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【絵本✖️ものの見方】『スイミー』

わたしは「絵本」を用いて学習者の「ものの見方」を育成することを目指しています。

絵本の原作と翻訳を比較することを通して、ものの見方を培う授業デザインをして、実際に授業をして学習者にどんな学びが起こったのかを調べることを主な研究のテーマにしています。それを「英語教育」として行えるかを考えています。


Swimmy

Leo Lionni 原作のSwimmy という絵本です。

Leo Lionni (1963) Swimmy. Alfred A. Knop f


『スイミー』

レオ=レオニ作 谷川俊太郎訳(1969)『スイミー』.好学社

日本では、翻訳版の『スイミー』が2つの国語の教科書に採択されていることもあり、こちらの方がよく知られているかもしれません。

大学生との授業で「小学校の国語の授業で『スイミー』を習いましたか」と尋ねるとかなりの割合(おおむね8割かそれ以上)で「習った」と答えます。国語の教科書のシェアはわからないのですが、おそらく光村図書の国語の教科書のシェアが大きいのではないでしょうか。

まず、英語で読む

わたしは「英語教育」のなかで「ものの見方」を育てることを研究しているので、まずは原作のSwimmyを読みます。その際、意図的に表紙を見せずに読ませます。

読み終えたら、「あなたが表紙を決めるとしたら、どの場面にする?」「その理由は?」と尋ねて、グループでディスカッションします。


Leo Lionni (1963) Swimmy. Alfred A. Knop f.の見開きページの一覧


ここで選ぶ表紙が、これまでの大学生、高校生、中学生、高校生との授業を通して、かなりの偏りを示します。12と13を選ぶ子どもたちが半数近くになることが多いのです。

その理由は?に対しては、「いちばん大事な場面だから」「ここが大切なところだから」という答えが並びます。

しかし、半数近くは違うページを選んでいて、「12や13はネタバレになるから避けたい」「3が自分の心には残った」「15の何もないページを選ぶことで読者に先入観を持たせたくない」など、実にさまざまな意見がでてきます。

実際の表紙は

実は実際の原作の表紙は、上にもありますが、1〜15のどの場面のものでもありません。これを子どもたちに伝えると、「詐欺だ!笑」などの声が上がりますが、わたしは「表紙を当ててみて」と言ったわけではありません笑、のようなやりとりが生まれることもあります。

正解を当てさせる授業ではないのに、「選択肢に正解がない」ことに「詐欺」という言葉が出てくること自体、子どもたちが普段からいかに「正解を当てること」を強要されているかがみて取れるとも思えます。

Leo Lionni (1963) Swimmy. Alfred A. Knop f 表紙より


日本語の中表紙は

日本語翻訳版の表紙は同じものなのですが、中表紙は異なっています。

レオ=レオニ作 谷川俊太郎訳(1969)『スイミー』.好学社 中表紙より


なぜ、中表紙をこの場面にしたのでしょう?変更するということは、そこに何らかの意図がありますよね。この件については出版社に問い合わせたこともありますが、わからないとのお答えでした。

これについては論文も書かれていて、こちらを参考にしています。
古市久子・西崎有多子(2009)絵本の翻訳に何が影響しているか:日英の絵本を通して


各国の翻訳は?

Swimmyは日本だけでなくいろいろな国で翻訳版が出版されています。日本語翻訳版は中表紙が変更されていますが、他の国は?

ドイツ語翻訳版

Leo Lionni (著), James Kruess (翻訳)(2016)Swimmy.Beltz GmbH, Julius


イタリア語翻訳版

Leo Lionni (著)(2013)Guizzino. Babalibri


フランス語翻訳版

Leo Lionni (著)(1982) Pilotin. Ecole Des Loisirs


中国語翻訳

レオレオニ著/彭懿訳 (2019). 小黑魚. 南海出版公司 


「それぞれの国の表紙の選択の意図は?その意図の背景にある文化や価値観を考えてみよう。」の問いでグループディスカッションをします。

日本語翻訳版の表紙選択の意図は…

他の国のものも合わせて比較すると、それぞれの国で表紙を変更していたり、していなかったりはしますが、日本語翻訳版の中表紙に採択された場面は、実は他に採用している国がありません。

子どもたちはここに着目し、ここに「日本らしさ」があるのではないか、と推測する子も出てきます。


ものの見方を問う

教育学部の学生との授業では、ここに「国語教育による影響」がみて取れるのではないか、という議論が白熱しました。

国語で『スイミー』を習った経験のある人が、12の表紙を多く選ぶのは、ここが主題であるかのように押し付けられた価値観があるのでは?という推察が出てきたからです。

実際にレオ=レオニが描こうとした主題はその場面ではない、という研究もされているので、なかなか鋭い視点です。

比較することで見えること

言語は文化を背負っています。したがって、原作(英語)と日本語訳を比較すると、その背景にある文化への気づきを促すことができます。また、それに関わる人々の意図や価値観について、考える機会を得られます。

原作だけ、日本語訳だけを読むのではなく、どちらも読んで比較することの面白さがあると思いませんか。

そんなことを「英語教育」の枠組みのなかで実践していきたいひとりの教員です。今回は、さらに他の国とも比較することによって、日本語翻訳版の特徴がより明らかになり興味深い題材だと思いました。



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