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【アジア横断バックパッカー】#65 11ヵ国目:トルコ-イスタンブール 消極的旅スタイルが身を助けることもある

 宿に戻りネットで調べてみると、まあたくさんの「騙されました」「騙されかけました」という記事が見つかった。みな騙されまくっている。僕も大多数のひとりだったわけだ。イスタンブールの詐欺師の多さは有名らしく、特にブルーモスク前の広場は詐欺師で溢れかえっているらしい。観光地とは切っても切れない問題なのだ。

 僕が騙されかけた手口は常套手段らしい。ただ予想に反し、睡眠薬強盗ではなくぼったくり詐欺であるようだ。ついていって一緒に飲むと「いい店を知っているからそこに行こう」と誘われ、別の店へ連れていかれる。店の人間はグルで、とんでもない高額を請求するのだ。連れて行った人間は「断ると何をされるか分からないからおとなしく払おう」と言い、カモに払わせるのだ。

 拒否したらどうなるか。店の奥からコワモテの男が現れてくる。どちらにしろついていった時点でアウトである。
 ネットにはぼったくられた人々の嘆きがたくさんつづられていた。途中で気付いた人は宿に逃げ帰ってベッドに寝転び、ネットで「イスタンブール 詐欺」と検索して震え上がる。僕と全く一緒で笑ってしまう。

 それにしても。僕が恐ろしかった理由は、1組目についていかなかった理由が「面倒くさいから」だったことである。つまりその時点では詐欺を見抜けていなかったのだ。どちらかというとこの点が恐ろしかった。この旅中、僕は「警戒アンテナ」ともいうべきものを常に張り巡らし、向こうから声をかけてくる胡散臭い輩は全て無視していた。バングラディッシュへ向かう時に行動を共にしたスティーブでさえ最初の頃は警戒を解かなかったし、実はブルーモスクへ向かう途中、怪しい兄ちゃんに少しの間付きまとわれていたのだ。常套句である「日本に住んでいた」を駆使する兄ちゃん。そう、僕を騙した2人組もその常套句を使っていたではないか。加えて「鹿島建設」だの「シンジカガワ」だの。なぜ兄ちゃんは無視して彼らには取り込まれたのか。もうこれは彼らの術中にまんまと取り込まれ、警戒アンテナはぽっきりと折られてしまったとしか言えない。

 落ち着くために宿の屋上で温かい紅茶を飲み、体験した手口をノートに記した。2組とも手口や台詞がまったく一緒だったことを考えると、詐欺師グループみたいなのがあるのだろうか。
 もしそうなら、騙されてこう言うのもなんであるが、もっとやり方を考えた方がいいのではないかと思った。皆が全く同じ台詞を言うなんてちょっとお粗末である。一回手口がばれたらおしまいである。

 でも、ついて行っちゃうんだなあ。僕はしみじみと実感した。コルカタの宿の情報ノートに睡眠薬強盗に遭った人の手記がつづられていて「なんでこんな手口に騙されるのよ」と同情半分あきれ半分で読んでいたが、そんな自分もまんまと騙されるとは目も当てられない。今回はたまたま人づきあいを面倒がる性格のおかげで助かったようなものの、もし自分がネットに散見される「旅中に知り合った外国人と意気投合!一杯飲んでます!」というようなガンガン前に行くタイプの人間だったらどうなっていたことか。

「旅と言えば旅先で知り合う人との出会いでしょ!」みたいな積極的な旅スタイルが称賛されがちであるが、消極的な姿勢が身を助けることもあると思うと、まんざらどちらが良いとも言えないと思った。

 そもそも知らない人にはついて行かないという海外旅行の大原則を忘れたのが悪いのであるが。(続きます)

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