ダスキンモップが繋いだ出会い

おばちゃん、元気かなぁ な話

私は以前パートナーと同棲をしていた時、ダスキンモップを利用していた。

市販のモップよりしっかり汚れが取れるし値段も手頃、定期交換でいつでも清潔。
そしてポイントシールを貯めると無料でもらえるスポンジは、耐久性が良く泡立ちも最高だったのでシールが集まることをささやかな楽しみにしていた。

定期交換に来るおばちゃんは、明るく面倒見のよい雰囲気に溢れ、街の頼れるおばちゃんといった感じだった。

モップ交換の合間にたわいない話をして、手を振り玄関のドアを閉める。
私はダスキンユーザーにしては年齢が若かった為、「ご飯ちゃんと食べてる?仕事大変なのにお掃除も頑張って本当に偉いわよ」等、娘のように可愛がってもらっていた。

当時のパートナーとは結婚予定で同棲をしていたが、実は性格も人生観も全く合わず、彼の人柄に尊敬もできなかった。
自分が合わせれば良いし、夫婦になるってそんなものだろうと思い込み共同生活を続けていた。

所属していた職場内でも槇は結婚秒読みと囁かれており、周りの同僚も次々結婚していた為、「とりあえず結婚をしなければ。社会の一員にならなければ。」と謎の使命感や焦燥感に駆られていたことも、別れる選択肢を思いつけなかった原因の一つだ。

職場で「まだ苗字変わってないの?」と軽口を叩かれては帰宅後落ち込んだものだ。

世の中に溢れるごく普通の社会の一員に、自分を押し込めてでもなりたかった。
本当は人の数だけドラマがあり、ごく普通なんて存在しないのだけれど、当時の私には分からなかったのだ。

そんな風に身体も心も無理を強いていれば、いつか破綻してしまうことは目に見えて明らかだった。

僅かに感じていたちいさな違和感や不安はチリチリと積もり、大きな塊となってある日私を押しつぶした。

あぁ、もう本当にダメなんだ。
この先たとえ生涯1人になってもいいから、この人から離れないと。

彼の側ににいるほど気力や希望を吸い取られるような心地になり始め、なりふり構っていられなくなり別れを決断した。

夫婦になったらやってみたかったことや憧れは当初たくさんあったが、その相手は彼でなくてもいいではないか と長い時間をかけようやく気づくことができた。

住んでいた家を出る為、ダスキンの解約連絡をおばちゃんにした。
最後のモップ返却日、おばちゃんへ家を出るに至った顛末を掻い摘んで説明した。

「槇ちゃん。お別れ決めてよかったね。
モップ交換のたびに、槇ちゃんが弱っていく姿が心配だったの。
私も結婚する前にとてつもなく好きな人がいたけど、どうにもなんとかならなくなってお別れしたのよ。
今の旦那は別に一目惚れでもなんでもないけど、なんかしっくりくるし人生ってそういう風にできている。
槇ちゃんが新しい場所で笑えるよう祈ってるよ。」

優しい眼差しでゆっくり諭すように言ったあと、おばちゃんは私をそっと抱きしめた。

もう何年も前になる話だが、今新たな出会いのもと伴侶となる人とたくさんの話をしていた時、ふっとおばちゃんの顔が浮かんだ。

おばちゃんは、この先の未来も希望も見えず不安に震えた私のことを、顧客としてだけでなく1人の人間として心を砕いてくれた。

月に一度、玄関先でモップを挟み優しくあたたかい時間が流れていた時のことを私はずっと忘れない。

おばちゃん、もしまた出会ったら今度は笑って背中を見送れそうだよ。
あの時は本当にありがとう。

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