Pアイランド顛末記#1
★序
刺がやたらに生えた人工皮革のジャンパーを夕日にてからせながら、デブは額の油玉のような汗をまるまっちい手でぬぐった。
音をたてて大きく息を吸い込むと、でかい屁を3つした。一番勢いよく出た3つめの屁は、びりびりと粘着性の音がした。
デブはわずかに股を開くようにすると、尻をそっと押さえて呟いた。
「やべぇ」
どこからともなく痩せた野良犬が走ってきて、しきりにデブの尻を嗅いだ。
野良犬の体から埃が舞って、沈みかけた夕日に光り、金色の霧のようになった。
(Pアイランドのホテル「ブルーオーシャン」廃虚の庭で見た光景)
※※※※※
これから記すのは、前世紀の終わり、1990年ごろ、謎の爆発により東京湾の沖合に沈没した人工の島の物語である。
島の残骸は、その後引き上げられることもなく、今でも海溝の中途でひっかかったまま、深海ザメの巣になっている。一万人ほどの住民が犠牲になったはずだが、だれも話題にしようとはしない。かえってせいせいした、という論調が主流である。
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