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Pアイランド顛末記

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かつて東京湾に浮かんでいた間抜けな島Pアイランド。島の住人の奇妙な日常を描いたSF小説。
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記事一覧

Pアイランド顛末記#1

★序 刺がやたらに生えた人工皮革のジャンパーを夕日にてからせながら、デブは額の油玉のような汗をまるまっちい手でぬぐった。
 音をたてて大きく息を吸い込むと、でかい屁を3つした。一番勢いよく出た3つめの屁は、びりびりと粘着性の音がした。
 デブはわずかに股を開くようにすると、尻をそっと押さえて呟いた。


「やべぇ」

 どこからともなく痩せた野良犬が走ってきて、しきりにデブの尻を嗅いだ。

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Pアイランド顛末記#2

★一通目の遺書
 どこか風通しのいい、涼しい場所にいきたいわ。みなさんさようなら。
         (歌姫・イオ)

Pアイランド顛末記#3

★Pアイランド
 霧にけむる東京湾。1989年ごろ。
 その沖合いにくろぐろと浮かぶ人工の島があった。通称ペニスアイランド、またはPアイランドという。もうすこしマシな正式名称もあるにはあったがもう誰もおぼえてはいないし、落ちこぼれと死にぞこないの島、ペニスと言えば、誰でもが、ははあーんとごみための様なその島の風景を思い描く。
 当初は大手百貨店系列の画期的なアミューズメント島として建設されたが、パ

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Pアイランド顛末記#4

★大東京通り ヒロシは大東京通りをあるいていた。夏の太陽光がショッピングモールのガラス天井を突き刺し、モーターじかけでゆらゆらと動くイミテーションの木の葉のすきまをかいくぐってヒロシの瞳を直撃した。ヒロシは目を細めてくしゃみをした。
 通りの飲食店は暑さに恐れをなしてピタリとシャッターを閉じ、人影もない。

 キショー!今年の暑さは異常だぜ!これじゃ、脳味噌も目玉も金玉もとろけちまう!

 アスフ

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Pアイランド顛末記#5

★金太郎
 半開きになったフランス窓。古風な扇風機が微かな音をたてて回っている。窓から吹きこむ風が夕方の匂いをはこんできた。
 風が二人の女の髪の毛をゆらす。
 ここは大東京通りの一角にあるパンクショップ「NIPPON」の二階。この店を経営する金太郎1号と2号が住んでいる。鼻のもげたマネキン人形や種々雑多なパンクファッションのパーツが二人の横たわるダブルベッドを囲んでいる。
 二人はお揃いのオカッ

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Pアイランド顛末記#6

★さとしの日記 8月1日(晴れ)
 僕とTがこの島に来てちょうど1年。エレクトリックスークの仕事にもずいぶん慣れた。今日は、ドライエルで1周年の祝杯をあげた。Tは少し風邪ぎみ。京都科学から小頭症の骨格模型が届く。ちょっと値が張ったけど、満足。それと、今日、脳波視覚化のクラシックなプログラムを手に入れた。リンゴ印のパソコンで動くやつ。

Pアイランド顛末記#7

★猫肉ハンバーガー ハンバーガーショップは混み合っていた。看板にはサイケな字体で「猫肉ハンバーガー・ニャ~!」の文字。ハンバーガーに使われている肉が本物の猫であることをアピールするために、店先には猫の頭がまるでイナカの干し柿の様な風情でぶらさげられていた。
 イオは黒い子猫の頭をツンとつつき、ニコリと呟いた。

「こいつ、可愛い!」

 おそろいの黒眼鏡をかけたヒロシとイオはハンバーガーとビールを

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Pアイランド顛末記#8

★さとしの日記 8月10日(くもり)イオちゃんのライブに行った。少し遅れたけど、やはりイオちゃんはかわいい。いいライブだった。Tの電飾ファンデーションはちょっと派手すぎる。僕はもうすこしシックなのが好み。小頭症骨格模型、ほぼ組みたて終わる。出来上がったらバスルームに飾ることにしよう。

Pアイランド顛末記#9

★NIPPON パンクショップNIPPON。
 店頭にはすすけた日の丸が飾られ、店内はサイケな極彩色で埋め尽くされている。

「おい、ねえちゃん、もっとグッとくるやつねえかな。グッっとくるやつ。」

 しきりに試着していた田中那衛顔のじいさんが金太郎1号を呼びつけた。
 金太郎1号はコミックから眼をはなし、じいさんをみあげた。彼女の眼のなかに残っているバットマンの残像とじいさんの姿がかさなりあって

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Pアイランド顛末記#10

★ゲン 俺の名前はゲン。超能力使いだ。まあ、たいしたことないけどね。退屈しのぎっていうか、金にもなるし。この島に渡ってくる前はさ、スプーン曲げたりビルの窓ガラス割ったりしてたんだけど、すぐ飽きちゃってさ。でもヤクザと組んでヤバイことやったりして、けっこう、はぶりはよかったよ。
 この島に渡ってきて、ドライエルって店のボーイからヒロシのこと、きいたんだ。バンドやりたがってるやつがいるってね。そんで話

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Pアイランド顛末記#11

★ジュンちゃんマキちゃん

 ジュンちゃんは、キラキラ、キラキラ、純愛タイプ。マキちゃんは、ジュンちゃんにいわせると、世界でいちばん逞しいオ・ト・コ。ふたりは年季の入った男性カップル。大東京通りの裏通りにあるゲイバー「デュポン」で知り合い、愛し合うようになった。

「あたし、ジュンちゃん。純愛がすき。あたしね、地球人じゃないのよ、悪いけど。生まれてすぐこの星に落ちてきて、退屈な人生を送ってきたわ。

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Pアイランド顛末記#12

★リカちゃん はい、あたしはね、リカちゃんですよ。今年で70才。まあ、女盛りっていうんですかね。恋多き女。若いころはね、いろいろやってました。コピーライターとか、AVギャルっつって、ビデオでオッパイとか股の間とか見せる仕事もね。たのしかったわん。せくしーあいどる、リ・カ・ちゃ・ん!若いっていいわよね。なんでもできて…。あら、まあまあ、おみやげまでちょうだいしちゃって。ごていねいにどうも…。それでね

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Pアイランド顛末記#13

★ビリー ビリーって呼んでくれ。こうみえても昔はワルだったんだぜ。グエッグエッペッ。単車乗り回してさっ。もう68だがね。腕はにぶっちゃいねえぜ。グエッゲゲゲグエエエッ。この島渡ってきてからもたいへんなもんよ。わけえ奴らときたら、俺の顔見ただけでビビっちまってよ。グエッグエッグヘグヘグエグエグエッペッ。きしょうイ!また血イ吐いちまった。

Pアイランド顛末記#14

★狐 狐と言う名前の男がいた。Pアイランドが廃虚になったごく初期のころ島に渡ってきて住みついた男だ。ひょろりと背が高くて異様に肩幅がひろかった。幅広い肩の上に後頭部が突き出た大きな頭がのっかっていた。もとは中学の技術家庭の教師だった。
 彼は並はずれた変質者で、特に5才以下の男の子が、その好みの中心だった。
 狐は、ヘリポートに近い人工松の林のなかに住んでいた。どこからか拾ってもってきた三畳ほどの

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