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やっとドライブ・マイ・カーを観れたのでファーストインプレッション

こんにちは、makoto です。

濱口竜介監督のドライブ・マイ・カーをやっと観ることができました。

近所のシネコンでは上映館がなく都心まで出るのが億劫で、3時間の上映時間というのも手伝って観るのを躊躇していたところ、上映館もどんどん少なくなってきて半ば諦めていました。
ところが、アカデミー賞候補になった話題性から再び上映館が増えてきて、これはなんとしてもアカデミー授賞式までには観ておきたいなと思っていたら、2月18日からU-NEXTとシネマ映画comでも配信が始まったとのことで、早速シネマ映画comで鑑賞しました。

シネマ映画comは映画comが昨年からはじめたオンライン映画配信サイトで、サブスク形式ではなく、3つあるスクリーンで上映されている映画を観たい時に2日間レンタルをして、その都度料金を支払う仕組みになっています。(ドライブ・マイ・カーの料金は550円でした)

今回はじめてシネマ映画comを使ってみたのですが、Fire TV Stickの純正ブラウザSilkでも鑑賞できました。

ただし、Silkブラウザで観る場合には1点だけ注意点があります。
料金を支払う際に確認のポップアップウィンドウが表示されるのですが、その画面でどうやってもOKボタンが押せないのです。なので、Macのブラウザでレンタル支払い操作を事前にして、Silkブラウザに戻ると再生できるようになっています。
これで、大きなテレビの画面で鑑賞することが出来ます。


大学生の長男は一人で映画館で鑑賞済みだったため、高校生の次男と妻と3人で今日の午前中に鑑賞しました。
事前に話には聞いていましたが、タイトル画面が出てくる長めのアバンタイトルで何度か出てくるベッドシーンは、高校生には一緒に観るのが気恥ずかしかったようです。

さて、アバンタイトルが長めなのは、濱口監督の2018年の「寝ても覚めても」でもそうでした。偶然と想像は観れていないのですが、監督のシンボルのお決まりなのでしょうか。

観客はこの長いアバンタイトルを通して、家福と妻の関係性、妻がある俳優と関係を持っていたこととその事実を知って受けた衝撃(この表現は原作より明確になっていました)、その後思わせぶりな言葉を残したまま妻が急死してしまったこと、などを追体験することで、タイトル画面以降の本編での物語をより深く理解できるように作られています。

本編では、舞台は広島に移ります。これは原作にはない映画オリジナルの設定で、何かのインタビューで車を長い距離走らせられる場所として都内より地方の方がいいだろうということで選んだと読んだような記憶があります。

家福にとってライフワークともいえるチェーホフのワーニャ伯父さんの舞台を自身で監督する映画祭企画のため、広島まで愛車の赤いサーブ(これが最近の車には観られなくなった角張ったフォルムの格好いいクルマです)で出掛けるというところから話が始まります。

愛車で移動する時間を使って考えをまとめる習慣のある家福は、映画祭の会場であり稽古場所でもある国際会議場から、わざわざ1時間程度離れた宿泊場所をオーダーするが、運営側の規定で車の運転は認められないと用意されたのがドライバーのみさき。不本意ながらもみさきの運転技術の確かさから彼女に滞在中のハンドルを任せることになり、その二人のやりとり、そして絡んでくる妻と関係のあった若手俳優の高槻とのエピソードが縦糸、それに横糸として舞台のオーディションからリハーサルの様子が語られていく。

特にこのリハーサルで多くの時間を割いて行われる本読みが独特で、どうやら濱口監督自身のやり方でもあるそうで、とても興味深く観ることができる。

3時間近くあって、背景も車内か稽古場かというくらい派手なシーンもなく、とても静かに物語は進んでいくのですが、全く飽きることもなく物語の世界に引き込まれていくのは演出が素晴らしいからなのだろうと感じました。

あと、これも原作には全く無いですが、舞台の継続が危ぶまれるある出来事があり、家福に大きな決断を求められるシーンが終盤あります。期限は2日間で決めないといけない、そんな時に家福はみさきの育った家を見たいと北海道まで行くことを提案します。広島から北海道、何キロ運転するんだ、行ってトンボ返りするだけでも期限が過ぎちゃうぞと心配しましたが、結果この北海道のエピソードがエンディングに向けて最後を締める大事なシーンになっていました。

家福が妻を失ったことの正直な感情を吐き出すシーン、それでなくてもあまり感情が表に出ない演技の西島秀俊さんだけに観ていて胸に迫るものがありました。

また、みさきにとってもこれまで抱え込んでいた重い荷物を下ろしてことが出来、前を向くための大事な一歩になったことが印象的でした。

最後のシーンはどう解釈するのがいいんでしょう。

赤いサーブとあのワンちゃん。どちらも譲り受けたとは考えにくいので、韓国でも広島と同様の映画祭の企画で家福のドライバとして呼ばれたのではないだろうか、と解釈しました。

いずれにせよ、村上春樹原作からオリジナルの設定やエピソードを加えて、とても深い、観客に色んな解釈の余地を残す、映画らしい映画だったなというのがファースト・インプレッションです。

村上春樹原作を設定を再解釈して素晴らしい作品にしたということでは、イ・チャンドン監督の2018年の「バーニング」がありました。


この映画も、原作にはなかった大きな余韻を残した作品でしたが、そうやって考えてみると、村上春樹の作品は、一見リーダビリティにとても秀でていて、難しい表現もなくすいすいと読めてしまうのですが、実はそこで表現している物事そのものが複雑で、それこそ「深い井戸の底に下りて」いかないと見つけられないような深層にある感情や物語であるからこそ、そうした作品を下敷きにした映像作品も普通の脚本では得られないような奥行きのあるものになるのではないだろうか、そんな風に考えた映画でした。


アメリカの配給会社公式のポスターも素敵ですね。
アカデミー賞受賞式が楽しみだ!

それでは!


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