見出し画像

ITエンジニアと年齢の壁:50代、60代ITエンジニアの転職の萌芽

35歳ITエンジニア定年説は2000年代中盤に言われていたものですが、それは既に過去のものになりました。2022年現在では40代での転職は問題なくできる企業が増えています。2010年代はまだ「年齢は35歳以下まで、転職回数は次で3回まで、一社当たり在籍年数は1年以上」という隠れ要件を持っていた企業が多かったのですが、人手不足やスキル要件の高まりによりここ数年で大幅に緩和されました。

2010年代中盤、まだ世間を席巻していた35歳ITエンジニア定年説を信じ、「これを最後の転職だと思って来ました」と語るミドルには当時の職場で何名かお会いしました。しかし2022年に振り返るとその全員が40歳を越えて新天地に転職しました。

候補者目線で言うと、現在も尚30代以下に拘っている企業は、年齢ベースの偏見が強いと思って良いでしょうし、無理に入ったとしてツラい思いをすることが予想されるため、「先に変な会社に入らなくて良かった」と安堵するくらいの感覚で良いでしょう。

今回のお話は50代、そして60代の転職事情について見えてきたことについてお話しします。予め断っておきますが、「この年齢でもITエンジニアになれる」というお話では無く「経験者の道が開かれた」というお話なのでご注意ください。

有料設定していますが、最後まで無料でお読みいただけます。もしよければ投げ銭感覚で応援をお願い致します。

50代マネージャー以上の転職

私のお取引先の中でも50代採用に前向きな企業さんが出てきました。マネージャー層やコンサルタントを中心に募集されており、何かしらの強みがあることが求められます。整理すると下記のような人物要件になります。このポジションは高年収ポジションもあるため、要件としてはかなり高いです。

  • 専門性が高い

  • 資格や経験がしっかりとしている

  • 批判だけではなく現状打破の提案がある

  • (チーム体制によっては)手が動く、スキルや知識の現役感

  • 物腰柔らかで頼みやすい

3番目については「評論家は要らない」という形で言われることが多々あるのですが、もう一段踏み込んだ表現をしておきます。これまでの経験を活かして欲しいという上で、状況の把握や報告は欲しいので評論要素はあるのですが、これらの現場で懸念されるのは「できない理由を並べて提案がない」という状態です。そのため50代での転職に向けての準備として「何か質問や相談を受けた際の前向きな回答内容と、その後の振る舞い」が大切になって来ます。現在30代、40代の方も意識して生きられると良いかと思います。

インフラ、セキュリティ、情シスのように幅広い知見があると優位なポジションでは年輪がモノを言う傾向にあります。知見と手が動くことの2つがあると歓迎される傾向にあります。

2020年の60代採用

2020年の段階ではまだ、60代を中途採用をするとニュースで特集がなされていました。しかし内訳を見ているとこれまでの経歴が輝かしく、元自衛隊、外資系人事などがインタビューに答えていました。シニア採用の取っ掛かりではあるものの、市井からは遠い印象でした。

2022年 50代、60代採用の萌芽

2022年現在、50代、60代採用に積極的な会社さんともお話をさせて頂くと、まずコンサル、PjM、世間的にレアなスキルなどの募集について年齢不問となる動きがあります。世間的に母集団が少ないところから上限解放されていくのは間違いないでしょう。

その一方で、従来20代に期待していたメンバー層の働きを50代、60代にも等しく期待しているという姿勢がある企業さんが登場しています。

同時に定年の拡大や嘱託社員の待遇向上などの検討も始まっています。こうした動きを取り巻く背景についてお話ししていきます。

体力的な問題はリモートワークが解決

特に60代の採用をしている会社さんとお話をしていると出てくるのが、「当初、健康や体力面でどんなものか心配だった」という声です。「最近の60代は元気だ」というぼんやりした印象ベースの話がある一方で、リモートワークの浸透によりデスクワークにおいてもっとも重労働である「満員電車による通勤」が無くなったことにより、働くことができる人が増えたという声もあります。

リモートワークを巡るディスカッションはまだまだ過渡期ですが、制度として取り入れることによって働くことができる人の母集団が増えるというのは確実でしょう。

若手の短期離職、年収交渉に疲れる企業

近年ITエンジニアの給与が転職を通じて大幅に増加傾向にあります。エンジニア目線では良いことですが、インフレに近い状況になっています。そんな中、「転職時の給与交渉術」も横行していることから「この経験でその年収なの?」と訝る経営者が増加しつつあります。各エンジニアが自身の給与を販管費等込みで上回る貢献ができれば問題にはなりませんが、この均衡が揺らいでいる企業は少なくありません。

また、2年以内に辞めるというのも一般化してきているのも経営的には悩ましいポイントです。入社時と経営方針が変わった上で短期離職が相次ぐのは問題外ですが。

60代採用の話題で非常に興味深かったのが「自社の定年制に対して残り3年と迫っている方でも採用している。1-2年で辞める若手と比べると、定年まで残ってくれる可能性がより確からしいから。」というものです。

エンジニアにお金を出さないという話ではなく、自社の給与水準以上に強気で交渉し、短期で辞める若手に疲れているという印象がありました。

年上に対する偏見はどこから来るのか?

日本のビジネス界隈、特に採用シーンにおける年齢の線引き習慣というのは何なのでしょうか。ダイバーシティを謳う組織でも何故か年齢はシビアだったりしますし、そこには「50代は○○」「60代は○○」と、厳つい偏見が横たわっています。こうなってしまった背景にはいくつか複数の要素があるのではないかと考えています。ITエンジニア界隈で実際に見てきたものをまとめます。

パワハラ、テクハラの苦い経験

過去の所属企業・団体でパワハラを受けたパターンです。50代、60代の採用の話が来た瞬間に荒ぶります。先のTwitter投稿でも確認されました。何というか、心の傷が癒えると良いですね。

イノベーションを起こすための破壊対象としての年長者

一つはイノベーションほど仰々しいものでなくても旧体制 vs 新体制の構図の事業展開をしてきた企業の場合、年齢層が経営層より高い人たちを「破壊対象」として据える傾向があるというものです。

現在の60代の人たちが30代だった頃、インターネットのインフラ界隈で活躍していた際に言っていた言葉の一つが「Don't Trust over 40」でした。時を重ね、彼らが40代に差し掛かると「Don't Trust over 50」になり、50代に差し掛かると「Don't Trust over 60」になり、60代に差し掛かったところで何も言わなくなりました。

インターネットの黎明期は特に従来の法制度との戦いだったこともあり、旧体制 vs 新体制のような構図化がしやすいという側面がありました。その線引きとして最前線の人たちの年齢が基準となっていたと捉えています。

制御しやすい組織、団体を考えた場合に年上を避ける

企業という組織について期待する機能として、特定の目的を達成するというミッション・ビジョンや事業的なものの達成はもちろんあります。

その一方で時折見られるものとして「理想の組織作りを目指す」というものがあります。軍隊的なトップダウン型もあれば、DAOのようなフラット組織を目指しているところもあります。そしていずれの型であっても異分子を拒む傾向にあり、その異分子の足きりとして年齢が存在しているようです。

50代、60代転職の拡大は、企業側の成功体験がカギ

冒頭のTwitter投稿でも、賛同や歓迎の声がある一方で、頭ごなしに「使えない」と殴りかかってくる若い世代も居ます。こうした年齢をベースに切ってしまうのは大筋で無意識バイアスに起因するものです。50代、60代で且つ現役感がある人とと働いたという成功体験があれば、暖かいコメントを残して頂く傾向にあります。

40代以下の人は今から50代、60代の働き方を明るくしておく必要がある

未来予測というのは数ありますが、自分が年齢を重ねた際に見える世界というのは想像し切れていないことが多いです。

現在、私は40歳なのですが実際に40代に突入してみると「おっさん」に対する世間の冷たさを感じます。女性の場合は厳しい言動の対象となるとダイバーシティや性差別に関連して擁護の動きがあるのですが、どうにもおっさんについては養護されずにサンドバッグ状態になりやすく、実に厳しいです。

個人的に50代、60代採用を活発化したいという会社さんに関わっている理由としては、どうせ我々も年を取ってその年代になるので、今のうちから明るくしておきたいという一念です。40代以下のかたに関しましては、自分達の将来のために50代、60代の活路を作っておきましょう。それがやがて自分たちが通る道になります。

noteやTwitterには書けないことや個別相談、質問回答などを週一のウェビナーとテキストで展開しています。経験者エンジニア、人材紹介、人事の方などにご参加いただいています。参加者の属性としてはかなり珍しいコミュニティだと思っています。ウェビナーアーカイブの限定公開なども実施しています。

執筆の励みになりますので、記事を気に入って頂けましたらAmazonウィッシュリストをクリックして頂ければ幸いです。

頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!