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フリーランスブームを前に、向いている人を整理する

相変わらずフリーランスが人気です。就活生の皆さんとお話をしていてもフリーランス志望の方に一定数、お会いします。

フリーランスを煽る人たちは非常に多いです。先だってフリーランスの働き方を調査する投稿が流れてきました。タイトルからして「自由な働き方がもたらすメリットとは」とあり、収入が上がった、自分で働き方が調整できるという文章が踊っています。

私もこれまでフリーランス化を奨励しないnoteを投稿してきましたが、ネガティブ記事は手練れの経験者には読まれるものの、若手にはどうも響かない傾向があり、歯がゆく感じています。そこで実際に‘10年以上フリーランスの人たちとお取引をし、自身でも一人企業で業務委託をやっているフリーランスみたいな1年を過ごしてみてのメリットも交えつつ、お話をします。

こんな人にフリーランスは向いている

まず、これまで観察・経験してきた中でフリーランスに向いている人の特徴を挙げます。

無限に働きたい人

見込み残業が80時間ついた上で残業時間が60時間を越えていたり、会社の雰囲気的に権利を行使しにくい残業時間が多い裁量労働制契約であれば、フリーランスになって稼働時間全てを精算できるような体制にした方が、健やかに働けます。私自身、裁量労働制への切り替えを2回ほど経験しましたが、うち1回は深夜残業が月に100時間ほどありましたが、残業代が1,000円代であり、しっかりと退職理由の一つとなりました。サービス残業のような概念がなくなり、精神的に健やかに長時間労働できるようになりました。

当該企業から評価されているが、給与体系から逸脱した人

日系企業で以前から見られるものがこちらです。企業から見てどうしても残留して欲しい高度人材に対し、年功序列をベースにした給与制度では引き留めができないという事象が発生します。そのため、自社給与制度から引き離すために業務委託契約で待遇を分離するというスタイルです。ウェットな正社員契約委からドライな業務委託契約の関係性にはなるものの、商習慣として残っている事実から鑑みても順当な選択肢だと考えています。

早期退職者募集や定年が見えてきた、年齢的にもスキル的にもシニア層

大手日系企業の早期退職のニュースをチェックしていると、判で押したように45歳という年齢のマジックナンバーが見られます。年功序列で給与が上がっている状態に対し、好景気下であれば問題なく在籍し続けられたものの、時代やトレンドの移り変わりも激しく事業貢献制が厳しくなり、「働かないおじさん」「PIP」などと言われながら追い立てられている状態です。

転職市場を見ていても、モダンな開発スキル、及びモダンな開発現場を経験していれば40代は転職が可能です。50代、60代となると積極採用企業は登場しているものの、枠としては40代より少なくなっています。年齢や年代という議論は若い組織であれば「年上に指示がしにくそうだ」という声が挙がりやすく、オフショアや博士人材と同じく各社の中に成功体験がないと受け入れ拡大は厳しいと捉えています。もう少し好景気が続き、採用の間口が拡がった状態であればこうした成功体験を積むことができる企業は多かったと考えます。しかし不景気下ではよりバリュー発揮が手堅い人材にスコープが縛られやすいため、しばし難しいのではないかと予測します。

40代、50代までに自分が何屋かを明確化し、副業なども含めてクライアントワーク・業務委託の経験を積みながら、正社員から業務委託への切り替えにシフトするというのは今後現実的なキャリアの解放として拡がっていくものと考えています。

こんな人にはフリーランスは向いていない

ではフリーランスに向いていない人はどんな人でしょうか。

単一の契約しかない人、受けたくない人

週日、1案件だけ受けて後は好きに過ごす。フリーランスを語る上で一つの理想的なライフスタイルのように語られますが、契約が打ち切られると収入が途絶えるので非常に危ういです。そのため案件の冗長化はお勧めしており、「1案件にしか集中できません」という方には正社員をお勧めしています。

自身で営業力のない人

営業機能を自身で全く持たず、フリーランスのメリットを享受するとなると比較的単価の高いエンジニア職などになります。案件が途絶えないようにスポットでエージェントを利用するのであれば問題は小さいですが、エージェントのみに頼ると厳しいです。

自社の正社員を客先に出さなければならないSES営業に比べ、フリーランスエージェントは待機によるエージェント自身の損失がないため、決まりやすい人が優先されますし、決まりにくい人の優先順位が下がりやすいのは自然の流れです。

複数の気に入ってくれている企業の存在、景気の後押し、当該スキルセットに対する市場価値の一定以上の確保といった内部要因、外部要因、環境要因も含めて自身の味方にしていかないと継続は厳しいです。

バックオフィス業務が嫌いな人

請求書発行、会計登録、税務対応、社会保険対応、年金対応、経費精算、契約書作成、契約書レビュー、契約書締結と、当該専門分野以外に知識と対応が必要な業務は数多く存在します。

先日お話しした話では、ある独立されたサービス業の方で年間2000万円ほど売り上げているものの、仕事の進め方の教材から始まり、マーケティング、バックオフィス業務に至るまでその胴元が引き受けてくれる一方でごっそり手数料が中抜きされ、本人の年収は400万円という話がありました。

知らない領域はスペシャリストに外注するということは聞こえが良いものの、本人に学ぶ気がなさ過ぎると胴元に良いカモにされます。

クライアントワークをやったことがない人

音信不通になる業務委託人材や、副業人材に共通することとして、クライアントワークをやったことがない人というのがあると仮説立てています。

営業経験がなかったり、契約に基づいた線引きができないと案件が拗れやすいです。お客さんから厳しくダメ出しをされたときに戻ってこないケースが非常に多いです。クライアントワークで、特にコロナ禍において複数案件を抱えている場合であれば、59分まで顧客Aに謝り倒した後、00分からWeb会議を繋ぎ直して「初めまして!」と新規顧客Bに挨拶をするような機会もそれなりにあります。この気持ちの切り替えは自社の中で完結しているうちはほぼ身につきません。コンサル、SIer、SESなどをフロントで経験するか、独立してゼロから怒られながら成長するかの2択です。生活の安定を考えると前者が優位なのは言うまでもありません。

頼まれた以上のことをしたいホスピタリティの高い人

先だって「たくさん残業して、業務以外についても改善提案をしているのに契約を切られた」というフリーランスの方が話題でした。業務委託は基本的に契約書に書かれている業務内容で、契約時間内にコミットすることが求められます。そのため、契約書に書かれていない改善提案は求められていませんし、残業時間も予算超過になるので全く喜ばれません。

こうしたホスピタリティの高い行動が望まれるのはメンバーシップ型雇用の正社員です。正社員であれば行動評価としてプラス評価の色がつくでしょう。今からでも正社員転職するべきです。

末端作業のみを受けている人

HTML、CSS修正、文言修正、デザイナー、ライター、動画編集者、マーケター、人事など単価の低い業務委託の多様化が進んでいます。ギグワーク的な要素も大きく、フリーランスというよりフリーターなのではないかというような働き方の方も居られます。「猫の手も借りたい」状態の企業において「猫の手」扱いしている傾向にあり、状況が落ち着くと契約が終了するという点ではそう長くは稼げないポジションです。

加えてAIの進化によりプログラマなどよりも先に職を奪われる脅威にさらされています。例えばSEO記事ライターや、広告バナーデザイナー、スカウト送信代行などは非常に苦しいですね。末端作業ではなく「余人に代えがたい」スペシャリスト要素が必要です。

健康不安、介護、看護、子育てを抱えている人

過去に正社員から業務委託化をする人が10人弱相次いでいた組織がありました。正社員マネージメント目線で非常に良くない空気があったため、是正していったことがあります。その中で一人、新規でフリーランス化を望むメンバー層が居ました。曰く、「何度か計算をしたのですが、手取りが月に5万円ほど高いことが分かったので、お得なので切り替えます」ということでした。単純にExcelの上で計算するとこのような結果となるでしょう。

しかし自身で独立したり、年齢を重ねていき、家族も含めて環境が変わってくると痛感するのが、こうした単純計算の成立は自身と家族の健康が前提だということです。一般的に稼働時間が減ると手取りも減る時給精算型の業務委託では、欠勤や時短は手取りの減少を意味します。稼働時間ベースの生産では祝日でも手取りが減るためゴールデンウィークなどは歓迎しにくいです。

働き方改革が進む現在では、正社員の子育てや介護、看護なども含めて寛容な対応をする企業が増えています。ライフステージの変化を加味した意思決定をしましょう。

FIREがしたい人

太く短く稼ぐのであれば、運の要素も、責任の大きさもありますが、VCからお金を借りて一発当てて、EXITして億単位を儲けた方が「よりFIREらしい」です。手元に残る金額が正社員比較で「やや高い」くらいのレベルでは景気の後退などを踏まえるとFIREからは程遠いです。正社員として残りつつ、福利厚生などを享受したほうが暮らしやすいです。

フリーランスが辞められなくなる背景

先にフリーランスを始めている方々とお話をしていると次のような条件があります。

  • アウトバウンド営業をしなくても、自身が何屋かが認知され、声かけが掛かるようになり案件プールも持っている

  • 2案件以上を抱えており、直ちに契約が打ち切りになっても直ぐには困らない

  • 節税対策をやりすぎて、正社員に戻る際の年収提示が極めて難しい

  • 本人や家族に健康不安などが特にない

逆に言うと上記条件を満たせればフリーランスとしてやっていけます。

なぜフリーランス化を勧誘する人が多いのか

世の中にはフリーランス化を奨励する人が数多く居ますが、その裏側についても言及しておきます。

何かしらの情報商材を売りたい

「未経験からフリーランスになれる方法」「未経験でも案件を取れる方法」というのは数多く世間に存在します。

2018年に遡ると、大手プログラミングスクールを中心に「未経験からでもITエンジニアになれる」「ITエンジニアになればいつでもどこでも働ける」「ITエンジニアになれば現年収+100万円」などと誇大広告が流れました。この際出てきた話がスクールによる提携企業への「転職保証」です。転職保証を達成するためには毎週企業への20エントリーが必須だったり、転職保証先の派遣会社では年収230万円スタートだったり、入社後の適性検査で総務や家電量販店、携帯販売ショップ配属だったりしたわけです。

時が流れ、このあたりの背景がバレ初めると「転職保証」から「未経験からフリーランスになれる」というものになりました。内定が必要な転職に対し、開業届を出せばなれるフリーランスは無責任に奨励しても嘘ではなく、問題にもなりにくいという背景があります。

発信者が取ってきた仕事を中抜きして再委託したい

Twitterで「仕事を振ったフリーランスが飛んだ」と文句を言っている人は概ねこの営業だけやっているパターンです。契約を取り付け、他のフリーランスに振る(再委託する)というものです。上場していたり、上場準備をしている企業であれば契約の中に再委託禁止条項が含まれることが多いため、発注者がそういうことを意識しないような案件か、契約書を無視した案件であり、総じて契約の質としては低い傾向にあります。

マージンの相場は大手エージェントの場合は15-20%が相場です。個人の場合はどうでしょうか。受注者と再委託先の間には契約書がない状態もあるようで、実に危ういことをしているなと思うばかりです。SESの多重請負構造の方が、契約書があるぶん、マシです。

案件が続く限りマージンを受け取りたい

人材紹介会社などがフリーランスエージェントも並行で始めるケースがここ数年散見されます。人材紹介はお金の流れ的に入社後に一回だけ売り上げが上がるタイプのものになります。大きな金額が動く一方で、ボーナス時期など転職のシーズンにも左右されるため、売り上げがあっても常に売り上げの波が気になります。そこへ来てフリーランスエージェントを持つと紹介した人の稼働が続く限りは毎月マージンを乗せ続けられるため、これはこれで好まれる傾向にあります。

一方の契約企業からすると正社員を出してくるSESと違ってフリーランスと言うこともあり、再委託なので歓迎もしにくく、介在価値を出してくるエージェントも少ないため、煙たく思われやすい傾向にあります。

フリーランスは夜職デスクワーク説

フリーランスを形容する際の言葉として、「夜職ではないか」という話がTwitterでありました。単価は高く見えるので辞めにくいものの、時給精算だったり契約も有期のため不安定だという示唆があります。

90年代のフリーター、2000年代の派遣、2010年代のフリーランスと近年登場した「新しい働き方」は、その周辺で人材流通に挟まることでエージェントとしてはビジネスチャンスとなります。それは都度、業界を作り上げてきました。新しい業界ができる度に盛り上げるべく様々なマーケティング手法を駆使して「従来に比べてイケている働き方」がアプローチされます。しかしごく一握りを除いて、広告宣伝されるほどの儲かり方はしません。そしてこの3つの働き方の裏には常に「自己責任」という側面が存在してきたことを忘れてはならないでしょう。

私はアカデミックからビジネスに転身してきましたが、伝統的にアカデミックでは有期雇用から始まります。そしてあまたの競争を経て40代、50代で要件を満たした時に初めて無期雇用の道筋が見える世界です。私もその中で生き残れなかった一人です。こうした一人として、正社員という無期雇用の道筋があるにも関わらず、目先のやや高いだけの手取りを理由に好き好んで選択していくのは非常に短絡的ではないかと思うばかりです。どの情報を信じるのも自由ですが、ほとんどの場合、発信した情報についておおよそ責任など持っていないことには注意が必要でしょう。


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