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【アジア横断バックパッカー】#51 10ヵ国目:イラン-テヘラン どの国の空港にも白タクはいる

 窓から朝日を反射し、光り輝く海が見える。久しぶりに海を見たなと僕は思った。
 シートベルト着用サインが小さな音ともに消えると、あちこちから金属のカチャカチャと言う音が聞こえる。気の早い何人かはもう立ちあがり、荷物を下ろし始めていた。
 ドーハ空港に降り立つと僕は真っ先にM氏を探したが、結局見つけることはできなかった。

 ドーハ空港は大きく、有名な巨大なクマのぬいぐるみが座り込んでいた。そういえばまだ働いていたころ、短い休みを使ってドーハに行ってみようと思ったことがあったのだ。僕は感慨深く巨大な黄色いクマを見上げた。
 
 テヘラン行きの搭乗口へは空港内のモノレールに乗って行かなくてはならない。とにかく大きな空港なのだ。空港内のあちらこちらに工夫が凝らされていて、僕はきょろきょろしながら搭乗口へ向かった。近未来の映画に出てくるような不思議な建物だ。搭乗まではあと1時間以上ある。僕は荷物を下ろし、ベンチに腰を下ろした。

 ラホール空港で、訳も分からないまま空港スタッフに連れられ、出国審査の長い列に横入りし、荷物検査を通り、まっすぐ搭乗口へと向かった。僕は、なんで乗れることになったのだと僕を連れて行くスタッフに訊いてみたが、やはり英語が聞き取れず、肝心なことは分からなかった。バックパックは飛行機の入り口で別のスタッフが受け取った。離陸まであと10分ほどだった。
 その航空会社は世界的な超大手キャリアで、利用者の満足度も高い。乗る前から少し楽しみにしていたのだが、まったく楽しむ余裕もなく、細切れの眠りの中、ドーハ空港に到着したのだった。

 はっと目が覚めた。いつの間にか眠っていた。テヘラン行きがコールされている。危ない。僕は立ちあがってチケットを手に列に並んだ。

 隣のシートに座ったのは偶然にも日本人の男性2人組だった。40代くらいで、私服姿だった。サラリーマンには見えない。かといって二人でイラン観光というわけでもなさそうだった。どこか地方から出てきたような雰囲気があった。片方の男性はあれこれ機内食やら飛行機についてしゃべっている。どのタイミングでバターをつけるだとかなんだとか。男性はある程度海外旅行の経験があって、知識をひけらかしたいのだろう。僕はうんざりして窓の外を眺めつづけた。
 テヘラン空港に到着すると、まずはアライバルビザの申請カウンターへ向かった。件の男性2人はまっすぐ入国審査へ向かって行った。事前に申請していたらしい。ますます謎である。

 申請用紙はいろいろ記入欄があったが、とりあえず名前だけ書けばいいとスタッフの男性が教えてくれた。男性は片腕の肘から先がなかった。用紙と、ビザ代60ドル、パスポートを提出し、座って待つ。
 ほぼ徹夜状態なので座ったとたん眠ってしまう。寝ているとさっきの男性に起こされた。予約した宿の名前の記入を、と言われ困ってしまう。記憶を頼りに情報サイトで見つけた名前を適当に記入した。

 しばらくすると名前を呼ばれ、パスポートが返却された。イランのビザはどんなものなのだろう。めくってみたがそれらしいものがない。様子に気付いて、真っ黒のヒジャブをかぶった女性スタッフが教えてくれた。
「ノースタンプなの。それで通れるよ」
 スタッフの言う通り、あっさりと入国できた。1階に降りて荷物を受け取り、ビーチサンダルから足首まで固定できるしっかりとしたサンダルに履き替えた。無事イランに入国することができた。一時はどうなるかと思ったが。
 まずは両替だ…。到着ロビーから1歩足を踏み出すと、待ってましたと言わんばかりに男性が声をかけてきた。
「マイ・フレンド!どこまで行くんだい」
 やっぱり来たな、と思った。1階に降りるエスカレーターですでに男の姿は見えていた。男も僕を見ていた。何しろバックパックを担いだ旅行者は僕しかいないのだ。うまくかわしたいところだったが捕まってしまった。
「シティーセンターまで」
「OK!シティーセンターだな。俺の運転するタクシーで行こう!トラスト・ミー!」
「待って、まだ両替をしてないんだ」
「両替か。残念だけど今日は空港の両替所が全部クローズなんだ。タクシーで街中の両替所まで連れて行ってやるよ、マイ・フレンド」
「わかったよ。その前にトイレに行きたいんだけど」
「トイレか。こっちだ、マイ・フレンド」
 男は僕を連れ、一般の利用客が入れないような建物の内部へスイスイと入り込んだ。なぜか空港の施設に詳しいようだ。トイレは逃げる口実ではなく本当に行きたかったので、時間をかけて用を済ませた。男は廊下で待っていた。
「さあ行こう、マイ・フレンド、トラスト・ミー」
 男は僕に先立ち、外の駐車場に向かって歩き出した。イマームホメイニー空港は高地に位置しているのか、辺りは草原と砂漠が支配していた。空港のほかに建物はほとんど見当たらない。(続きます)

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※帰国後、ラホール空港での一件について航空会社に問い合わせたところ「ラホールの出国審査官が勘違いしていた。航空会社は出国審査官の言うことに従うしかなかったのでそのような対応になったのだと思う」という、なんともはっきりしない答えでした。航空会社としても、当時の詳細な状況は把握できなかったのかもしれません。2020年12月現在でもラホール空港発テヘラン行きにはEビザが必要、という記述はありませんでした。

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