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映画『星の子』のこと

公開:2020年
原作:今村夏子
視聴:Netflix

🔹中3のちひろ=ちーちゃん(芦田愛菜)に惜しみなく愛情を注ぐ父(永瀬正敏)と母(原田知世)。ふたりは病弱の娘を救ってくれた「あやしいカルト宗教」を盲信していた。面白くて怖ろしくて寒々しくて個人的に身に沁みる、たいへん丁寧に創られた映画でした。

🛑🛑ここからネタバレ🛑🛑

🔹はじめに昔話を。
幼い頃、(カルトとはやや異なるが)お祷り、集会で合唱や朗読、信者の子同士で遊んだり勉強会、超常能力をもつ噂の若い先生…どれも日常の一部だった。映画に出てくる事柄もいくつか経験した宗教三世。一緒に遊んだなかには出世した子、哀しい人生を送った子、家族と縁切って行方不明の子、きっかけを活かして道から離れた子いろいろだ。

🔹私も十代前半で信仰を捨てたが「教え」にしばらく縛られた。○○してはダメ、○○には近づくな、洗脳というと大袈裟だけど無意味とわかっても避けてしまうもどかしさ。だから映画で葛藤するちーちゃんの揺れ動き、拘りや強張りがちょっとわかってキツかった。

🔹痛いところを突かれてキレるカルト信者はわかりやすい例え、メタファーだ。依存、共依存、誰かが支えないと、私だけが守ってあげられる。国家や社会や家庭や職場や学校や友人など集団に帰属すれば誰しも抱えること。それが生きる糧にもなり枷ともなる。政治信条への執着も、DV野郎と別れられないDV被害者も根っこは似ているのかも。

🔹映画では些細な事件が起きたり噂話が聞こえるが、背景や真実はあやふやなまま。風邪にかかるのか風邪にかからないかもそう。回想と現在で自宅が違うのもそう。答えがはっきり提示されずモヤモヤするかもしれないが、これこそが「信じたいものだけ信じる」「見たくないものは見ないか見なかったことにする」ちーちゃんの視点を表している。

🔹エンディング。誰もいない原っぱ、夜空を見上げて流れ星を待つ父と母と娘の背中。微笑ましい絵のはずが、ひどく透けて煤けて見える。ちーちゃんの行く末に感情が混濁する。私が信仰を捨てたのを両親は知らない。この一生消えない申し訳なさを重ねて涙がこぼれた。みんなやさしくありたいだけなのにね。

🔹今更はじめてじっくり観た芦田愛菜さんの素晴らしさ。思春期で知識も得て、カルトへの疑念も湧いている。けれど両親を揶揄されたり離れるよう諭されると全力で拒否する矛盾。泣きたくないのに泣いてしまう、わかっていそうでわかっていない少女の顔を見事に演じている。

🔹イケメンクズ教師の岡田将生、エリート幹部の高良健吾(怖っ)と黒木華(怖っ)、ちーちゃんを救いたい叔父の大友康平。かつてはギラギラした永瀬正敏とキラキラした原田知世のくたびれた夫婦、オ宝級の同級生なべちゃんと新村くん、みんなリアリティ抜群でよい。ふだん洋画ばかり観てるのでたまに観る邦画の優れた演出や俳優に驚くばかり。


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