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『X庵とY家とレストランZと』
蕎麦屋のX庵と
うどん屋のY家は
商店街に隣り合って並び
どちらも名店として
たいへん賑わっていたわけ
マスコミの取材も多いから
近隣のみならず
遠く訪ねてくる客もいて
ただどちらの店も
老夫婦が営んでいたから
そろそろ体力気力が
キツイという話になって
とくに子のいない
うどんのY家のほうは
存続が危ぶまれたんだけど
そこへ蕎麦のX庵の一人息子が
脱サラして修行を始めて
いよいよ店を継ぐって段になったの
そのときついでにY家のほうも
まとめて引き取っちゃおうかって
そんな話になって
Y家のご夫婦もたいそう喜んだとか
X庵の一人息子は
麺を打つ技術もさながら
経営のこともしっかり考えてたから
効率の面から
隣り合うX庵とY家の厨房を
ひとつにしてしまうことに決めて
おかげで仕事は捗って
更に多くのお客を…
と思った矢先に事件が起きたの
十割蕎麦を謳っているX庵に
小麦アレルギーのお客が来て
そして皮肉にも
ほぼ同時に
蕎麦アレルギーのお客が
Y家のうどんを啜ったわけ
どうなるかはお察しのとおり
悲しい結果になったけど
行政指導を受けて
しばらく営業停止したら再開して
以前より利益も
上がったっていうから
立派なことだよね
まだこの話は続いて
Y家の隣にあった
和菓子屋も畳まれてしまって
じゃあせっかくだからと
一人息子はその物件も買い取って
ところが和菓子の修行を
する暇はなくて
将来性も見込めないから
話題性とニーズを
丹念に調査したみたいなのね
その結果
たまたま街はずれに
半導体工場ができて
そこの従業員に
イスラム圏の人が多いって判って
思い切って
ハラルフードの店を
出すことに決めたんだよね
過去の痛ましい出来事を
しっかり教訓にして
ハラルフード専用の厨房を設けてね
無事にレストランZって店を
開業したわけ
あぁもちろんZには
けっこうなお金を
注ぎ込んだってきいてるけど
でもこれもたちまち話題になって
工場の人だけじゃなく
わざわざ遠くの街から
押しかけるムスリムの方々も
いたっていうから凄いよね
ただ長くは続かないのが…ね
頼みの綱だった半導体工場が傾いて
大量解雇
従業員が街からいなくなって
それでレストランZは潰れて
なぜか負の連鎖が続いて
蕎麦屋もうどん屋も
畳むことになったというから
報われないもんだね
(あとがき)
アレルギーや宗教に関する正しい知識をここで得ようとしないでくださいね