見出し画像

デジタル人材としてエンジニアバブル後を生き抜く~候補者編

先日投稿しましたエンジニアバブルの収束について触れたnoteは非常に多くの方に読んで頂きました。はてブ総合1位、一時期はTwitterトレンドにも取り上げられ、皆様の関心の高さを感じます。Forkwellさんにもサービス内データベースを振り返りながら取り上げて頂きました。是非ご覧ください。折しも象徴的な話題としてクックパッド社の整理解雇の話もあり、大きな転機が感じられます。

今回はエンジニアバブルの反響で得られた各業態の現状をまとめつつ、今後デジタル人材としてどう振る舞うべきなのかを、掻い摘まんでお話ししていきます。

労働環境の変遷とエンジニアバブル

「この先生きのこるには」という言葉がIT界隈で流行ったことがあります。2002年の2ちゃんねる土木・建築板だそうです。20代の方には何のことやら分からないと思いますが、「先生が『きのこる』って何?」というのが2ちゃんねるを中心に話題になっていたのです。私が居たITインフラ界隈でも結構な話題となっていました。当時は35歳ITエンジニア限界説が盛んに叫ばれていた時期です。本noteでも取り上げましたが、当時はIT業界の労働環境が劣悪だったため、肉体的精神的な限界が35歳あたりで来るという背景がありました。そんなこともあり、「この先生きのこるには」という言葉にはキャリアというよりも生命体としての危機感が背景にあったと言えます。当時の環境の悪さは3K、5K、7K、10Kなどと言われていました。

その後、あまたの犠牲を経て、上場審査の過程で労務の比重が高くなっていきました。そして2015年から7年間のエンジニアバブルに突入し、候補者への働きやすさの訴求としてのホワイト化が目立つようになっていきます。労働環境の改善は大幅になされ、今では例え月に1時間であっても定時以降の残業を忌避するような風潮すら出ている状態です。

IT業界のホワイト化に伴い、体力的な限界が緩和された現在では、40歳、45歳、50歳で採用ハードルが大きく上昇するものの、大筋で40代以下のスキルに現役感がある人材であれば問題なく転職はできるようになってきました。この年齢緩和とエンジニアバブルの連動については注意が必要で、個人的にも注視しています。未だバブルの渦中にあるコンサルファームなどでは55歳が上限設定されているという話もあります。

景気が良いのは非常に喜ばしいことではあったのですが、7年間という長期の景気の良さは、景気が悪かった時代のことを忘れているデジタル人材も少なくありませんし、今の30歳以下のデジタル人材であれば就活も転職活動も恵まれた時代と重なりました。多くのデジタル人材にとって、未知の転職市場になることが予想されます。

転職や業務委託契約が厳しい属性の人たち

求人倍率は依然として他業種比較では高く、微減程度で収まっていると言われていますが2023年6月11日現在の状況では2022年12月時点の統計しか存在していないことに注意が必要です。(人の流れについて直ぐにエビデンスと言われるのですが、統計データが出るのは半年から1年後であることは頭の片隅に置いておいて良いでしょう。)実際に転職状況のヒアリングをしている限りでは次の求人倍率発表まで楽観視できない状況と捉えています。

toC向けスタートアップ~メガベンチャーを中心に積極採用の姿勢が崩れており、現在も積極採用をしている企業は確かにあるものの、採用要件の高まりが見受けられます。

スタートアップ界隈などではVCへの事業進捗報告として「エンジニア採用人数」を出しているところがありました。また人月計算を行うクライアントワークでも、プロジェクトにアサインされる人数が増えると基本的に売り上げがリニアに上がるため、採用人数最優先で考えて来た傾向が2022年まではありました。基準を満たしていない人でも譲歩して内定を出したり、自社の給与水準に見合わない金額提示をする組織は数多くありました。今でも一部日系コンサルファームを中心にそのような動きが残っています。 こうしたことから、ヘッドカウントの目標達成をすることが人事採用部門の目標だった組織が少なからず存在し、人事採用担当者やRPOの雇用も産まれたという背景があります。

加えて「CxOの採用」「有名企業からのエンジニア採用」を挙げているスタートアップも少なからずありました。そのため、有名メガベンチャーから社格を下げながら転々と転職するCxOクラスも散見されてました。

続いて具体的に懸念される人たちについて整理をしていきます。「うちは歓迎しているよ!」という方はTwitterで引用RTなどしていただければ良いのではないでしょうか。

未経験、微経験のエンジニア転職

未経験、微経験のエンジニア転職については業種を問わず厳しい傾向があります。SIerやSESでは見かけますが募集枠は少なく、自社サービスでは更に少ない傾向にあります。ちなみにデザイナー、ライターは更に見かけません。

現在第二新卒採用に注力している企業群として、未だにバブルの渦中にあるコンサルファームがあります。しかし未経験なら誰でも良いというわけではなく、21新卒・22新卒に限定しているようです。ダイバーシティの観点から女性の選考基準が緩くなっている企業もあります。

未経験、微経験の採用もまた、景気が良かったりエンジニアバブルの恩恵の一部だったと捉えています。ご時世を踏まえた上でも尚エンジニアになりたいというのであれば、社内でのデジタル人材へのキャリアチェンジを模索することを第一に考えましょう。ここ10年ほどプログラミングスクールの一部で見られたような自身を追い込むために退職し、学習するのは全くお勧めできません。特に20新卒以前の人たちは厳しいです。

また同時に言えることとしては、殆どの日系企業にとって新卒は別腹だということです。新卒カードは大切にしましょう。「なんか違った」「オヤカクの禊が(1年くらい経過して)終わった」と短期離職すると非常にもったいないです。

1年未満離職、複数回転職

現在スカウト媒体を見ていると、感覚的な数字ではありますが5%くらいの割合で綺麗に毎年転職をしている方が居られます。10年10社といった職歴が存在していたり、丸めて直近1-3社だけ書いているような方も居られます(企業から経歴詐称を疑われかねないので辞めましょう)。

1年未満退職や複数回の転職に対し、ここ数ヶ月は再度厳しくなってきた傾向が見られます。プログラマであれば条件が緩和される企業もありますが、そうでない場合は「転職回数は2回まで」などと求人票には出ない裏の制限が入っている企業が見受けられます。積極採用を継続している企業の顔ぶれを見ていくと、昔から経験者数の観点が厳しかった企業が採用を継続し、甘く見ていた企業が採用を絞っているようにも見受けられます。

これまでエンジニアバブルで積極採用してきたものの、数ヶ月~1年未満で離職してしまう人材が数多く居たため、採用コストを回収できずに赤字になる組織が少なからずありました。それでも調達が上手くいっているうちは痛みはそこまで大きくはないのですが、今は失敗は許されないため人選を厳しくしている傾向があります。

個人的にもキャリア相談をお受けした際には、所属している会社が無くなった、劣悪な労働環境、ハラスメントがあるなどの根本課題がない限りは、むやみに転職するのは避けるようにお伝えしています。

転職活動の軸がなく、採用時のグリップに社内の工数が掛かる人

費用的なものだけではなくスカウトや面談、面接といった時間的な工数を気にする企業が非常に増えています。特に2022年11月以降はスカウト返信率が軒並み低下したため、費用対効果に疑問を持ち、スカウト媒体を解約する企業さんも見かけました。2010年代中盤から話題になった「エンジニアも採用の場に出て行って候補者をグリップをしていく」という施策も、主に時間的な工数の懸念から「入社に至るかどうか分からないカジュアル面談なら人事採用担当やRPOに任せよう。エンジニアにはコードを書いていて貰おう」という話が出てくるようになりました。HRBPなどのブームと相まって、採用工数は人事が払い出すものにシフトして始めており、エンジニアは技術試験などに登場するケースが増加しているようです。

採用時の工数がシビアになる中、損をし始めているのが「転職活動の軸がない」方です。日系企業にとって新卒は別腹のため、2015年以降は人事採用担当が時間を取って「就活の軸」を一緒に作り、自社にマッチするかどうかを伴走しながら見つけていくという極めてウェットなことがメガベンチャーを中心に起きています。ただし、これを中途でやられると伴走する企業などは個人的には見たことがありません。スカウトの返信やカジュアル面談などで「現職への残留、転職、フリーランスのどれも迷っています」などと発言すると、その場で「正社員のみの募集なので」とお見送りされているのを見かけます。採用工数がかかりそうだと判断されると、よほど現場が欲しいと熱望するような即戦力人材でない限りは厳しい傾向にあります。

転職活動の軸がない、現状の不満点が特にないのであれば転職はお勧めしていません。給与アップも相場重視よりも社内基準で出されることが多く、現職の給与が大幅に相場よりも低くない限りはジャンプアップの期待は難しいです。それでも悩むのであれば良心的な人材紹介の、信頼のおけるキャリアアドバイザーに人生相談をして転職活動の軸を見つけるのが落としどころだと考えています。

フルリモートワーク希望、出社不可

フルリモートワーク可能な企業が減っています。下記のニュースでは2022年10月の段階で減少を伝える記事ですが、現在の各社の求人状況を見ていると実にリモートワーク可の求人が少ないです。ある一定のグレード評価を受けた方のみ可能、週3日出社、週4日出社、オンボーディング期間の最初の一ヶ月は全出社で以降はオンボーディング具合によって要相談など、フルリモートワーク許可求人にも多様性があるものの、企業に出社できる範囲に住んでいないと選択肢が大幅に狭まります。

業務委託も例外ではなく、受託開発企業でフルリモート可の求人をしたところ、定員1人に対し、60-80人強の応募があったというお話も頂きました。地方に移住された方や、通勤時間が長くかかる地域に勢いで家を買ってしまった方の今後が気がかりです。よほどのことが無い限りは、都内で通勤を求められても通える範囲に住んでおくことが安心だと捉えています。それくらいフルリモート可の案件は減っています。私が何度か紹介の際に使った技は、「候補者の方が住んでいる近隣に通える範囲の支社がある企業さんを紹介する」というものです。これであれば飲んでくれる会社さんは多少は増えます。

リモートワークが懸念される企業側の声を拾っていくと下記のようなものがあります。

  • 新卒・未経験人材の教育が難しい

  • 社内の非デジタル人材職がエンジニアを呼び止めて質問したい

  • フルリモートで採用し、フルリモートでオンボーディングした人材がすぐ辞める

  • サボっている社員が居た(内職していた、連絡がつかない、Slackがオフラインのままなど)

  • (生産性云々はさておき)売り上げが落ちた、粗利が落ちたので環境から元に戻したい

フルリモートワークを実現可能な組織と言うのはかなり限定的なのでは無いかと捉えています。下記のような条件がアンドであったりオア条件であるのではないかと考えています。

  • 粗利が確保されている

  • 被教育者が居ない

  • ある程度全員のITリテラシーが高く、能動的なオンラインコミュニケーションを全員ができる

  • 感情的では無く、合理的な意思決定が組織としてできる

  • 業務委託が多く、割り切った組織運営ができる

  • 要件を伝えることが基本であり、雑談などが起きにくいオンラインコミュニケーションにあって、殺伐としない空気作りができる

こう考えていくと、かなりフルリモートでの組織運営は上級者向けの施策ではないかと捉えています。多くの2022年までのフルリモート可求人について、ヘッドカウントを増やすために企業がやむを得ず展開していた施策だったのではないかと考えています。もし今、フルリモート可で且つ当面フルリモートを継続しそうなポジションや契約がある方は、大切にした方が良いです。

どうしても転職しなければならない方へ

エンジニアバブル下では、スカウト媒体で「○○社で××(フレームワーク)を書いてました」だけでそれっぽいスカウトが飛んでくる状態でした。しかし採用要件が厳しくなり、採用コストも見直されつつある現在ではなかなか通用しません。また、(カジュアル面談ではなく)面接で「どういう会社なんですか?」という無対策な面接も忌避されます。

まずは職務経歴書をアップデートしましょう。そして業界研究、企業研究をしましょう。企業目線で採用コストの低いリファラルや直接応募で開かれる「隠れ求人」もあります。近しい友人や、元同僚への相談も含めて動きましょう。

キャリア相談、企業側採用相談共に受け付けています。お気軽にどうぞ。

PR:企業編

著書をきっかけにエン・ジャパンさんにお声がけ頂きました。企業・人事採用担当目線で時流を読み解きつつ、ポイントについてお話をしていきます。ぜひご参加ください。

Brush Up!ITエンジニア採用  ~辞退を防ぐアトラクト戦略 重要性と方法~



頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!