリに分けられます。
・自己調整に反する行為:先延ばし、暴飲暴食、運動をサボる、無駄遣い
・コミットメントを破る行為:浮気、実家に帰らない、恋人からのお願いごとを忘れる

【4】 C「不安 / 恐れ」 ← B「未来の脅威」

不安の主な機能は、特に脅威や危機に対する考え方を誘発することにあります。〔アーロン・ベック / ペンシルベニア大学 〕不安の感情は生理学的反応とも強く紐づいており、その反応は身体のほとんど全ての系統に影響を及ぼすというから驚きです。〔アーロン・ベック / ペンシルベニア大学 〕しかし、不安という感情もネガティブな働きばかりをする訳ではありません。進化論的に考えれば、不安が強い人は危機をいち早く察知、もしくは対処することで、不安を感じにくい人よりも長生きするチャンスを得ていたことは想像にかたくありません。

不安を感じやすい人は、「次は何思考」に偏る傾向にあります。改めておさらいですが、「なぜ思考」の人は過去を振り返り「その出来事が起こった原因」を探し求めます。一方「次は何思考」の人は未来に目を向け「来るべき未来を予測」しようとします。この時、差し迫る未来の中に脅威を感じ取ると、私たちは不安を感じるのです。例えば、昇進のかかった大事なプレゼンテーションに向かう途中を想像してみてください。「今回は絶対に失敗は許されない。でも、あの重役とはそりが合わないから、彼はこのプレゼンテーションを過小評価するだろう。しかも長時間の会議に飽きた他の役員も、この発表を退屈で凡庸と評価するかもしれない。」…このような不安の思考の中に、たくさんの「次は何思考」が潜んでいることに気づいたでしょうか。

この不安という感情のポイントは、トレーニングをすることで不安の原因となる考えを捉えることができるという点です。不安に襲われた時、少し客観的になって自分の不安を見つめ直してみると、それらは全て「自分が想像する未来のネガティブな出来事」に由来していることに気づくでしょう。確かにリスクに先回りすることは大切です。しかし、あなたが想像する悪いことのほとんどは、おそらく現実にはなりません。絶対に起き得ないような悪いケースを心配するあまり、自分の大事なエネルギーや時間を浪費し身体機能にまで負荷をかけるのは、あまりにもったいないことです。不安に苛まれた時、深呼吸を一つおいて、自分を駆り立てる「不安の正体」と向き合って見てください。あなたを不安にさせているのは、「世界」ではなく「あなたの思考」であることに気づくはずです。

【5】 C「羞恥心 / 困惑」 ← B「他人とのネガティブな比較」

感情研究によれば、羞恥心は、とある行動が他人に見られネガティブな評価をされた、という自覚によって引き起こされるといいます。〔アンドレ・モディリアーニ〕つまり、羞恥心は他人の評価という外部要因、言い換えれば社会的比較が存在して初めて生まれる感情なのです。
例えば、社内コンペで後輩に負けた時、あなたはあまりの羞恥心に苛まれ「後輩に負けるなんて、面子が丸つぶれだ、これからどうやって振舞っていけばいいんだ」という思いに押しつぶされそうになるかもしれません。会社という組織の中での社会的比較があるがゆえに、自分を矮小に感じ恥じ入る気持ちが生じてしまうのです。
羞恥心という感情は、抱くやいなや居ても立っても居られなくなるような、厄介な感情です。しかし、その感情は大抵「他人からの視線」に由来していることを知っていれば、「自分で自分を”他人の視線から”ジャッジしている」という状況に気づくことができます。この気づきは、恥じ入る気持ちを和らげるのに幾分役立つでしょう。

まとめ

今回は、5つの「C(感情/行動)← B(考え方)」の組み合わせをご紹介しました。大切なのは、とある出来事に直面して感情や行動に駆られた時、その感情や行動は出来事そのものに由来するのではなく、その出来事に対するあなたの考え方に由来するということです。押しつぶされるような不安や、芯が冷えていくような怒りに直面した時、一呼吸置いて、この繋がりを思い出してください。感情そのものを鎮めようと躍起になるより、「自分のどんな思考がこの感情を引き起こしてるか」に向き合うほうが、ずっと建設的に自分の感情をコントロールできるはずです。

《「C(感情/行動)← B(考え方)」の組み合わせ》

【1】 C「怒り」← B「自分に対する権利の侵害」
【2】 C「悲しみ / 落ち込み」← B「現実世界の喪失 / 自尊心の消失」
【3】 C「罪悪感」← B「他人に対する権利侵害」
【4】 C「不安 / 恐れ」← B「未来の脅威」
【5】 C「羞恥心 / 困惑」← B「他人とのネガティブな比較」

〔カレン・ライビッチ /  ペルシルベニア大学〕


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