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【アジア横断バックパッカー】#61 11ヵ国目:トルコ-イスタンブール ついにイスタンブールに到着する

 バスには運転手のほかに乗務員としてグルティという男性が乗っていた。グルティは時々カートを押しながら水やチャイ、コーヒーを配り歩いた。アジア人が僕だけだったからだろう、何かと声をかけてくれたが、1回だけグルティと妙なトラブルに巻き込まれた。 

 バスで一夜を明かし、そろそろイスタンブールという時だった。朝食を兼ねた長めの停車時、グルティに煙草を買ってきてくれと頼まれた。後で払ってくれるのだろうと思い、買ってきてグルティに渡したが、ありがとうと言うばかりでお金を払ってくれない。
「お金は?」
 僕がそう尋ねるとグルティは顔色を変え、何事かまくしたてた。なにが起きているのか分からなかったが、気分を害してしまったらしい。煙草代は諦めることにした。
 だが例の隣のおっちゃんとチャイを飲んでいると、グルティがやってきて僕にお金を払ってくれた。どうやら煙草は売店に返したらしい。一件落着だったが、もしかしたらトルコ流のマナーか何かを破ったかもしれないと思うとすっきりしなかった。ただタカられただけかもしれなかったが。
 どっちにしろ、イスタンブールを目の前に晴れやかな気持ちで行かせてくれと、トラブルがないことを祈るばかりだった。

 道路標識に「Istanbul」の文字が現れ始めた。僕は窓から街並みを見た。バスは海沿いの道を走っていた。斜めにせり出した街の中にモスクが見える。いよいよイスタンブールが近づいてきたのだ。雲が厚く雨が降っていたが、僕の気持ちは晴れやかだった。

 海沿いを過ぎるとビルが並ぶ都市部に入っていった。バスが具体的にどのあたりに着くのか知らなかったし、宿もとっていなかった。なんにも調べていないのだ。とりあえずバスターミナルに着いてから考えようと思っていた。
 11時ごろ、バスがターミナルに到着した。予想に反して、新しくもなければきれいでもないターミナルだった。僕はタブリーズのターミナルのような、綺麗で大きなものを想像していた。
 バスを降り、荷物を背負う。さて、どこに行けばいいのか…。適当に建物に入ってみた。2階建てで食堂や売店が並んでいた。ターミナルというより手狭なショッピングモールのような雰囲気があった。

 街中まではメトロ、地下鉄があるのは知っていた。また、テヘランの情報ノートにあったイスタンブールの宿の場所もメモしてきていた。だがその宿が大体街のどのへんなのか、ブルーモスクのような観光地とどういう位置関係にあるのか、その辺はさっぱりわからなかった。

 とりあえずスマートフォンの地図に宿の場所を表示させ、インフォメーションの係官に見せてみると、あっち行ってメトロに乗れ、と言われた。やはりメトロだ。ATMでお金を下ろし、言われた方へと向かうとちゃんとメトロ乗り場があった。券売機があり、壁には路線図が貼ってある。
 僕は路線図に目を凝らした。スマートフォンのマップによると、宿の最寄駅は「Sirkeci Marmary」駅だったが、路線図には「Sirkeci」駅しかない。
 2つは違う駅なのだろうか。僕はしばらく考え、「Marmary」とは路線か何かの名称ではないかと思った。「JR東京駅」と「東京メトロ丸の内線東京駅」のように。もしそうなら2つは同じ駅のはずだ。よし「Sirkeci」駅まで行ってみよう。

 自動券売機の前に立つ。タッチパネル式ではなく物理ボタン式だった。言語表示にはかなりたくさんの言語が並んでいた。日本語もちゃんとある。さすが観光都市である。脇にスタッフがいて、買い方を教えてくれた。
 チケットかプラスチックのトークンが出てくると思ったのだが、出てきたのはICカードだった。夕焼けを背にしたブルーモスクの写真が印刷されている。後で分かったがこれは「イスタンブールカード」と呼ばれ、地下鉄だけでなくトラムと呼ばれる路面電車や、一部のお店でも使えるようだった。いわゆる日本の「パスモ」である。

 僕はイスタンブールカードを使って改札をくぐり、地下に降りた。さすがにメトロは綺麗に整備されていたし、何より乗っている人々が様々だった。イランでは女性はみな真っ黒のヒジャブをかぶっていたので、金髪の女性を見るのが新鮮な気がした。国が変わったのだと実感した。

 路線図に従って乗り換える。やはり「Marmary」は路線の名前だった。自分の勘が冴えていることに心が浮き立った。

 そして、僕はついに「Sirkeci」駅に到着した。改札を通って外に出る。
(ここがイスタンブールか…)
 目の前には今まで通り抜けてきた国とは全く違う、一言で言えばヨーロッパ風の街並みが広がっていた。スクーターは全然走っていなかったし、トゥクトゥクももちろん一台も走っていなかった。石畳の道をトラムが走り、オープンテラスのカフェやレストランが軒を連ねていた。野犬もいない。
 僕は歩きながら湧き上がってくる笑みを抑えることができなかった。ついに来たのだ…。(続きます)

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