『e仁義』

やらかしやがった

うちの若い奴が

やらかしやがった

落とし前をつけさせなきゃならん

もっとも

その若い奴の顔なんぞ

俺はしらない

そいつの兄貴分

そのまた上の兄貴分

束ねてる支部の長

そいつらにも揃って

落とし前をつけるよう

言いつけた

今すぐ呼びつけて

どやしつけたいところだが

幸か不幸か

俺はいま遠い南の島で

のんびりしている

しばらくは

帰国するつもりもない

テレビ会議の向こうでは

舎弟どもが平謝り

土下座をしているのが見える

煮えくり返るはらわたを

モヒートで冷やしながら

会議システムをログオフする

ほどなくして

スマートフォンに

一通のメールが届いて

ＵＲＬをクリック

あぁえぇと…

なんだったかな…

テレビ会議を切る直前に

奴らが叫んでた

４ケタの数字…

「０８９３」

ソファに侍らせていた女が

耳元で囁いた

普段ならば俺のシノギに

口出しどころか

聞き耳を立てていることなど

もってのほかなのだが

今回ばっかりは

ありがたい

無事に暗証番号を入力して

発送依頼を済ませた

そして俺は

女を愛で

深い眠りにつく

煮えくり返っていたはらわたは

いつの間にやら

凪のようになって

数日が経って

俺宛に届け物があると

ホテルの従業員が

こないだ発送依頼した

落とし前のブツが

届きやがったなと

こんなもの見たくもないのだが

出来が悪くもかわいい

舎弟の落とし前だ

大切に受け取って

中身を確認する

ごろんっと

小さな塊が４つ

よく国際郵便を

無事にすり抜けたな

俺が持って帰ったら

税関で目立つだけだな

若い奴と

そいつの兄貴分

そのまた上の兄貴分

束ねてる支部の長

３Ｄプリンタで

精巧につくられた

小指のレプリカ

っていうかこれってさぁ

いらなくない？