Pアイランド顛末記#14

★狐

 狐と言う名前の男がいた。Pアイランドが廃虚になったごく初期のころ島に渡ってきて住みついた男だ。ひょろりと背が高くて異様に肩幅がひろかった。幅広い肩の上に後頭部が突き出た大きな頭がのっかっていた。もとは中学の技術家庭の教師だった。
 彼は並はずれた変質者で、特に5才以下の男の子が、その好みの中心だった。
 狐は、ヘリポートに近い人工松の林のなかに住んでいた。どこからか拾ってもってきた三畳ほどの稼働式の倉庫をすみかにしていた。

 明け方、盗んだ自転車に乗って大東京通りまで出かけてごみをあさって食いつないでいた。

 狐の一番大切なものは、スクリューつきのゴムボートだった。これも盗んだものだ。月に一度、第3金曜日がくると、狐はこのボートに乗って東京湾の岸辺にでかけた。どんな手口を使うのか、好みの男の子をさらってきては、ゴムボートにのせて島の人工松林へと運んだ。男の子をさらうことにかけては狐は天才で、一度もしくじったことはなかった。
 狐は首尾よく獲物をさらってくると自分のすみかへ運び入れた。そんな日、狐の眼はぎらぎらと輝き、上機嫌にひとつおぼえの「マイウエイ」をくりかえし歌った。たいていはボートをおりるまでに子供は締め殺すか、刺し殺していた。ボートを降り、子供の死体をひきずってすみかに運びいれたあと、子供の後頭部に穴をあけて、自作の詩を書きつけた紙を頭蓋骨のなかに押し込み、浜辺の砂に埋めていた。

 狐は、島に住みついて一年目に、大東京通りの自由の女神から飛び降りて死んだ。50才だった。

 [江東区、松岡雄一君の頭蓋骨の中にあった詩]

  かさり、ことりと、音がする

  でもふりかえったらおしまいだ

  耳の奥で、鐘がなる

  青空

  大きな「れ」の字に雲が涌いた

  耳の奥で、鐘がふたつキンコン

  とても、みなさん、いいかたばかりです



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