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世間的なフリーランス人気と、不景気化での望ましい振る舞い

リモートワーク導入企業が減少しており、それに伴う退職の話題も聞こえ始めています。家庭の事情などもあるので転職はやむなしかと思いますが、フリーランス化を勧めるような論調もあり、そちらはどうなのかなと訝しく感じています。実際に独立して案件を回した上で解像度の上がった「あるべき振る舞い」について今回はお話します。

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契約終了を恨むのは筋違い

ここ数年のフリーランス人気に伴い、新卒即フリーランスという人も散見されるようになりました。フリーランスという字面が語るように自由に憧れ、いつでも、どこでも働けるということに訴求される方が多いようです。Twitterなどでも「進路に悩んだ結果、アルバイトを掛け持ちしながらフリーランスをすることにしました」というお話が注目を集めていました。RTやLikeは各人の自由ではあるものの、批判的な意見がない場合は肯定されているように感じやすいものです。この方の場合は、もう「フリーター」じゃないかと思うわけです。

一方のフリーランスはというと、不景気に伴う契約終了や、追い打ちをかける物価高によって阿鼻叫喚が見られます。企業側の事情に目を向けると、何度か資金低迷による組織縮退を経験していますが、優先順位は下記です。

正社員 > 契約社員 >>> 派遣社員、業務委託(受託開発、SES、フリーランス、アルバイト)

もっと言うとハイパフォーマーか否かや、間に中間業者があるかどうかで優先順位が変動します。いずれにせよ、経理上はバッファとして扱われてもやむなしと割り切る必要があります。

業務委託契約なので、いつかは終了するものと思わなければなりません。契約書の解約条項に沿った解約の申し入れであれば何ら法的な問題はありません。取引先を批判する投稿であったり、社員を名指しで恨み辛みをブログで書いたりする人も居られますが、むしろ変に騒ぎ立てることで有名になってしまい、将来的に他社からも契約されないリスクも想定されます。契約終了を嘆くことによって拡散し、同情されているように感じられることもあるでしょうが、それは「かわいそうコンテンツ」として消費されているだけです。これらの情報を流した結果、要注意人物として情報が回ってきている方も居られます。極めてリスクの高い行為です。

不景気化を想定したフリーランスの望ましい立ち振る舞い

実際に業務委託にあたって注意が必要な点について、かいつまんで見ていきます。

契約書の注意点

契約書に関してはいくつか確認するべきポイントがあります。機密情報、解約条項は最も重要視する必要があります。私も過去に遭遇したケースとして、契約書を自社法務と先方法務がやりとりする課程でしれっと解約申し出期間の条項を消されてしまい、そのまま誰も気づかずに締結されたことがありました。この契約は契約満了3日前に解約され、非常に苦い思いをしました。

加えて準委任契約なのに瑕疵担保責任がついているケースも警戒が必要です。こうした契約周りの経験はある程度規模のある企業で失敗も含めて経験しておくのが望ましいと考えます。契約一つにおいても、何も知らない未経験からフリーランスになり、身一つで突っ込んでいくのはリスクが大きすぎて理解できません。先立って契約終了で話題だったフリーランスの方は契約書がなかったようです。恐らく再委託だったのではないかと推察しますが、極めてリスクが高いです。

案件の冗長化

プログラマではなかなか時間的に難しいところはありますが、複数の契約先を持ち、冗長構成にしておく必要があります。

フリーランスエージェントはフリーランスの営業スキームを代行してくれている側面があります。フリーランスエージェントから良くして貰えているうちは単一の案件でも、うまく途切れないようにやってくれることがあります。しかし景気が低迷したり、当人のスキルセットの需要が低下したり、相場より赤い金額設定がなされると案件が途切れるリスクがあります。中間マージンをフリーランスエージェントに払い続けるのは発注側企業としても面白くないため、契約終了の優先順位は高いです。契約が多少途切れても新規に次が決まるような需要があれば良いですが、結構な自信と精神力が必要です。このあたりを拗らせて不安定な精神状態になっているフリーランスもよく見かけます。

特に長く単一の現場に入っていると、その現場の中では生き字引的な価値が出るものの、他所の現場に行くと評価されないという現象に見舞われます。絶対に解約されないというものでもないため、来るべき解約に備えた案件の冗長化や、副業的なスポットでの他案件との冗長化を図ることをお勧めしています。

更に言うとスタートアップは特にですが景気に左右されやすく、数ヶ月で暗転することもあるため、一社専任というのは大手企業に比べるとリスクがあります。

企業の上場審査でも指摘されることがありますが、受注側が「特定の太い発注者」に依存している場合、発注者からの発注が切れたり減ったりすることによって売り上げが落ちるため、事業継続リスクとして見られます。そのため「比率を下げてほしい」「これ以上その発注者から増やさないでほしい」と指導されます。

案件の冗長化や、収益の分散は個人的にもかなり気をつけています。私見としては終身雇用の破綻、早期退職優遇制度の風潮、芳しくない景気の状況などを踏まえると、「企業の雇用形態や定年退職制度に関わらず働ける限り働く」という点で業務委託を選択するということについては肯定的です。ビジネスキャリアとしては玄人向けの使い方が妥当なのではないかと考えています。案件の冗長化の観点からしても、「週3稼働で他は好きなことをする」というタイプのフリーランスの方々については「よーやるわ」というサーカスの曲芸を見るような気持ちで見ています。

一度クライアントワークを正社員でやってから挑戦することをお勧めしたい

私自身、一人で起業するに至りましたが、未経験から即フリーランスになるのはかなりリスクが高く、特にメリットが理解できません。どうしてもフリーランスになりたいというのであれば、手堅く下記のポイントを抑えてからでも問題は無いと考えています。

スキルは前提

業務委託を育成する義理は企業側にはありません。短期間でオンボーディングを終え、戦力化しなければなりません。特にデジタル人材のような専門職の場合、入場してから当該スキルが企業によって育成されることはありません。求められるのは即戦力です。スキルがない場合は、正社員で経験を何年か積んでから出直すくらいが丁度良いです。

アウトバウンド、インバウンド、紹介を意識して営業経験を積む

未経験フリーランス界隈でも「営業を頑張ろう」という話は跳梁跋扈しています。しかし当該界隈で言われている営業はいわゆるアウトバウンド営業です。企業の問い合わせフォームやSNS窓口にひたすら送り続けるというものです。「n通送ったら1件決まるので愚直に頑張ろうな」というCVRのような発想が横たわっており、共通メッセージです。しかしこのやり方は「何故その人に依頼しなければならないのか」という視点が欠けています。私もオフショア開発の文脈で試行錯誤しましたが、アウトバウンド営業は買い手を見つけるために腰を低くしてお伺いを立てるやり方のため、どうしても発注者優位になります。話が進んだとしても最初からコンペの対抗馬にされることも多いため、タイムパフォーマンスが非常に悪いです。個人的にはアウトバウンド営業は全くしていません。

自身の専門分野について定常的に情報を発信することで、「こういうことで困っているのであの人に聞いてみよう」というインバウンドが発生します。私の場合はこのnoteですが、テックブログなりYouTubeなりで広く「この人は何屋なのか」「何に困ったら問い合わせをすれば良いのか」と認知されていくのが望ましいです。

こうしたインバウンド狙いの活動をしていくと、知人からの仕事の紹介も発生します。これもインバウンド同様、顧客と自身が対等な立場になれるため好ましいです。

顧客折衝経験を積む

デジタル人材以外も含め、近年では人事や営業のフリーランスも増えているため、協業をするシーンも出てきました。実際にある問題として、「何か問題があり、顧客から詰められたときに凹み、そのまま連絡が取れなくなる」というケースが少なく有りません。現在仮説検証をしているところなのですが、ひとえにクライアントワーク経験の有無なのではないかと考えています。

コンサルでもSIerでもSESでも受託開発でも良いのですが、契約をベースに線引きをし、怒られたりディフェンスしながらやりくりした経験がないと蒸発しやすいようです。特に業務経験が自社内で閉じているポジションしか経験が無い方の場合は脆いです。特にオンライン前提で仕事を進める場合、A社でやらかしてしこたま謝罪した1分後に、B社との新規営業でヒアリングをするようなこともザラにあります。

  • 顧客との関係性を何度か構築する

  • 不機嫌な顧客との対峙

  • 炎上プロジェクトの鎮火

  • 複数の顧客との打ち合わせを連続することによる頭の切り替え

この四要素というのは概念的に分かっているだけでは不十分では無いかなと考えているところです。

正社員のうちに副業から始めることもあり

フリーランス化のみならず、自身のスキルチェンジやキャリアチェンジを模索するに当たって、副業を利用するというのは良いと考えています。営業をしてみる、顧客折衝をしてみる、などの経験を本業という軸足がある状態で副業でトライするというのはキャリアの冗長化の観点からも望ましいです。

私自身、「流しのEM」という同業者をほぼ見ない仕事をしていますが、副業でアタリをつけた上で実行しました。世間の情報商材やフリーランスエージェントでは、今すぐフリーランスになることを奨励しがちです。フリーランスにならないことに対して、「いくじなし!」となじるフリーランスエージェントのCMもありました。しかし現在の場所からジャンプしたとして、その先の責任を取ってくれる人は居ません。

その点において、時間の融通は大変ではありますが、自身のスキルや経験に値段がつくかどうかを、副業を介してトライしてみるのは実に手堅いと考えています。かといって、くれぐれも本業は手を抜かないようにしてください。


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