『「ぜったい食べなきゃ！食べたらとろけちゃう」』
「えＮ美ってまだ十里庵のたいやき食べたことないの？」
すごく驚かれて
「ぜったい食べなきゃ！食べたらとろけちゃう」
とろけるってよくわからないけど
「あ、それから、あんは絶対うぐいすあんね」
えぇ…
小倉あんとかカスタードとかじゃなくて
うぐいすあんなんだ…
けっきょく自分から
足を向けることはなかったけど
お昼休みに同僚とランチをして
その帰り道に十里庵に
寄ることになったわけ
同僚のみんなはもちろん…
えっ？うぐいすあんじゃないの？
わたしにこの店の
うぐいすあんを勧めてきたＹ菜も
なぜかカスタードを買っていて
「わたしはうぐいすあん食べ過ぎちゃって」
飽きたということみたい
「Ｎ美はうぐいすあんにしたほうがいいよ」
よくわからないけど
まぁ別に困るものではないし
騙されたと思って注文してみる
「おねえさん初めてだけどほんとに？」
店主の反応が意外過ぎて
「まぁあんたがイイなら…」
たしかに初見のお店でうぐいすあんは
トリッキーだよね
小倉あんにしておけばよかったかな
「はい、おまち」
そうこうしているあいだに
わたしのたいやきが焼きあがって
あつあつでもっちりしていて
とってもおいしい
それにうぐいすあんが…
騙された
ほんとうに騙された
「起きたか」
気がつけばわたしは知らない…
顔だけは知っている
十里庵の店主の部屋？
らしいところに転がっていて
「俺も罪なオトコだよなぁ」
わたしの着衣に乱れはないから
たぶん大丈夫だけど
「同僚さんが会社にはうまく伝えてるよ」
そうだわたし
お昼休みの途中だったんだ
「気をつけて帰れよ、ほらコレ」
そう言いながら店主は
たいやき代の１５０円を
わたしに返そうとする
「とろけちまったやつには、例外なくそうしてる」
改めて着衣とわたし自身のからだを
入念に調べてみるけど
なんともないようす
「またよかったら、買ってくれよな」
どうやらわたしはほんとうに
十里庵のうぐいすあん入りたいやきで
とろけてしまったみたいです
みなさんも気をつけてね