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【アジア横断バックパッカー】#62 11ヵ国目:トルコ-イスタンブール 一応の旅の完結、謎の2人組

 情報ノートで見た宿をなかなか見つけられず、道行く人に訊いてやっと見つけ出した。ジュエリーショップの奥に入り口があった。

 値段を尋ねるとユーロで答えられた。ヨーロッパはすぐそこなのだ。とりあえず部屋を見せてもらった。
 部屋は4階だった。広々として、通りに面して大きな窓があいている。5階がリビングになっているらしくそちらも見せてもらった。

 リビングは床にゴザが引いてあり、テーブルが並んで置いてあった。
「テラスもあるよ」
 案内してくれた青年が僕をいざなった。通りに面した側にテラスがあった。
「ほら、あそこにアヤソフィアが見える。ブルーモスクも歩いてすぐだ」
 確かにテラスからはブルーモスクの向かいに立つアヤソフィア宮殿を見ることができた。
 僕はここに泊まることにした。

 2日ぶりのシャワーを浴び、まずは昼食をとることにした。
 曇っていた空は晴れ、日差しが差し込んでいた。路上にテーブルを並べていた店でケバブを食べる。
 宿をとり、食事をする。すべてが少しずつ完結し始めていた。食事を終え、僕はブルーモスクを見るために立ちあがった。

 ブルーモスクへ向かう道は緩やかな登りになっていた。大勢の観光客がその道を歩いている。
 アヤソフィアは見えるがブルーモスクはなかなか見えない。ブルーモスク周辺はどうなっているのか、それすら知らなかった。
 次第に人が増えてくる。坂を登りきるとかなり広い広場が現れ、その向こうにブルーモスクが見えた。僕は息をのんだ。
(あれがブルーモスクか…)
 6本のミナレットと呼ばれる塔に囲まれた、堂々たるモスクだった。素晴らしい眺めだった。快晴の空を背に、ブルーモスクの周囲を鳥が飛んでいる。今まで見たどの建造物よりも僕は圧倒された。
 広場は観光客で溢れ、あちこちで写真を撮っていた。僕はその間を縫ってブルーモスクへ近づき、手近なベンチに腰掛けた。
 ついにここまで来たなあ、と僕は感慨に浸った。本当に来てしまった、来れるものだなと思った。

 旅は一応完結した。

 イスタンブールの街を適当にほっつきまわり、見つけた宿の近くのレストランで食事をした。観光客向けの店で、パスタとビールで1000円近くもかかってしまった。食費を抑える方法を考えないといけない。
 もう一度ブルーモスクを見に行こうと思い、レストランを後にした。8時をすぎていたが、まだ昼間のように明るかった。

 ブルーモスク前の広場は相変わらず人でごった返している。広場を歩きながらぼんやりとブルーモスクを眺めた。涼しくて過ごしやすい気候だった。
 僕の目の前で男の2人組が写真を取り合っていた。僕を見つけるとスマートフォンを差し出し、写真を撮ってくれ、と頼まれた。
 写真ならすでに何回も頼まれていたので快く応じる。2人は写真を確認すると、アヤソフィアの方でも撮ってくれないか?と言って歩き出した。それくらいなら構わない。僕は2人について歩き出した。

 2人は僕と同じくらいの年ごろで、片方はスペイン出身、もう片方は忘れてしまったが近くの国だったような気がする。スペイン人の方がよくしゃべった。
「日本のどこ?」
「新潟だけど、知ってる?」
「ああ、知ってるよ。日本には行ったことがあるからね。僕らは明日ロシアでW杯を見るんだ。今日はトランジットで1日イスタンブールに泊まるから、観光してるんだ。W杯興味ある?カガワ・シンジとか」
 そういえばラホール空港でもW杯を見に行く人がいたのを思い出した。旅中、あちこちでW杯とそれを見る人を見かけた。世界的なイベントなのだと実感する。
「昔日本で働いてたことがあってね」
 スペイン人はさらに話し続ける。
「鹿島建設知ってるかい?」
「ああ知ってる」
「日本にいたころはなんとかマコトって人にお世話になってさ。ドマドマ知ってるかい?よく行ったよ。お酒は好き?」
「うん、よく飲むよ」
「本当かい?よかったらこれから1杯行かないか?ホテルは退屈でさ…」
 スペイン人は手のひらで顔をあおいだ。それが「退屈」のジェスチャーらしい。
「ホテルで良い場所を聞いたんだ。楽しまないと。ライフ・イズ・ショート。ジンセイハ、ミジカイ!」
 変な日本語をよく知ってるものだと僕は苦笑いした。(続きます)

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