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「新卒カード」の偉大さと転職ビジネス、情報商材

4月になり入社から1週間が経ちました。この時期になると大人達が「社会人の心得」を説教めいた感じで説きがちなのですが、「石の上にも三年」などは世代的にも流行らないですし、あまり届いてないだろうなと思ったりします。

一方で「退職RTA(Real Time Attack)」という言葉も見られます。入社から数えてどれくらい短期で辞めるかというお話だそうです。ラジオでも入社直後退職の話が出ていましたが、入社初日の昼に辞めるというのがよくあるRTAの記録のようです。

今回のメインメッセージは「新卒カードを大切に」ということを具体的な事例を出しながらお話します。新卒カードとは日系企業において「新卒」と呼ばれる人たちが特別待遇されるということを表現した言葉です。既に就職した人には新卒カードを大切に、そして就活生には大切にしたいと思える会社に巡り会えることを願います。

昔から短期離職の人は居る

こうした短期離職とセットで「最近の若者は〜」という論調が聞こえるのですが、これは不適切ではないかと感じています。20年前には既に「1日で辞めた」「3日で辞めた」「満員電車が無理で大学院に進学することを決意した」という方は居られたので、昔から短期離職人材は存在していたと言えます。SNSの台頭によって目立ちやすくなった状況だと捉えています。

厚生労働省の新規学卒者の3年以内離職状況を見ていると全体で見ると右肩上がりで辞めているというわけではありません。情報通信業は製造業と比べても10%近く高いという問題点はありますが、明確に年々増加しているかというとそうでもないです。退職RTAの統計データは恐らくないと思いますが、SNSの台頭に伴い目立ちやすくなった、もしくはその周辺でビジネスをしている人と相まって微増している可能性はあります。

新規大卒就職者の産業分類別(大分類※1)就職後3年以内※2の離職率の推移

新卒と第二新卒は大きく違う

新卒一括採用、終身雇用、年功序列。これらによって構成されるメンバーシップ型雇用が日本では長らく席巻してきました。しかしスキルレベルによってアウトプットに差が出やすいデジタル人材を中心にジョブ型雇用がなし崩し的に始まり、終身雇用と年功序列は大きく揺らいでいます。

しかし新卒一括採用については日本国内においては別です。外資ITについては2022年11月からの不景気により、22新卒であってもレイオフされている方も居られますが、日系企業に関しては新卒は育成対象として保護される傾向にあります。

私も研修設計などを手がけていますが、新卒に関する期待値は将来の幹部候補だったり、コア人材だったりします。そのため社会人マナーから始まり、自社のMVV(Mission Vision Value)浸透、事業理解のための他部署(営業など)研修などを数ヶ月などのスパンで丁寧にやっていきます。

年齢的にたとえ変わらなくても、第二新卒や中途でこうした丁寧な研修を実施している企業はほぼ見ません。教育が必要なジュニア層であっても、戦力化するための技術的な教育機会は提供されても、それ以外のことは基本的にありません。

ある企業では12新卒(2012年入社)、15新卒(2015年入社)などの区分が5年以上経っても残り続けていました。新卒n年目研修なども起こるわけですが、たとえ同い年であってもここに第二新卒は呼ばれませんでした。

私自身はというと博士課程進学の上でしっかりとオーバードクターをやらかして30歳でビジネスへと転身したので新卒と呼ばれる期間は存在せず、未経験転職に近い属性でした。その後新卒も含めて採用に関わるようになり11年経過していますが、正直「新卒カード」は羨ましいです。それ故に大切にして欲しいですし、優位に立ち振る舞って欲しいですね。

短期離職は誇れない

最近は少ないですが、かつて怪文書のような退職エントリが見られた時代がありました。そんな退職エントリの中に、短期離職を前向きに書くようなものもちらほらとありました。関係していた企業でも「僕が4ヶ月で辞めた理由」というポエムが大半を締めた退職エントリを見せられたケースもありました。

短期離職を堂々と語られても、「入社できた」という実績一点でしかプラスに捉えられないのが実情です。別に短期離職をしたことは偉くないですし、誇らしげに報告するものでもないです。

採用する側からすると、採用コストをペイする前に辞められてしまうわけで小さい会社であれば事業リスクとなります。更に退職エントリでポエムを書かれたりすると危険人物のレッテルを貼られるリスクがあります。

キャリアはガチャではない

スカウト媒体を見ていると、半年~1年、たまに2年周期で転職をする方が少なくありません。そのペースで10年転職し続けている方も居られ、過去在籍企業で10社を数える方も居られます。何かしらの不満があったり、良さそうなお誘いがあって動いているものと思われますが、キャリアはガチャではありません。10連ガチャを回しても、基本的には短期離職を繰り返すと企業の質は落ちていきます。訳あり企業からのみ声がかかることもあります。地方だと10社転職したところで、もう応募できるめぼしい転職先がなくなったというケースもありました。

○年で転職するべき、というものもない

1年で辞めるとして、ご本人は1年働いたと思うわけですし、履歴書上は確かに1年なのですが、実際はオンボーディングの期間があってから戦力化するわけです。ITエンジニアだと早くても2週間、概ね3ヶ月、長いと半年くらいオンボーディングにかかる傾向があります。オンボーディングに6ヶ月かかると、1年で退職した場合はバリュー発揮期間は6ヶ月ということになります。採用コストとそのコスト回収のバランスを考えると「事業の収支的に採用しないほうが良かった人材」と思われるリスクがあります。

「では何年いれば転職すれば良いのか?」というご質問も多く頂きます。かつては3年が目安とも言われていました。今は2年で転職する方も居られます。しかしその後のキャリアやスキルレベルを踏まえると、○年と定義するのは不適切だと感じています。スキルレベルについて言うと、中途も新卒も大きくスキルレベルにばらつきがあるため、○年やれば一人前と言い切るのは無理があります。

一つの目安としては何かしらの肩書をもらい、その肩書を活かして1年以上その業務を履行した状態が最低ラインではないかと考えています。肩書はラベルです。テックリードでもマネージャーでも構いませんが、転職を誘う企業や人が声をかけようと思うキッカケの一つがレベル感や視座が伺える肩書です。自分は何屋なのか、何者かになってから動いても遅くはありません。

必ず転職しなければならないものではない。だがしかし。

もちろん転職は必須ではありません。社内政治などで追われたことがある身としては、転職しなくとも不満がないのであれば残留で良いと思います。ただし終身雇用のスタイルをとってきた企業であっても、2018年以降は45歳で希望退職を募るケースがあります。本人が居たいと思っても企業側がそれを許容できないケースは大企業でも見られます。それに備えた強いキャリアを持つ必要があります。

では強いキャリアを一社の中で持つにはどうすれば良いかというと、異動です。キーワードは柔軟性です。ある案件で、各社のCTOのキャリアを調査したことがあるのですが、担当する事業やロール、場合によっては管轄する国を数年おきに変えながら新卒入社後10年でCTOに就任するというパターンがあるようです。

つまり逆に言うと、事業のバリエーションがまったくない自社サービスや、担当プロジェクトが一切変わらないクライアントワークは危うさがあります。ここは企業選びの際に注意してよいポイントだと考えています。

転職のお誘いや転職の奨励は一旦忘れよう

人材紹介がジュニア層の定義を改めつつあり、入社1年が経過した人材を「即戦力」と表現しているという話があります。

人材紹介会社はどこに話を聞いても増収増益の傾向にあるのですが、多くの企業は右肩上がりの成長(売り上げ)を期待されます。売り上げ拡大の一環として、商材である転職対象者を広げたいが故の「即戦力」の拡大ではないかと警戒しています。

経験が浅かった時代の私にも思い当たるところがあります。入った企業が話と違う労働環境であり、キャリアアドバイザの方がかけてきて頂いた電話でその旨を伝えたことがあります。「久松さんのキャリア的に半年は我慢された方が良いと思います。」そのときはどういうことかよく分からず、「そういうものか?」と思って我慢したのですが、やがてそれは「短期離職時に人材紹介会社から紹介先企業に対する返金規定のリミットが半年だった」ことに気づくわけです。その当たりを担当者に問い詰めてみたかったのですが、どうもそのキャリアアドバイザの方も悩んでいたのか、青年海外協力隊に行かれてしまいました。

同じく転職や退職を促す情報商材も存在します。転職を促して提携している人材紹介会社に繋ぐケースもあれば、自身の商材の信者とするために退路を絶たせる目的で退職を促すパターンもあります。

人生に悩んだり、疑問に思ったり、違和感を感じることは数多くあると思いますが、自身が行動を移すことに寄って情報発信者に小銭が入るような仕組みは色々なところにあるため、自身がその行動をとることによって産まれるお金の流れをよく見るようにしましょう。

他人の人生で遊ばないで頂きたいと切実に願います。

就活中の皆さんは入社後ギャップが少ないように情報収集を

心身に不調をきたしたり、明らかに待遇が悪い環境でずっと我慢をする必要はありません。

私もこうしたnoteを発信しているのでブラック企業情報がIT業界に限らず集まります。ブラック企業については新卒を「安価で、何も知らない無垢な労働力」と位置づけていることがあります。最初から徐々に辞めていって2年で0人になることを計算しているんじゃないかと思う企業もあります。

就活に苦労したり、そこまでやる気が出なかったりすると妥協して入社することになるわけですが、情報が溢れる現代社会において、勘ではなく、せめて口コミや評判くらいは検索しましょう。OpenWork、Twitter、GoogleMapあたりを見ておくことをお勧めします。

何かございましたらTwitter DMも開放していますので、お気軽にご相談ください。


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