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どうしてこんなに人気なのか?未経験・微経験フリーランスエンジニアの増加の背景

 多い。実に多い。フリーランスになるつもりの駆け出しエンジニアが実に多いのです。これは新卒エンジニア採用でも見られ、各社面接官やエージェントの皆さんと情報交換をしていても「フリーランスになるためにはどこの会社に就職すれば良いでしょう?」という質問が増えているそうです。

 何故こんなにフリーランスが人気なのでしょうか?一時期のプログラミング学校LPに見られた「稼げる」だけでは無いようですし、ここまで広がるとプログラミング学校やインフルエンサーだけでは無かろうということで30歳以下のフリーランス人気事情を紐解いてみました。

ITエンジニア以外にも拡がるフリーランス

 このフリーランスの流れはエンジニアやデザイナーといった専門職に留まらず、マーケター、営業職、人事採用職などにも波及しています。

 特に人事採用職はスカウト代行のような形も多く、控えめに言って会社員時代と同等の生計が経つとは思えません。ランサーズでスカウト代行の募集を見ていると、「実際の受注者」を見る限りでは時間単価1,500円といったところです。フリーターなら好条件ですが、フリーランスとして後から払う税金などを踏まえると厳しい。毎月200時間働いたとしても360万円です。ここから所得税、個人事業税、消費税などが引かれていきます。

 元来、企業における業務委託というのは自社の給与水準や組織図では当てはまらないスペシャリストと契約するというのが主でした。しかしこれが今や普通のメンバー層と契約する、何だったら未経験フリーランスとして素人と契約して教育しなければならないという形に変異してきています。

「新学力観」に基づく個人尊重教育

 現在35歳になっているバブル崩壊時の1992年に小学校に入学した世代以下を指して「つくし世代」と定義されている方が居られます。こちらは2015年の著書でして、当時の30歳以下を想定して書かれています。マーケティングの本ではありますが、キャリアについても参考になる箇所がありましたのでご紹介します。

 こちらの著書で指摘していることとして、ターニングポイントは1992年にあったとしています。小学校の教育が「新学力観」に基づく個性尊重をはっきりと打ち出した指導要領が導入され、学力評価の基準が相対評価から絶対評価に改められたことが一点目。共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回ったというのが二点目。バブル崩壊が三点目です。

 こちらの著書でも紹介されているのですが、楽天オーネット(旧オーエムエムジー)が毎年600名程度に実施している新成人の意識調査があります。著書では2015年(現在25歳)の調査を紹介した上で下記の点を指摘しています。

・「自分のタイプ」についての質問 2015
 「人からペースを崩されたくない」92.2%
 「人に気を遣うタイプ」85.5%

 著書ではこの点を挙げて「人から干渉されたくはない一方で気を遣う若者像」を特徴とし、特徴として下記のようにまとめています。

規制の価値観や枠組み、世間の常識にとらわれず、自分のフィーリングに会うものを自由にチョイスし、ミックスし、アレンジして「自分らしさ」の完成を目指していく

 ここで私は同一の設問が見られアクセス可能な最も古い2006年(現在34歳)とも比較してみました。先の2015年の対象者が新学力観が根付いた年齢層だとすると、2006年は新学力観がまだ始まって間もない年代と言えるでしょう。すると下記のデータがありました。

・「自分のタイプ」についての質問 2006
 「人からペースを崩されたくない」92.1%
 「人に気を遣うタイプ」86.1%

 2015年と2006年ではほぼ変わりません。新学力観が適用されてバチッと変わった可能性もありますが、20歳は元来こんなものである可能性も否めず、本来であればこれより前の調査を見たいところです。

仕事意識に対する変化

 新成人意識調査を見ていくと、仕事意識の項目で興味深いものがありました。

・「仕事だけの人生はいやだ」
   91.3% (2006)
   72.4% (2008)
   57.6% (2010)
   54.3% (2015)

・仕事への情熱
 -「仕事に燃えている女性は素敵だと思う」
   81.4% (2006)
 「仕事に燃えている男性は素敵だと思う」
   83.3% (2006)
 -「仕事に燃えている人は素敵だと思う」
   49.0% (2008)
   38.5% (2015)

・「会社の中では出世したい」
   62.0% (2006)
   35.8% (2008)
   32.9% (2010)
   25.7% (2015)

・「就職する会社は、規模が大きいほうがよい」
   34.3% (2006)
   20.8% (2010)
   15.3% (2015)

・「自分の求める仕事が見つかるまではあきらめない」
   45.0% (2006)
   16.5% (2010)
   15.8% (2015)

 ここをまとめていくと下記のような若手の仕事観が見えてきます。

・仕事だけの人生でも仕方がないが、仕事に燃えるのも白けている
 →仕事に対する諦め、ライスワークへのシフト
・会社の中での出世には興味がない
 →リーダーやマネージャーに対する忌避
 →メンバー層であり続けることへの希望
・会社の規模は小さくても良い
 →終身雇用に対する期待の縮小
 →大手企業・老舗企業の看板について若手採用時の威光の低下
 →スタートアップや個人での活動に対する抵抗の希薄化

 では続いて20代の特にITエンジニアをマネージメントをしてきて見えてきた、フリーランスをキャリアパスとして選択しても不思議のない思考や環境についてお話していきます。

1.「複数の経験」が正義

 先にご紹介した仕事観にもあるように、大手企業で安定して定年を目指そうという人はほぼ居ません。同じく、周りと競争して当該企業で実績を積んで出世しようとも思っていません。

 物心つく頃には不況だったこの世代に取って、それ以上の世代はなんとも頼りなく見えているのではないでしょうか。

 不安症のこの世代は単一業務では不安な傾向にある。それまでの世代は巨大樹のような企業に居て、言うことを聞いていれば退職までエスカレータで登るイメージがありました。ことITに関して言えばコアに近いNTTグループと日立くらいしかないのではとすら思います。その道を選ばないということは、複数の経験を積み、不測の事態にも備えられるようにしたいという傾向が感じられます。

2.シェアリングエコノミー、シェアハウスによる生活費低減

 シェアリングエコノミーの台頭により、お金がかかりがちな固定費に関する支出が削減されました。車や衣服などもありますが、やはり大きなのはシェアハウスでしょう。

 最近個人的に驚いたのは結婚後も夫婦でシェアハウスに住んでいるという事例でした。アラフォーの私達の場合は、実家に親と同居することに抵抗がある人の話を聞きがちだったので、夫婦になってからも血縁関係のないコミュニティに属し続けるというのは意外でした。

3.安価、無料な娯楽の拡大

「人間は暇だとろくな事を考えない」などと言われますが、現代社会において暇であることは苦痛であり、それを解消するために唸るほどの娯楽が存在します。過去の娯楽はとにかくお金を掛けるのが前提のものでした。私もオーディオ、車、カメラとやりましたがどれも追いかけると一財産消えるものです。酒、タバコ、ギャンブル、この当たりの王道の即時性の高い暇つぶしもお金がかかるのが前提です。

 これが違ってきたなと感じたのは2010年頃でした。当時の大学生にはこういう人が居ました。録画機器はおろかテレビも持たず、アニメの海外違法アップロードサイトの流行で、遅いダウンロード速度でアニメを鑑賞している人が居ました。違法性を指導する一方で、私はネットワーク屋なので「そんなに遅いダウンロード速度でどうやって見ているのか?」と聞きました。すると『朝起きてダウンロードを開始、朝食を作って身支度を済ませた頃には終わるので、そこでようやくアニメを見ながら朝食を食べる』というのです。無料を優先するがあまり、彼は自らのライフサイクルを変えていたのです。

 今の風潮を見ると漫画村などもありましたが、合法的に「待てば無料」「無料枠である程度遊べる」というゲームやアニメはたくさんあります。人気スマホゲーム荒野行動で興味深いのは、課金しても見た目が変わるだけなので、本質的な強さには影響しないというもので、無料でも貧相ですが十二分に遊べます。

 人間の文化的な敵である「暇」を手軽に無料枠で解消できるということは、暇を解消するために稼ぐ必要がなくなった人を増やしたことに繋がると言えるでしょう。

4.ギグワークの拡充と副業と呼ぶことによるギャップの緩和

 シェアリングエコノミー流行の一環で、すきま時間で足らないお金を補填することが容易になりました。最近だとUberEatsだけでなく、給付金申請周りやGoToシリーズの事務処理などでスポットの需要もあるようです。

 話を聞いていると、どう見てもアルバイトなのですが「副業」と皆さん仰っしゃります。肌感覚ですが、UberEatsはアルバイトではなく副業と言い切る方が多い印象です。一方で、コンビニのアルバイトを副業と表現する方はあまり聞きません。

 結果、アルバイトを掛け持ちするフリーターのようなフリーランスも増加しています。

フリーランス志向になっていない若手は居るのか?

 今回の言説を数ヶ所で披露してみたところ、賛同いただく一方で全く染まっていない若手も確認されました。

「価値観を叩き直す勢いのスパルタ系の塾」「全寮制の厳しい中高一貫校」。大学ではじけなければという条件がつきますが、昭和のスポ根めいた指導を隔離された空間で受けた若手には、例えつくし世代であってもあまり共通点は感じられませんでした。もっとも、私が観測した範囲ではいずれの方も体育会系営業職に進まれているのですが。

まとめ:ブーム沈静化の鍵は納税?

 今回はフリーランスを志向しやすい若手が晒されてきた環境として、教育・不景気に対する企業への期待感の低下、フリーランスを実現可能な社エアリングエコノミー、ギグワークなどについてお話をしました。

 このまま無尽蔵にフリーランス化が進む可能性もありますが、実際問題として生活は苦しくなるので今の熱病のようなフリーランスブームはどこかで鈍化するのではないかと考えています。

 かなりクリアランスがない生活を送っていると思われる未経験・微経験フリーランスにとって、挫折きっかけになるものは納税ではないでしょうか。納税のために副業という名のギグワークを重ねることが容易に想像されます。正社員を採用したい企業さんは、年度末に向けてフリーランスからの出戻りを受け入れるような動きをすれば良いのでは?と考えています。

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