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ごめんなぁ、、貧しくて

夜21時、最近再就職した父とカラオケへ出かけた。
父はいつも帰宅するとすぐにお酒を飲み始める。
そのため私を誘ってきた時にはすでに出来上がっていた。

父は寡黙な人である。
今まではそう思っていたが、そうでもないみたいだ。

父と私は不仲ではないが仲良くもない。
帰省しても特に話さないし、私の近況は母から聞いているのだろう。

その日はたまたま母が出かけており、家に二人の状況で、晩御飯はなかった。

「カラオケに行こう」

私は乗り気じゃなく、お金の心配もしていたが、酔った勢いも相まって珍しく強引だったためとりあえずいくことにした。


父は私が昭和の歌を歌うことに驚き、嬉しそうだった。
そして父は意外と、というか普通に歌が上手いみたいだった。

「この歌に母さんは惚れたんだ」
「ふーん」

そんな話しないでよと思いながら適当に流した。


帰り道、私も上機嫌になり、初めて大学の話をした。
父の大学時代の専攻と今の私の専攻は同じで、ちゃんと親子なんだと思う。

父は自分の後悔から安定した職が一番だよと言う。
けれども私はやりがいが一番だ。

相容れないが、私の気持ちもわかるのだろう。
きっと父もそうだったから。

しかし現実はお金という壁が立ちはだかって、思うように動けない。
だけどまだまだ勉強がしたい。

正直息詰まっていて、愚痴をこぼすようにベラベラと話した。
大学3年生にもなると友人との間で進路の話が増えてきて、夢と現実の行ったり来たりを繰り返し、少し疲れていたのもあった。

「そうか、よくわからんけど、、そうか、」

と父は言った。そして、


「ごめんなぁ貧しくて」
小さい声でそう呟いた。



いつもはドンと構えていて、大黒柱という感じの父が見せた情けない表情に、私は驚き、やってしまったと思った。
その言葉を言わせてしまった後悔で胸がいっぱいになった。


違うんだよ、父さん。
私は、、

親から謝られるなんて、そんな経験、したくなかった。
少し気まずさを覚えながらも楽しかった親娘初めてのカラオケ。
喉はガラガラでいい感じの疲れを感じながらの帰路。
いつもならしない会話。

父を横目に見た時、初めてこの人が小さく見えた。

頑張れよ
人生どうにかなる
好きなことをしなさい

そう言って欲しかっただけだった。

けれど親の状況を考えるとそんなことが簡単にいえるほどの余裕がないことは明白だった。

夢や、やりたいことを楽しそうに話す娘に何を思ったのだろう。
あの言葉は何を意味していたのだろう。
助けることができない、そんな親心から出た言葉だろうか。


けれど残念ながら私はあなたに似て、頑固者でしつこい。


「まぁ、諦めないし、どうにかするから大丈夫」

そう言ったと同時に家に着いた。
近頃壊れかけてきたドアノブを回し、ただいまと言う。
母がキッチンに立っていておかえりと返す。

本当はいろんな感情が溢れ出て、いっぱいいっぱいで、
泣きたいのをグッと我慢しながら何事もなかったかのように振る舞う。


私は頑張らなきゃと覚悟を決め、いつも通りの日常へと戻った。









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