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『煮えたぎらせた菜種油を』



なんと攻め入られることの多い城か


城壁の上から

煮えたぎらせた菜種油を

杓子で掬っては

寄せてくる敵兵に浴びせ


殺傷とはいかずとも

戦意喪失

撤退を促す日々


忠心などない

傭兵である

さりとて

武術剣術に優れているわけでもなし

兵法采配の心得もない我


商人の息子

ただそれだけで

父の持つ蔵から

菜種油を運び込み

煮えたぎらせて

撒く仕事


元来

商才のあるものは

戦乱期こそ商機と捉え


この国が味方

あの国が敵

そんな区別なく

二枚も三枚もある舌と

身軽な脚を以って

諸国を周遊するのが常であるはず


安普請の甲冑など纏っている暇はない


ただ情けないことに

我の場合は

商いの嗅覚には恵まれていないようで


いっぽう我が父はというと

生まれながらのアキンドゆえ

今まさに我が撒いている

この菜種油を

その他諸々の資材を

兵糧を

我が城主に

相場の数倍と言われる値で

卸したというから驚愕だ


ゆえに我が天賦の無さが

よりいっそう

浮き彫りになる


ええい

ぼやぼや考える暇はない


弓よりも

刀よりも

ましてや

腕力よりも

煮えたぎらせた菜種油の恐ろしさを

思い知るがいい

敵兵どもよ


そして

煮えたぎらせた菜種油よりも

遥かに恐ろしく

太古より煮えたぎる

カネなるもののチカラを

思い知るがいい

愚民どもよ


って

親父が言ってる


あぁ疲れた

早く帰りたい










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