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不景気に萎む組織の傾向と備え

2022年11月4日のTwitter社のレイオフ、翌週のMeta社のレイオフ予告などが席巻しています。Stripe、Netflix、Amazonといったアメリカ企業を中心に新規採用を停止している状態です。

「我々は今の(新型コロナのパンデミックが発生した)世界で過剰に雇用してしまった」と創業者は記している。その結果、従業員の約14%にあたる1000人をレイオフし、2022年2月の時点の7000人にまで人員を削減することになった。
このような過ちを犯したテック系の幹部は彼らだけではない。
eコマース企業のショッピファイ(Shopify)は、パンデミック時のオンラインショッピングの成長を受けて2020年に人員拡張を開始したが、2022年7月には従業員の10%をレイオフした。クラーナ(Klarna)、ペロトン(Peleton)、カーバナ(Carvana)が行ったレイオフも、同様に過剰雇用、特に、意味のない職務での採用が原因だとされている。

レイオフを告げるストライプ創業者のメモは、多くのテック企業に共通する過ちを説明している
BUSINESS INSIDER

日本の場合も、少子化とデジタル人材不足で「採れるうちに採用しなければ」という機運は強くあるため、求人倍率が高騰してきた背景があります。日本についてもコロナ禍、ウクライナ問題、為替など複数の要素が絡まっているので大波となると思われます。また、FTXの破綻などは仮想通貨界隈に大きな影を落とすでしょう。

これらのような景気に関わらずに単一の企業の財政が急速に悪化することもあります。過去には「経理担当者がExcelを間違って扱っており、一桁間違えていた。問題発覚後、全社総会が緊急で開かれ、解散した」というケースも耳にしました。急に会社の動きが変わるというのはあると思っていて良いです。今回は企業が不景気・不具合時にどういった行動を取るのか、被雇用者はどのようにすれば良いのかについてお話をします。


日本企業が動くシナリオ

日本での採用シーンは外資コンサルと、VCからの調達のうまいスタートアップが牽引してきました。外資コンサルはアメリカが荒ぶっているので陰りがあるのと、「雇いすぎた説」もあるため警戒しておくにこしたことはないでしょう。

スタートアップ界隈でもこれまでのVCであれば「今は不況でも芽が出るのは5年後なので強気に投資」という流れだったのですが、今では「手堅いところを吟味して慎重に投資」という傾向が聞こえています。

また、シード期を脱した後も出資者などから想定よりも早くEXITを迫られ、組織が空中分解する話も聞こえています。

個人的にもいくつかの不景気の際の意思決定に立ち会ったり、意思決定をせざるを得なかったのですが、大筋で次のような人的コストの削減傾向が見られます。

スキルに対して高単価な業務委託の終了

フリーランスエンジニアやSES営業担当が「多めに単価を提示してみたら通った」というケースです。相場から外れすぎていると契約打ち切りになります。個人的な見聞の範囲では減額交渉を挟むことはあまり無く、契約書の終了に基づいて終了がなされる傾向にあります。

中間マージンが発生する業務委託の終了

業務委託であっても初期コストだけ発生するものであれば削減対象となる優先度は下がるのですが、定常的に中間マージンが発生するフリーランス紹介の形態については疎まれる傾向にあります。

新規正社員採用の停止

売り上げ貢献が少ないところから順番に採用が閉じられる傾向にあります。新規事業やR&Dなども先送りになるケースが多く、採用も連動して閉じていきます。

選考中の候補者を一律見送り

たまに大手外資などでも起きるものです。内定を出してしまうと法的な問題が出てしまうため、選考中のうちに断るというものです。合理的な決断ではあるものの、この手段は人材紹介会社を中心にかなり口コミが回りやすいため、注意が必要です。

派遣、パートの終了

現場レベルで根深い問題になるものです。意思決定をした上長から見ると専門性の観点から替えが効くように見える反面、現場目線で見ると属人的ノウハウの塊になっているケースがあります。そのため、契約を終了することによって現場が混乱するというケースが多々あります。また、契約終了をした派遣、パートの方々が後に再度戻ってくることもまずないので注意が必要です。

このような事態に備え、重要な人物であれば景気が良いときに正社員登用してしまうのが良いです。

このあたりでカフェスペース常駐のバリスタなども居なくなりがちです。

上記以外の業務委託終了

昨今の開発組織では、一部大手企業を除くと業務委託が主力になっているケースはよく見かけます。例えば正社員はジュニアが多く、シニアな業務委託を入れることによってコアコンピタンスとなるプロダクトを作っているケースが挙げられます。

財政が危うくなってくると正社員よりは優先して終了することになります。終了の仕方が綺麗であれば、再契約するケースは見たことが何度かあります。

芳しくないR&D部門、新規事業の解体と異動

スカウト媒体を見ているとよくあるのが、AI人材やデータエンジニアが特定の組織からまとまって出てくるケースです。過去には大手家電メーカーがAI部門を新設、新卒なども交えて採用するも、高すぎる投資に対し部署ごと解散することで大量に流入することもありました。コロナ禍が始まった2020年初頭では、やたらとPython人材が転職市場にも業務委託市場にもだぶついていました。エンジニアとしては、AI部門がなくなったときに、サーバサイドエンジニアなどに転向するか、転職するかというのが大きな分かれ道となっています。

解散する程度の意思決定なのであれば正社員採用をしなければ良かったのでは?とも思わなくはないですが、DXの一角に内製化が掲げられている以上、そのような選択肢がないこともあります。今後も出てくる話でしょう。

正社員の解雇は最終手段

法的に解雇が難しい日本では、レイオフは最終手段です。私が人材の流動性の高いスタートアップ、ベンチャーを中心に活動して居ることもあり、上記人件費削減施策や、社内の風向きを察知したり、ボーナスや給与の減額で去って行く正社員も居るのでトータルではなんとか持ちこたえられているケースが中心です。

社員・候補者はどう振る舞うべきか

上記のような脅威は多くの企業で遭遇する可能性があります。経営的にまだ盤石ではない場合はもちろん、ある程度の規模の企業であっても粗利率が低かったり、凄いオフィスに入居していて固定費が高いケースなどであれば、こうした脅威に遭遇する可能性があります。社員としてどう振る舞うべきかについて見ていきます。

社内の周囲に興味を持ち、異変を察知する

リモートワークだと難しいことではあるのですが、他部署の社員の動きを見ると自社の異変に気づくことができます。広告費が削られたマーケティング部門、派遣切りが始まったバックオフィス部門など、察することはできます。

サブスク型のソフトウェア契約も見直されがちです。過去に見聞したケースでは「資産管理システムの解約」というものもありました。

たまに出社して異変を確認することもお勧めです。コロナ禍で出社する人が居なくなったことによって削減された備品もありますが、過去には赤字を埋めるために行った施策が「ウォーターサーバの解約」というケースもありました。いつから無いのかも含めて確認していくと、異変を察知できるかも知れません。

不景気下の就職をどう捉えるか

新卒採用の場合、内定承諾先をどうするかということがポイントになります。

一般的に内定を取り消されることは日本においては法的な問題があり、ニュースになる可能性も高いのでごく少数です。内定取り消しにあったとしても、入社前に倒産することが分かって良かったくらいに思った方が良いでしょう。

学部生であれば、手持ちの内定が芳しくない場合、一旦進学して様子を見るのもありでしょう。ただし研究テーマが固まらないと就職活動を+2年するだけの時間になります。あまつさえ修了できなければ就職計画も狂ってしまいます。

稀に就職活動を延期するために博士進学する方にもお会いするのですが、それは全力で止めたい選択肢ですね。出られなくなるぞ。

不景気下の転職

エンジニアの場合であれば、急な求人倍率の割り込みなどはないでしょう。また、スタートアップでも調達が間に合った企業であれば継続募集されることが考えられます。

給与大幅アップ(概ね1.2倍以上)の転職はお勧めしかねます。前述しましたがスキルや事業貢献が給与に見合っていない人から立場が危うくなっていきます。

中途社員ばかりのある企業の役員は「社員なんて辞めさせたければ違法にならない範囲(10%減くらい)で給与を下げて行けば辞める」と豪語する方も居ました。給与を上げて入社した後の減額提示はメンタルに来ますので、大幅なジャンプアップにはご注意下さい。特にITエンジニアの場合、相場がかなり崩れているので要注意です。

並の独立はお勧めできない

「企業に頼らず、自分の力で生きていく」という論調があります。不景気の反動に乗っかって個人事業主であったり、起業だったりを勧める情報商材やも存在します。私も一人で起業していますが、お勧めはしかねます。

特にプログラマの場合、掛け持ちの案件数はせいぜい2案件でしょう。1案件のクライアントワークと残り時間で自社サービス開発というケースもあるでしょう。しかし不景気下で案件が途切れると路頭に迷います。不安も強くなり、迷走する方もよく見かけます。最小で3案件は欲しいところですが、プログラマでは難しい案件数です。往々にして複数案件を抱えてようやく心の平穏が訪れるということは覚えておいてください。

人材業界界隈で想定されること

これまで有効求人倍率が高すぎたことにより、人材業界では下記のようなことが起きていました。

  • 契約書上の人材紹介フィーが低い企業に対する塩対応

  • 新規企業側契約のお断り

  • 人材紹介会社の中の人が忙しすぎ、選択と集中をした結果、決まりやすく高単価な人材紹介フィーを出す外資コンサルへの注力

    • コンサル

    • マネージャー

    • 他職種の塩対応

  • ジュニア層、転職に不慣れなミドル層の候補者の意志を無視した勝手応募

売上に走っている企業は多々あり、典型的なバブルの症状です。優先度の低い求人を各社がそぎ落としていくと、残るのは非常に専門性が高い求人になります。結果として母集団が減ることで成約数も下がるため、売上に響きます。恐らくこの調子で求人が萎むと、人材紹介界隈は冷水を浴びせられるでしょう。

ソシャゲブームの時に、現在よりは小振りなバブルがありました。バブル後、塩対応していた企業に挨拶回りに行くエージェントを見ていましたが、「どのツラ下げて来たんだ?」という対応が頻発していました。普段からこうしたことを想定して丁寧なコミュニケーションを取りたいものです。

採用力が小さくなった場合の企業の立ち居振る舞い

私の著書ですが、採用力が小さめの企業を想定して書いています。不景気下で採用力が下がった場合の企業を想定しても違和感のない内容になっていますので是非ご一読ください。企業側、候補者側の双方に参考になるでしょう。

noteやTwitterには書けないことや個別相談、質問回答などを週一のウェビナーとテキストで展開しています。経験者エンジニア、人材紹介、人事の方などにご参加いただいています。参加者の属性としてはかなり珍しいコミュニティだと思っています。ウェビナーアーカイブの限定公開なども実施しています。

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