【アジア横断バックパッカー】#60 11ヵ国目:トルコ-ドウバヤズット→イスタンブール 旅はただバスチケットを買うだけでも、忘れられない出来事になる
どうするべきか。時刻表で見るとバスが出るまで2時間以上時間があった。外に出てタクシーを捕まえ、近くのATMまで行ってもらい、トルコリラを引き出してまたここに戻ってきてもらう…。そうする以外に方法が思いつかなかった。そうするか…。
だが考えていると、スタッフが意外なことを言った。
「あそこで両替できるんじゃないか」
示された方にあるのは売店兼レストランだった。両替所らしきものはない。
「あそこで両替できるの?」
まあ行ってみろとスタッフが言う。僕はふらふらとそちらへ向かった。
簡易的なレストラン、それにお菓子や水を売っている売店があるだけで、それ以上は何もなかった。そもそもどこに行けばいいのか、誰に訊けばいいのかも分からない。僕はとりあえず奥の方にある何のカウンターなのかはっきりしないカウンターにいた男性に尋ねた。
「なんか両替できるって聞いたんだけど…」
分かりやすくするために50ドル札を見せながら言った。
「ああできるよ。ちょっと待って」
男はカウンターを出て、なんだか物置のような部屋に入っていき、別な男を連れて戻ってきた。
「両替かね、こっちだ」
男に連れられ物置のような部屋へ入った。お菓子などの商品がうずたかく積まれ、木製の引き出しがあった。男は僕から50ドル札を受け取ると引き出しを開けてトルコリラ札を取り出した。電卓をたたき、220リラを僕に渡してくれた。
「ありがとう…」
あっけにとられて外に出た。僕はトルコリラを手に入れることができた。
小走りで先ほどのカウンターへ戻る。リラを見せるとスタッフは頷き、手続きを再開してくれた。
ドウバヤズット発イスタンブール行き、今日11時発、140トルコリラ。
僕はトルコリラを払ってチケットを貰った。青いチケットにはちゃんと「Istanbul」と印字されている。
執念でもぎっとったチケットだった。
同行のイラン人3人が乗るエルズルム行きの方が先に出発だった。バスがやってきて、わらわらと人が乗り込む。
僕は3人と握手して別れを告げた。ほんの半日だったが、行動を共にしてくれた人たちだった。バス代も出してくれたし、パンもごちそうしてくれた。苛立って悪かったなと思った。
若い方のイラン人は別れ際に英語で、今度日本へ行く的なことを言っていた。彼の英語は聞き取りづらかったが、彼も僕の英語はほとんど分からなかっただろう。彼は最後まで笑顔だった。
3人が乗り込み、バスは出発した。
僕はまたひとりになった。
イスタンブール行きバスに乗り込むと僕は思わず苦笑した。座席は2列×2列の4列シートだったのだ。今日の午前11時に出発し、明日の午前10時にイスタンブールに到着するバスなのに、設備は大型の観光バスタイプだった。昨日乗ったバスはまだ1列と2列のシートだった。
しかも一番後ろは5人掛けの横長座席だった。さらに驚いた事に、そこにもちゃんと乗客が座るのだった。独立シートではなくつながった座席。そこで一晩を過ごすのだ。にわかには信じられない。
ほぼ満席の状態でバスは出発した。今朝の事もあってすぐに寝入ってしまう。
何回かサービスエリアで停車したが、僕は特に食事もとらず、用が済んだらすぐにバスに戻るか、バスが見える位置に戻っていた。かなり神経質になっている。隣の席のおっちゃんはサービスエリアで時折チャイをごちそうしてくれた。僕とおっちゃんはサービスエリアの椅子に座り、お互い黙って外を眺めながらチャイを飲んだ。
途中で腹痛が襲ってきて、停車するなり僕はトイレに駆け込むこともあった。トイレに紙はなく、手と水を使うタイプのトイレだったが、僕は何も臆することなく用を足した。大抵の事では驚くことも臆することもなくなっていた。(続きます)
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