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テクハラと教育・指導の境目/「ミドルが怖い」若者とクイズおじさん

 テクハラ。テクノロジー・ハラスメントの略称だそうです。世間的な定義によると「IT知識が高い人の不遜な態度や、意図的に専門用語で話し続ける行為」だそうです。普段であれば〇〇ハラスメントの類は(また出たよ)くらいで流すのですが、テクハラに関しては退職・退場を防げなかった経験があり、向き合わなければならないハラスメントだと感じています。その一つが今回取り上げる「クイズおじさん」です。

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テクハラの分類とクイズおじさん

 先立ってTwitterでこういうやり取りをしていました。

 テクハラを肯定する人たちというのは善意でやっている可能性が高いです。一つは技術更新を願う善意が裏目に出たものであり、もう一つは若手教育や指導の一環だと信じているものです。

 テクハラと一言で言っても、その実情は層によって性質が異なるものと考えます。大別すると下記のようなイメージになるのではと考えます。

テクハラ

テクハラの分類1:アーリーアダプター

 先の日経の記事にあるような「先輩、会議用のZoom設定くらい1人でできないんですか。こんな簡単な操作で手間取って、よくこれまで仕事してきましたね」とか、デジタルネイティブ時代の新入社員(部下)によるハラスメントはこれに分類されるでしょう。他人より先んじて利用者として詳しくなっている状態。

 先に知っているから偉い、先に使いこなせるから偉い。そんなマインドが根底にあるものでITに限らず発生しやすいハラスメントと言えます。本当に偉いのはそれを作った人であり、自分は一利用者だと思えばいくらか謙虚になれるのでオススメです。

テクハラの分類2:荒んだ情シス

 情シス、特にヘルプデスク業務が絡んでくるとかなりストレスフルです。私も情シス部長や傘下に情シス部門を抱えていたことがあるので頂いた暴言集はそれなりにあるのですが、時にそれを拗らせてしまうと「PCが壊れたんだけど」「動かないんだけど」と相談に来た相手に噛み付いてしまう方が多々居られます。気持ちは分からなくはないのですが、社内での役割が違うので線引をする必要があります。仮に相談者のリテラシーが高ければ自己解決してしまうのでポジション自体追われる可能性もありますしね。

 テクハラをしてしまう火種はギスギスとした社内環境によるストレスだったりするわけですが、大筋で当該技術課題を理解できていない相手に対してマウントを取ってしまうという意味合いでは、先のアーリーアダプターに近い区分だと思います。

 ただかつての情シス部長としては、情シスも色々大変なので優しくして上げてくださいと切に願います。

テクハラの分類3:クイズおじさん

 さて、本題のクイズおじさんです。教育や指導の一貫だと信じてクイズを出してきます。

 よくあるパターンとして、突然理解度チェックのクイズが始まります。普通に会話をしているなと思ったら突如「さて、ここで問題です」と出題してきます。そこで関連技術や基本となる技術などについて問われます。多くの場合、出題された側は知らない、もしくは面食らって答えられません。そうなると「なんだそんなことも知らないのか」と説教めいた解説が始まる。出題した本人にとっては若手の教育や指導の一環でテクハラをしてしまう。これをクイズおじさんと呼んでいます。

「クイズが辛いんです」クイズおじさん理由で発生する退職・退場

 00年代、インターネット基盤技術の研究団体に居ましたが、クイズおじさんに溢れていました。学生の身分だったので甘んじて受け入れていましたが、メンタルが削られて辞めていく人も少なくありませんでした。学術からビジネスに移り、クイズおじさんと再び対峙することになるとは思ってもいませんでした。

「クイズが辛いんです」

 字面にすると変なのですが、過去に数件、泣きながら若手に相談されたことがあります。正社員だったり、業務委託のフリーランスだったりと様々な立場の方から相談を受けました。後述しますが解決できた場合もあれば、残念ながらクイズおじさん起因で退場されてしまった方も居られます。力及ばず申し訳なく思うばかりです。

クイズおじさんがテクハラ化する条件

 技術力のある先人から指導を受け、成長する。これ自体は何の問題もありません。若手の企業選びにも「技術力を伸ばしたい」というのは沢山見ます。中間管理職としても知識の伝達や技術力の底上げはありがたいものです。問題は伝え方でしょう。私が見聞してきたクイズおじさんがテクハラに発展する条件を見ていきます。

 集団の前で対象者の無知を挙げる行為。他の社員が居る前でクイズを出し、知らないと晒し上げる。出題された当人は「こんなところで言わなくて良いではないか」と辱めを受けます。出題されて詰まった側は公開処刑のように捉えられてしまいます。

 同様に打ち合わせの途中でのクイズも言語道断です。ミーティングの流れを止めてクイズが出されます。複数名の時間を同時に浪費しますし、晒し上げに対して「次に当てられるのは自分かも知れない」と嫌な空気になります。障害についての打ち合わせや反省会で出題するクイズおじさんも居られますが、公開処刑の色が強くなります。

クイズおじさんが陥りがちな「去るもの追わず」の思想

 クイズおじさんの言い分を聞くと、「これくらいでへこたれるようじゃ駄目だ」と厳し目のコメントが返ってきます。

 クイズおじさんが育った2010年代前半以前は人がたくさん居ました。当時は少子化が問題になるとは囁かれていても、まだ実感としては今ほど如実に感じるものではなかったように思います。特に2000年代前半のIT業界、2012年頃のWEB業界は軽いバブルの影響で人が多く集まっていました。ITエンジニアを採用する企業もIT業界のみで、他業種のIT人材採用はもっと控え目でした。今のような華やかな職種イメージのブランディングはなく、長時間労働の現場も一般的でした。

「来る者拒まず、去るもの追わず」

 かつてのIT業界はこの状態でした。人が去っても多少のインパクトはありますが採用は今より簡単だったので穴埋めはできていました。採用チャンネルは媒体や紹介会社中心でしたが今より手数料は低かったですし、買い手市場だったのである程度は選別することもできました。

「去るもの追わず」は「来る者」が潤沢で初めて成立します。採用難の今では明確にナンセンスな接し方です。去ったら次は居ないのですから。

テクハラにならない範囲で指導する

 場所に限らずクイズに答えられなかった場合、無知をなじるような行為は心を折りがちです。IT化が激しく進む社会にあって求められる知識量は年々増えていますし、知識のアップデート対象も非常に多いです。「これについて調べると良いよ」くらいが落とし所として良いでしょう。あるいは見解を求められたら答える。テクハラにならない落としどころだと考えています。

 厳しく言わないと行けなくなるような指摘や指導は1:1が原則。チャットの場合はDM。リモート会議システムで伝える場合は画面オン。このあたりは必須条件だと考えています。

クイズおじさんを対策した事例

 クイズおじさんの対策は非常に難しいです。多くの場合、シニアとジュニアが対峙しているので如何にソフトランディングさせられるかという話になります。どちらに辞められても困りますし、両方辞められるのが最悪のパターンです。

 過去にまとめられた例を最後に紹介しておきます。

 まず、対象者(被出題者)からのヒアリングを1:1でしました。一旦、いかに辛いかを吐露して貰いました。吐露することでいくらか本人が整理できるという効果もあります。

 次に当人とクイズおじさんと私で3者面談を組みました。そこで当人に「いかにクイズが嫌だったか」を吐露してもらいました。クイズおじさんからも出題の意図などを話してもらう。その上で「教育という点では感謝していますが、クイズは控えて頂けませんか」という形で和解に向かわせることができました。狭い社内ですし、お互いに距離ができるとどちらかが辞めてしまいます。あくまでも解決の一例ですが、参考になればと思います。

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