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『授業をさぼって』


とある地方都市の

閉めきりシャッターが目立つ

そんな商店街に


いまだに存在感を放つ

見世物小屋があって


辿れる限りでは

その歴史は戦前から


ろくろっくびに

人面魚

まあいわゆる古典的な

見世物が

通りを賑わせたっていう




そんな話を聞いたのは

その町を郷里とする友人Aから


見世物小屋の主人は

わりと年増の女性で

その昔は綺麗どころとして

鳴らしていたという


当地の若い連中は

その女主人に見初められて

初めてのコトを済ませて

一人前になるんだって


友人Aも例外ではないらしくて




まだ人権の意識だとか

そういったものが薄弱な時代


見世物小屋は日夜

老若男女で賑わったって


舞台袖から客席を覗いては

女主人はお目当てを探して

初々しい穂先の筆を

下ろしていったのだとか




でまだそこやってんだよね?


俺は友人に問うてみたわけ


興味本位というか

まぁなんというか

年増好きでわるいかよ


やってるよ

こないだ帰ったときも

ネオンサインが煌々としてたよって


友人Aはそう言うわけ


俺はなんだか悶々として


その晩はおとなしく帰宅したんだけど


あくる朝俺は

授業をさぼって

なけなしのカネをはたいて

友人Aの郷里の町へ




駅前ロータリーの正面に

寂れた商店街が延びる


視界の先には

真昼間なのに

人通りもまばらなのに

まばゆいほどの

ネオンが光っている


あれに間違いない


俺は確信を持って

歩みを進める


俺の筆下ろしも

ここで済ませるんだ


すでに財布から出した

札束を握りしめ

歯を食いしばり

俺は早歩きで向かう


ついぞ見世物小屋の

前に着く


なんだかようすがおかしいぞ


面倒そうな市民団体が

見世物小屋反対とかいう


横断幕を持って

拡声器で叫んでる


友人Aは

このことは教えてくれなかった


声だけが大きい市民団体など

無視をして

そのまま見世物小屋へ

入ればいいとも思うのだけど


なんだか気恥ずかしい俺は

そのまま素通りして

その先にあるラーメン屋へ


握りしめた万札を

食券の販売機に入れたら

おにいさん万札はこっちで

両替してくれって言われて


それから食べたくもない

とんこつラーメンに

味玉をトッピングして

腹だけを満たして


そのまま帰宅したって話


友人Aには

いつ明かそうかな




















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