ラブレタークラブの活動②『君の自転車に毎日よりかかっていたのは、』
昨日の続きです。よろしければ先にこちらをお読みくださると幸甚です。
慣れない抹茶アイスを
イートインで貪った俺は
帰宅すると普段ならすぐに風呂へ直行
どばぁーっと浸かるんだけど
きょうはその前に例の封筒を抜き取って
階段を駆け上がり
便箋をバサバサっと
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栗林君へ
こんにちは。手紙を読んでくれてありがとうね。
君の自転車に毎日よりかかっていたのは、わたしの自転車です。
ごめんなさい。悪意はなかったんだよ。君の生活を邪魔しようだとか、迷惑をかけようだとか、そういうことは思っていないよ。野球の練習で疲れていただろうに、私は身勝手にも、ただ私という存在をアピールしたくて…
申し遅れました。私は三年の遠山千景と言います。
私も君と同じように、夏休みだけど毎日登校してクラブ活動をしています。栗林君の野球部みたいにそんなに厳しくはないけど、とっても楽しいし、やりがいはあるよ。
受験勉強も大事だけど、やっぱり一生に一度の高校生活。しかも私は三年だし、思いっきり楽しみたいと考えています。
だからこの夏、思い切って、栗林君に…ってね。
たしか私が知っている限り、あした野球部は練習試合で遠征だよね。暑い中ほんとうにご苦労様。今年の代は早く負けてしまったけど、その分一年生の栗林君たちが早く”まともな練習”ができるようになったから、個人的にはうれしいな。
なんだかとってもまわりくどくなってしまったけど、本題はね、もしも…もしも栗林君がよかったら、私と一緒に、アイスでも食べに行かないかな?
あさっての練習のあと、いつもの自転車置き場で待っています。
三年 遠山より
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思ったとおりの展開だった
舞い上がった
俺は急いで手紙を机にしまうと
階段を駆け下りて
風呂へ浸かり
汗を流し
頭をシャワーで冷やした
あしたの試合のことなんてどうでもよくなった
あの黒い髪の先輩の顔
思い出したいけど
はっきりと覚えていない
というか
ろくに顔を見ていない
でもあさってになれば
会えるんだよな
夢の中に
いるようだった
三年のお姉さん
やっぱり
抹茶アイスかな
きょう練習しておいてよかった
ほんとは俺
マンゴー味が好きなのは内緒
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<活動日誌>
8月22日 三年 遠山千景
本日は一年生野球部の栗林達郎へ540文字相当の一文を綴った。内容はごく平凡なものであったが、手紙そのものを渡すシチュエーション、またそれまでの布石づくりに工夫を加えてみた。
三年の夏という、とりわけ運動部にとっては節目となるこの時候、我がラブレタークラブも活躍の機と言わざるを得ない。
ついては当方、上述のとおり、恋文の文面もさることながら、文章を取り巻く世界観の演出にこだわりを持って今回の局面に臨んだ次第。
なお、この局面の最終的な仕上げは明後日24日となる。相手の出方もさることながら、当方の演技、演出の手腕が問われる一日となることと推測。
もちろんホンモノのレンアイに発展させる気は毛頭ナシ。
半年先とはいえ、我がクラブの甲子園とも言える卒業式当日に向けた準備は、この夏から悔いのないように鍛錬と推敲を重ねていきたい。
以上
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さらにこちらに続きます。よろしくお願いしますね。