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夜景は汚物。

この夜景を見てきれいだという人たちは、それをみるために1500円の入場料を払っている。夜景はたしかに、間違いなく綺麗だった。1500円以上の価値があるものだった。肌に刺さるような冷気を感じながら、静かにひとりでその景色をみていられたらどれだけ幸せだっただろう。実際は、マスクを顎まで下ろしたオバサンがわたしの左肩に向かって「うわあ!綺麗ねえ!みてよ〇〇ちゃん!娘に電話してみるわ!」と叫んだ挙げ句、その場でライン電話をつなげて大声で話していた。コロナを気にしなくてはならない生活を強いられてしまったのは誰のせいでもないし、感動を大切な人と共有することは素晴らしいことだと思っている。ただ、愚かだなと思った。周りにいる人の視線が、外気よりも冷たかったから。可哀想だった。そのオバサンも、そのオバサンに対して愚かだと思ったわたしも。

わたしはその夜景をみて、まず最初に「産業革命の産物」だと思った。とても綺麗な汚物だと。

そしてわたしたちは、それをみるために「入場料」を払っている。夜景をみて、何も考えずに「綺麗」だと思える人生を、ほんの少しだけうらやましいと思った。わたしだって、友達に連れられたとはいえ入場料を払ってこの景色をみている。その点では、オバサンと同士なのに。


「夜景が綺麗だね」「いや君の方が」と言い合うカップルを横目で見ながら、わたしが彼女の立場だったら、その言葉どころか空間ごと軽蔑してしまうだろうと思った。だから、その彼氏はこれからも幸せであってほしい。


星空と夜景はまったく違う。その違いを、わたしの彼はちゃんとわかってくれると思う。彼は夜景をみて素敵だなんて言わない。「すごいなぁ」とは言うかもしれない。心は震えるかもしれないけれど、「綺麗」とか「素敵」とかいう言葉は絶対に使わない。


だから何だと言われても。まあ何もないですよ。


それではまた。


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