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『俺がボールを扱うのは』


俺がボールを扱うのは

左足だけ


「監督、だまされちゃいけませんよ」


とある名門高校サッカー部のセレクション

来年の新入生の特別推薦枠を選ぶイベント


俺は地元の中学校で

"孤高のレフティ"の異名を授けられている


その噂がこの高校の監督の耳に入り

監督から直々のご指名で

セレクションに招待を受けたというわけ


「まったくの無名ですよ、試合で見たことが…」


コーチと思しき人物が

壁を隔てた向こう側で

俺の評判を貶めるような主張を

ひたすら監督に訴えかけている


きょう招待されているのはざっと100人ほど

そんななか俺は

コーチ直々のご指名で

わざわざディスられてるっていう始末

これは光栄なことかもしれない


そう思い込み

着替えをすませ

グラウンドに赴く


一泡吹かせてやろうじゃないかと

息巻いて


わざと目立つように

シャツからソックスまで全身青の

うちの中学のユニフォームを

敢えて左足だけ赤いソックスにして

いざ


俺の噂を聞き知っているもの

そうでないもの

どちらも揃って

ざわつき始める


皆が俺を避けるように

輪になってストレッチを始めるが

俺はそこには加わらない


軽く首を左右に揺らし

腰を回す


俺がボールを扱うのは

左足だけ


そう言えばきこえはいいけど

実際には

左利きだからまともに蹴れるのが左足で

右足はあまりに技術が稚拙で追いつかない

という意味


俺は地元の中学校で

"孤高のレフティ"の異名を授けられている


サッカー部で浮いていて

技術もまともにないから

ボッチなのをいじられてるだけ


なんだかすいません

呼ばれたから来ちゃいました

電車賃出ますか?








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